第五十の魔法「ソーマという男」
四体の土兵士がソーマ目掛けて走り出す。
アルジェントは他の生徒とは魔法に対する考え方が違っていた。たった一つ、その一つの魔法を極めることが自分にとって最高の魔法になると考えていたのだ。その考えが通じたのか、自分の素質が土であると知った瞬間、土から形あるモノを作り出す「ハトースカーラ」をこの一年間極め続けていた。そして、今では人形を作り出し、自由自在に操るまでに成長していた。
「今年は、優れている生徒は、沢山いるようだな……」
アスワドはただただ、生徒の成長振りに感動していた。目頭が熱くなるほどに。
「なんだ、おっさん。涙もろいのは年寄りの証拠だぞ」
そんなクロにアスワドの拳骨が待っていた。後頭部を殴られたクロは余りの痛さに少しだけ涙が出ていた。
「強すぎるぞおっさん!」
「お前こそ、泣いてないでしっかりと実演を見ていろ。次はお前の番なんだから、無様な真似だけはするなよ」
「あ、そっか……」
バシリスやトラゴスの闘いを見て、良い刺激になったかと思えば。相変わらず能天気というか、緊張しない図太い性格の持ち主だと、アスワドは再認識した。
そんなやり取りをしているうちにアルジェントは四体の人形を駆使してソーマを追い詰めていた。それぞれが違う武器を持つ人形の攻撃を避けるだけで精一杯のソーマ。
そんなソーマの姿を見ていたメルキュールは。
「おい、ケーニッヒ。アイツ勝てるかな?」
「さぁ?」
「さぁって、このまま負けたらヤバイだろ。三戦して一勝もしていないんだぞ。ここらでソーマが勝たないと」
「何とかなるんじゃない」
魔法学科の能天気がクロだとすれば、騎士学科の能天気はケーニッヒのようだ。
「それとも、何か策があるのか?」
「さぁ?」
「あのな、アイツと同じ部屋だろ?何か聞いてないのかよ?」
「別に、何も話してないよ。それに、ソーマがどんな奴かイマイチ知らないし」
「どういうこと?部屋で一緒なんだから何か話せばいいじゃん」
「まぁ、話すことは話すけど…下らない話しかしないのだよね。とにかく、ソーマは謎なんだよ。自分のことは何も話さないし」
「そう、なんだ…」
「もしかして、気になってる?」
「バカッ!」
依然、四体の人形の攻撃をかわし続けているソーマ。最初は、避けるだけで攻撃をかわしていたが、次第に土兵士たちのスピードが増し、ナイフで受け止める場面が増えてきている。
「そいつら土の兵士は俺の手でも足でもあるんだ!攻撃を避け続けれるわけ無いだろ!」
一本一本の指を動かして、四体の土兵士に繊細な動きを命じるアルジェント。土兵士を自分の体の一部として操っていく。
劣勢と思われているソーマだったが、顔色は一つも変えていなかった。
「そろそろか……」
そう呟き、それまで防戦一方だったソーマの目が変わる。目標のアルジェントを見据えると、攻撃を全て回避し、アルジェントに向かって走り出す。
「残念だったな」
再び、両者の前に大きな壁が立ちはだかる。だが、先程と違いソーマは壁など関係ないかのように更に速度を上げた。四体の人形もソーマを追うようにして走った。
(もう少し、もう少し近づいて来い…)
アルジェントは人形の目を通し、ソーマの居場所が分かっている。壁にナイフを突き刺したところを一気に人形で襲わせる。そう計画していた。
ソーマはナイフを使わず、大きくジャンプした。そして、壁目掛けて蹴りを入れた。
「なっ!」
壁は蹴られた場所から中心に粉々に壊れ、無防備となったアルジェントの前にソーマが立つ。
指揮棒を使おうにも使えなかった。四体の人形に魔力を集中させているため、ハトースカーラを使うことが出来なかった。
ソーマはナイフを持ち、構えも取っていないアルジェントを切りつけた。