第四十九の魔法「アルジェント~たった一つを極めし者~」
歓声の中、ガッツポーズを天に向けて掲げるトラゴス。
「トラゴス!」
アルジェントはトラゴスのほうへと走っていった。トラゴスもアルジェントに気付き、笑顔を見せたが、その場で力尽き倒れこんでしまった。
「おい!大丈夫か!」
「無理しすぎちまった…体中いてぇや…」
「まったく、二人揃って無茶しやがって」
トラゴスを起き上がらせ、クロとレクスの元へと歩く。その目の前にヴァローナが現れた。
「今回は勝ち抜き戦だが、トラゴス君。君はもう闘えないだろう」
「まだ……闘えますよ」
「無理はしない方がいい。その体では満足に動くことも出来ないだはずだ。次の闘いは君の棄権ということにしてもうらうよ」
「理事長の言うとおりだぞ。後は俺に任せてくれ」
「…わかったよ。その代わり、負けんなよ」
「ああ、約束する」
「絶対だからな…」
そう言って、トラゴスは目を閉じた。
「トラゴス……」
「安心しなさい。気絶しているだけだ」
アルジェントはレクスにトラゴスを託し、中央へと戻る。次の対戦相手であるソーマはすでに立っていた。
「待たせたな」
「………」
ソーマは無言のまま、アルジェントを見つめる。ヴァローナも中央へと戻り、試合開始を宣言する。
「四回戦、アルジェント対ソーマ。試合開始!」
試合開始と共に指揮棒を持ち、詠唱を始めようとするアルジェント。しかし、対戦相手であるソーマは武器を持っていなかった。
「お前、武器はどうした?忘れたのかよ」
「すでに持っている」
そう言うとソーマは右手を前に出した。武器はしっかりと握られていた。だが、それは武器と呼ぶには余りにも粗末なものだった。
刃渡り15cmほどの小さなナイフ。ソーマはこのナイフしか持っていなかった。
「それが武器だと。ふざけるな!」
アルジェントの魔法は土。豪快に大地を揺るがす魔法には強力な魔法が多く存在する。初級と言えども、破壊力は四属性の中でも随一を誇る。
その一つである「ハトースカーラ」は地面を自由自在に操る初級魔法。アルジェントはこれを使い、ソーマの周りの地面から腕を四本、造形する。四本の腕はまるで意思を持っているように、それぞれが自立的に動いている。目標をソーマに向け、拳を握り、一斉に殴りかかる。
全てがソーマに当たる瞬間、ソーマは大きく身をかがみ、腕の根元を一本ずつ斬っていく。体勢を立て直し、素早く攻撃に転じるソーマ。ナイフをアルジェントに突き刺そうとしたが、二人の間に巨大な岩の壁が立ちふさがる。
「これは…」
巨大な壁の前にソーマのナイフはいとも簡単に弾かれてしまった。その反動で体勢を崩すソーマ。そこに岩の壁から出現した無数の球がソーマを襲う。
防御のタイミングを失ったソーマは直撃を喰らいながらも距離を取る。壁が徐々に崩れ去る。すでにアルジェントは指揮棒を収めていた。
「なぜ、棒を収める。勝負を捨てたのか?」
「ここからがオレの魔法の見せ所だ」
アルジェントは地面に両手を置き、詠唱を始める。すると、地面から大きな土の塊が姿を現した。それは、徐々に姿を変え、やがて人の姿へと変貌を遂げた。それぞれが剣・槍・弓・斧などの武器を構える兵士のような土の塊。
「面白い魔法だな」
「随分と余裕だな。そういうのは、勝ってから言いやがれ!」