第三十三の魔法「クロとケーニッヒの約束」
こんなにドキドキしたのは何時以来かな。ケーニッヒと話していると、充実したような、嬉しい気持ちになる。
「クロ、聞いてる?」
「え?何か言った?」
「だから、女子の制服も着てみたらって、絶対似合うよ」
「嫌だ。そもそも女子の制服なんて持ってねぇ」
「支給されるはずだよ。アスワド先生に聞いてみたら」
「だから、着たくないって」
「じゃあ、もし、クロと僕が闘って僕が勝ったら、女子の制服を着てくれるかい?」
流石に、返事に困った。生徒間での私闘は禁止されている。それも違う学科の生徒となら尚更だ。だけど、授業で闘うことになるなんて滅多にないはずだ。モンストロと闘って以来、騎士学科との共通授業なんて一回もなかったから。
「いいけど、その代わり俺が勝ったら一つだけ言う事聞いてもらうぞ」
「わかった。交渉成立だね」
そう言ってニッコリとケーニッヒは笑った。
この時、私はケーニッヒの笑顔の意味を本当に理解していなかった。
ケーニッヒが騎士学科の宿舎に戻ったとき、入り口に一人の男がいた。
「また、会いに行っていたのか?」
「まぁね」
男の名はソーマ。長い黒髪を一つに結っている目つきの鋭い男。
「あんまり思い入れするな。でなければ闘うとき辛いぞ」
「心配要らないよ。それともソーマは僕が魔術師に情けを掛けると思っているのかい?」
「そうだな。あと一週間だが、調整は済んでいるのか?」
「僕はいつでも万全だ。調整の必要はないよ」
騎士の間では魔法学科との実演の行事のことは耳に入っている。ルーウェルが騎士学科の生徒に話したのだ。正式に行事は決定されていないが、理事長が発端の行事は絶対に行われる。
ルーウェルはすでに何人かの優秀な成績を誇る騎士の生徒に声をかけている。もちろん、勝つつもりでいるからである。早く動けばそれだけ生徒自身のモチベーションも上がると予想していたためである。
アスワドはまだ魔法学科の生徒には話していない。一応正式に決まってから生徒には話そうと思っているらしい。