第五十一の魔法「最後の魔法」
四体の人形は形を留めておけず、崩れていく。魔力を注入してくれる術者が力尽きた証拠だった。
終わった。倒れているアルジェントを見て、そう確信したソーマは光の中から理事長に話しかける。
「終わったぞ。さぁ、この光を解け」
「それは、私が決めることだよ。それにまだ終わっていない」
「なんだと…」
かすかに聞こえる物音。振り向くとアルジェントは立っていた。
「理事長の……言うとおりだ……俺は、まだ戦える」
「もうよせ、ナイフで切ったにしても傷口は深いはずだ。その体ではろくに魔法も使えないだろう」
「それは、俺が決めることだ!」
指揮棒を握り締めるアルジェント。最後の力を振り絞り魔力を集中させる。
これだけは使いたくなかった。最悪の場合、暴走を起こしてしまい自分自身でも制御が利かなくなってしまう。
だけど、約束した。必ず勝つと。
指揮棒を地面に突き刺す。地面が徐々に振動を始めた。地震のようにメギストン全体が揺れ始めた。
「貴様、何をしている!」
ソーマは走り出しアルジェントを止めようとする。しかし、アルジェントの下の地面が急激に盛り上がり、ソーマの行く手を阻む。
盛り上がった地面は再び人の形へと変貌を遂げた。先程までの四体の人形の巨大化したような姿だった。頭の部分にはアルジェント自身が乗っていた。
「これが本当に、最後の魔法だ。行くぞ、ロックガーディアン!」
アルジェントの号令と共にロックガーディアンも動き出す。握られた拳はソーマに向けられていた。間一髪で攻撃をかわすが、すぐさまもう一つの拳がソーマを直撃する。
光の壁が無ければどこまで飛ばされていたか分からない。それ位強い勢いでソーマは壁にぶつかった。
「ぐっ!」
膝を付き、殴られた場所を押さえるが、眼光は鋭いままだった。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。慎重に敵を見極める。所詮、大きいだけの敵。攻撃力は高いが、速さは無い。先程のような多段の攻撃だけを気をつければ問題は無い。弱点は……。
ナイフを持ち、ロックガーディアンに近づく。振り下ろされた腕を寸前で避けると、その腕を利用して高くジャンプする。
頭に乗っているアルジェントと同じ高さまで到達したソーマ。しかし、距離は遠い。ソーマは渾身の力を使いナイフを投げる。ナイフはロックガーディアンの胸部に直撃した。しかし、ロックガーディアンには攻撃が効いていなかった。
空で無防備になったソーマに再び拳が襲い掛かる。今度はしっかりと両手でガードしたため、壁にぶつかることなく着地することが出来た。
「無駄だ。このロックガーディアンはどんな攻撃にも緩まない!」
我武者羅に攻撃を繰り出すロックガーディアン。メギストンの心臓自体が強固なため壊れることは無いが凄まじい音と共に容赦ない攻撃がソーマを追い詰める。
「どうするのよ、ソーマの奴。武器も無くなっちゃったし…」
不安そうにそう言うメルキュールに対して何時までも能天気なケーニッヒはこう言った。
「大丈夫、もうソーマの勝ちだ」
「え?」
「見てれば分かるよ」
攻撃を避け続けるソーマだが、その視線はナイフに向けられていた。