第四十三の魔法「開始直前の二つの学科」
無事に入学式も終了したこの日。学園には希望に満ち溢れた新入生たちがシュルヴィーヴルを目指し、学園の門を叩いた。
その次の日。ついに合同実演の時間がやってきた。クロたちは空き教室に集合していた。
「いいか、この実演では日ごろの授業や自身の特訓の成果を見せるいい機会だ。存分に闘ってくれ。それと…」
「どうしたおっさん?何か言うことでもあんのか?」
「その、だな…前に言い忘れたことだが、今回は勝ち抜き戦だ」
「は?」
「その、勝ったら続けてもう一回闘うのか?」
「そういうことだ」
「ふざけるなっ!」
「そうですよ、勝ち抜きなんてまるでゲームだ」
「事前に言っておいて下さいよ先生」
「まったく、モチベーションの下がること言ってくれて」
「本当に」
「ええいっ!うるさい!つべこべ言わずにさっさと行け!」
いきなりの怒声に驚き、五人は急いで会場へと向かう。向かう途中、レクスの肩を数回叩く。
「久しぶりに聞いたな、おっさんの怒鳴り声」
「そういえば…」
「あんな風に怒鳴ってる方が似合ってるってよな」
「確かに」
すこしだけ緊張がほぐれた。いい感じで今日は闘えそうだ。一方の騎士学科サイドでは。
「今日、ついに騎士が優位に立つときが来たのだ!いいか、特訓の成果を存分に見せ付けてやれ!ドッジーナ、お前一人で五人抜きをする勢いで闘え!」
「言われなくてもそのつもりだ。それにつもりじゃねぇよ、絶対だ」
「頼もしいな。よし、もうすぐ時間だ。行って来い、誇り高き騎士たちよ」
ケーニッヒはメルキュールに近づき耳元で囁く。
「やっぱりクロは四番目だ。君も四人目。あっちの大将はレクスだから、上手くいけばレクスとも闘えるね」
「あんたのことだ。どうせ、私が負けると思ってるんだろ?」
「そう見える?」
「やけに嬉しそうだからね。手に取るように分かるよ」
「君には敵わないな」
「お互い様だ」
話している最中、ケーニッヒとメルキュールは後ろから肩を組まれる。
「何?相談事?つれないなぁ、俺も仲間に入れてよ」
話しかけてきたのはアヴァンサルだった。地面に付くような朱色の長髪のため、顔がよく見えない。
「やっと申請が降りたのかい。その武器」
ケーニッヒは上手く話を逸らし、背中の、朱色の髪の間から覗かせているモノに目を移す。白い布で何重にも巻かれたモノはアヴァンサルの身長よりも高く、大きいものだった。
「よく気付いたな!そうだよ、やっと降りたんだぜ。苦労したわ」
「じゃあ、今日がお披露目ってこと?」
「そういうこと、ドッジーナには悪いけど、俺が五人抜きするから、そのつもりでヨロシク」
「聞こえてるぞアヴァンサル!」
「はっはっは。精々がんばれよ。ドッジーナ」
「言われなくても分かっとるわ!お前こそ、その武器使わなくていいようにしてやるよ」
「楽しみにしてるぜぇ」
軽い男だが、実力は本物だ。ケーニッヒとは常に争うように成績上位に食い込んでいる強者。
騎士学科の最強のメンバー。死角は無い。それはメンバー全員が思っていることだった。