第五十二の魔法「見えているか、見えていないか」
もう一度、先程の状況を作る。今度は失敗しない。しかし、このロックガーディアン。巨体であるため易々と距離を取ることが出来ない。
仕方ない。これはあまり使いたくなかったが……。
両腕に力を入れる。ソーマの腕が徐々に筋肉質に変わっていく。そして、ロックガーディアンの足に潜り込み、鷲掴みにする。
「ああああああああああ!」
ソーマが力を入れる。
「持ち上げる気か。無駄だ。どれだけ重いと思っている!」
「俺が、持ち上げられるくらいの重さだろ!」
その言葉どおりにロックガーディアンの足は持ち上がった。
「なっ!嘘だろ!」
平衡感覚を失ったロックガーディアンは大きな地響きと共に地面に倒れこんだ。
その場を観客席で見ていた生徒は唖然として言葉が無かった。それは魔法学科サイドだけではなく騎士学科サイド(ケーニッヒを除く)も教職員たちも言葉が無かった。見た目が非力なソーマなだけに驚きは二倍も三倍もあった。
当の本人は何事も無いようにゆっくりと距離を置いた。
「そんな、バカな…」
ロックガーディアンから転げ落ちたアルジェントも急いでロックガーディアンの体勢を立て直す。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。慎重に敵を見極める。目標は胸部のナイフ。先程と同じ感覚だ。いける!
そう確信したソーマは再びスピードを上げてロックガーディアンに向かう。
「倒したからっていい気になるなよ!」
焦りからか、アルジェントには先程の映像が見えていなかった。
見えていたソーマと見えていないアルジェント。勝敗はそこで分かれた。
拳を繰り出す。
それを避ける。
腕を利用して高く飛ぶ。
しかし、前のジャンプと違う。確実にロックガーディアンに向かって飛んでいる。
その時になってアルジェントには先程の映像が見えた。
しかし、すでに遅かった。ナイフ目掛けて勢いよく蹴りを繰り出したソーマ。
ナイフは完全にロックガーディアンの内部に入り込み、そこから亀裂を生み出した。体全体に亀裂が走り、ロックガーディアンは見事に砕け散った。受身もろくに取れずに、アルジェントは地面に叩きつけられた。
「くそ……」
意識が朦朧とするなか、アルジェントは最後の力を振り絞って立ち上がった。
「まだだ、まだ、終わっていない」
指揮棒を強く握り締め、覚束ない足取りでソーマに近づく。だが、ソーマは闘おうとはしなかった。ゆっくりと振り返る。
それを合図にしたかのようにアルジェントはその場に力なく倒れた。そして、光の壁が消えると同時にヴァローナの試合終了を継げる言葉が響いた。