第五十三の魔法「ゼロと呼ばれた男」
メギストンは熱気に包まれていた。勝ち残り戦となっている今回の実演では二勝一敗一分と騎士学科がリードしている展開だった。ここからは魔法学科の副将が登場する。これまで魔法学科の生徒も騎士学科の生徒も二年生とは思えないほどの技術の応戦だったために副将への期待は自然に高まっている。
そんな、観客席のなかで最上段に位置する場所に男が一人冷静な態度で闘いを見ていた。その男に近づいてくるのはリエータ先生だった。
「あらあら、こんな所にいたの。随分と探したわよ」
「リエータおばちゃん。久しぶり、あんまり変わってないね」
「そう言うアナタはすいぶん変わったわね。どう、シュルヴィーヴルは?」
「窮屈極まりないところだ。居るだけで寿命が縮むぜ」
「あらそう、ところでゼロ君」
ゼロと呼ばれた男は生返事を返す。
「どう?今年の生徒は?」
「なかなか教え甲斐のある生徒が何人か居るみたいだな。どちらとも甲乙付けがたいが選ばれているだけのことはあると思う」
「そうならよかった。じゃあ、例の話し引き受けてくれるわね?」
その言葉にゼロは嫌な顔を見せた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。それとこれとは別だろ?まだOKしたわけじゃないし……。そう、俺だって意外と忙しいんだぜ」
「あら?この間、任務で問題起こしたそうじゃない。当分は任務に参加できないって、理事長から聞いたわよ?」
「あの野郎…。どんなことでも調べやがって…」
「それに、理事長がこの提案を話してみると良い機会だから是非ってシュルヴィーヴルの隊長さんも承諾してくれたわよ?」
「マジかよっ!」
話をしていると、再び観客席から歓声が響き渡った。メギストンの心臓を見ると先程の騎士学科の中堅と魔法学科の副将が立っている。
「その話はこの実演が終わってからな」
「はいはい」