第三十八の魔法「女王の願い」
剣を砕かれ、その場に力なく腰を下ろすモンストロ。
「もはや、武器を失ったお前に勝ち目はない。この勝負、メルキュールの勝利だな」
武器を失うということは、騎士学科の授業に参加できないことを意味する。武器の再申請は最低でも一ヶ月近く必要とするため、事実上留年が決定する。倒れこむモンストロに構うことなく、メルキュールたちは訓練場を後にした。
廊下を歩いているメルキュールとケーニッヒ。
「いつまで付いてくるんだい?もうすぐ男子寮に着いちゃうよ」
「ちょっとさ、お願いがあるんだけど…」
「何?」
「今度の魔法学科との実演で、クロと闘うの私に譲ってくれないかな?」
「どうして?」
「さっき先生に見せてもらった魔法学科のメンバーにレクスがいるんだよ。アイツの前でかっこ悪いところ見せたくないからさ」
「でもなぁ、クロとは約束してるし…」
「レクスは…どうもクロのことが気になってるみたいなんだ。私から連絡しても、久々にあっても上の空って感じで…だから…」
それ以上、メルキュールは言わなかった。目が潤んでいるところを見ればこれ以上言うと、泣いてしまうのだろう。
自分の許婚が他の女のことを気にしているなんて誰だって嫌に決まっている。
「わかったよ。先生には僕から話しておくよ」
メルキュールは礼を言い、女子寮へと戻っていった。男子寮に向けていた足をルーウェルの部屋へと向ける。
「何か用か?ケーニッヒ」
「実演のことで、お願いがあって参りました」
「何だ?」
「魔法学科のクロとメルキュールを闘わせて欲しいのです。本人の希望でして」
「ちょうどその順番を決めていたところだ。で、お前はレクスとの対戦でいいか?」
「大丈夫です。ですが、もう一つお願いがあります」
「言ってみろ」
「対戦の形式ですが、勝ち抜け戦にしてもらえないでしょうか?」
「なぜだ?」
「ある生徒と約束事がありまして。その約束を守るため」
ルーウェルは少し考え、ケーニッヒに告げる。
「まぁ、それぐらいの我侭なら許そう。あちらの担当にも話をつけておく」
「ありがとうございます」
「お前だから、許すのだ。しかし、これ以上の我侭は流石に許さない」
「分かりました。では」
教師に対して、これほどまで自分の我を通せるほど、ケーニッヒの実力は高い。選ばれた五人のなかでも、他の四人とは桁違いの成績を誇っている。それゆえに許される我侭なのである。