第三十五の魔法「あの漢、再び!」
その日は、騎士学科でも正式に実演の行事が決定された。同じくして選出された生徒が正式に発表された。選出された生徒はルーウェルの作戦により、事前に知っているため、各々ルーウェルの指示によりこの日まで個人で訓練をしていた。周りの生徒から見ればこの日が初めて集合したと思う。しかし、選出された生徒はここから団体での本格的な訓練が始まる。
放課後、ルーウェルの召集命令により選出された生徒が集まっていた。そのなかにはケーニッヒとソーマの姿があった。女子の生徒も選ばれていた。
騎士学科も魔法学科も男女同様に選ぶことは出来る。しかし、騎士は重い武器を扱い、体の至るところに鉄の鎧を身に付ける。それだけ女子の生徒は選ぶことを躊躇うことが多い。
それでも毎年、十数人の女子生徒が騎士学科を選ぶ。単に、騎士に思い入れがある娘も多いが、暗い過去を持つ生徒もいる。
メルキュールもその中の一人。女子が実演の授業に選出されるのは珍しいが、ケーニッヒもメルキュールのことは一目置いている。
「全員集合したか?」
「アヴァンサルが来ていません」
「また、アイツか…。五分だけ待ってこなければ変えるか…」
その言葉に異議を唱える生徒がいた。ドッジーナだ。
「ルーウェルさんよぉ、アヴァンサルには俺が伝えとくから変えねぇでくれないか?」
アヴァンサルと同じクラスであるドッジーナは頭を剃っており、顔に刺青を彫っている、見るからに強面の男子生徒。カノン族であるアヴァンサルは体も他の生徒より一回り大きい。
「私も本気で変えようとは思っていない。ただ、自覚して欲しいだけだ。ドッジーナ、しっかりと伝えておけ」
ウス、と生返事を返すドッジーナ。
「メルキュールも選ばれたんだね。おめでとう」
ケーニッヒがメルキュールに近づく。金色の綺麗な髪を腰まで伸ばし、
「当然だ。私よりも強い生徒なんてここにいるお前たち以外にはありえない」
「相変わらず強気だね。君のように強くて可愛い娘は珍しいよ」
「フン、アンタのお世辞なら聞き飽きた。それに、狙ってる娘がいるんだろ、魔法学科にさ。そっちに精出しな」
「相変わらず、君は鋭いね」
「訓練もしないで逢引してれば嫌でも分かるさ」
「お喋りはそれまでにしてもらおうか。これから新入生が入学するまで一週間。その次の日には本番だ。この実演は特別、成績に関わると言うものではない。表向きは新入生に二年間の成長の過程を見せると言うことだ。しかし、魔法よりも剣の方が優れていることを示すためにこの実演の行うと私は解釈している。いいか!ここでしっかりと魔法よりも騎士が強いことを見せ付けるのだ。ケーニッヒ」
「はい」
「首席のお前がリーダーとして皆をまとめてくれ。私からは以上だ。健闘を祈る」
ルーウェルはそう言って部屋を後にしようとした時、部屋の扉が乱暴に開かれる。大きな音を立てて開いた扉の先を四人は見つめる。
扉の前にはモンストロが立っていた。その顔は一見、穏やかに見えるが、内出る怒りを抑えられないでいるようにも見えた。
「ルーウェル先生。何で俺が選ばれなかったんだ」