第三十六の魔法「揉め事」
今にも怒り狂いそうになるのを必死で抑えてルーウェルに詰め寄った。
一年の初めに行われた実演では魔法学科からクロ。騎士学科からはモンストロが選ばれていた。そして、今回。クロは再び選ばれたが、モンストロは選ばれなかった。
ルーウェルは怯えることも、威圧されることもなく冷静に話し始めた。
「お前を選んだのはフィリップだ。フィリップがなぜお前を選んだのか私には理解できなかった。だから、お前を外した」
「ふざけるな!俺がコイツらに劣っているとでも言うのか!」
「そうだ」
「なぜだ!なぜ女を選んで俺を選ばない!」
その言葉を聞いたアヴァンサルは大声で笑った。腹を抱え、モンストロを馬鹿にするように。
「貴様っ!何がおかしい!」
「お前バカか?ザコは消えろってルーウェルさんも言ってんだろ。さっさと消えろ」
「なんだとっ!」
「なんだよ、やろうってのか?あぁ!」
モンストロに近づこうとするアヴァンサルをメルキュールはそっと止めた。
「アヴァンサル、どうやらコイツは私に喧嘩を売っているようだ。女だ男だとか差別している男は大嫌いだからね」
その言葉に納得したのかアヴァンサルはわかったよ、と一言言って後ろに下がる。
その刹那、メルキュールはアヴァンサルの耳元で
「気遣ってくれてありがとう」
と囁いた。アヴァンサルとメルキュール。種族は違うが、昔から仲が良かった。子供の頃は体も弱かったメルキュール。アヴァンサルは不器用な自分なりにメルキュールを気遣ったつもりでもメルキュールにはお見通しだった。
「アンタ確か、モンストロだっけ?要は私がアンタより強かったらアンタも納得できるだろ?」
「そうだ!貴様のような女がなぜ選ばれてるんだ!」
「だったら、闘ってみるか?」
「あぁ。いいだろう」
「先生も許可してくれますよね?」
「許そう。それでモンストロが納得するんだからな」
ルーウェルは拒否しなかった。自分の人選に絶対的な自信があったからだ。