第三十の魔法「不良少女のイメチェン」
その日からクロの夜の特訓には必ずと言っていい程、ケーニッヒは来ていた。
何でいつも来てるんだ、と言ったクロに対して
ヒマだからね、と言ってくる。
クロもいつしか、ケーニッヒが来るのが当たり前になっていた。そんなある日のこと。いつものように特訓も一段落ついて近くのベンチに腰を下ろしていたとき、ケーニッヒはクロの顔をじっと見つめていた。
「な、なんだよ。何か付いているのか?」
「クロはいつも帽子被っているけど、それもお兄さんの形見なの?」
「そうだよ」
そう言った途端、ケーニッヒはクロの帽子を取り上げた。クロの黒い髪が夜風に靡く。
「やっぱり、綺麗な髪だね。手入れとかしているの?」
「アンタに関係ないだろ、早く返せよ」
「髪型変えてみたら?例えばポニーテールとか」
やっぱり調子が狂うとクロは思った。こっちの話などお構いなしに話を進めてきている。
「だから、そんなの俺の勝手だろ!」
ケーニッヒから帽子を取り上げ目深に被り、ベンチから立ち上がる。
「じゃあな」
クロはそのまま宿舎へと向かった。しかし少しだけ歩いて、クロはその歩いた分だけ戸惑っていた。
いつもなら、さよならとか声をかけてくるのに…。
振り返ってみると、ケーニッヒはこちらを向いていた。帰る素振りなど見せていなかった。まだ一緒にいたいと言う様に。
ケーニッヒは笑いながら手を振り
「また、明日ね」
そう言われたが、何も言い返さずクロは足を進めた。自分が思っていることと同じことをケーニッヒも思っていたと感じたから。
そう思うと恥ずかしくなって何も言えなかった。
こんな風に誰かと一緒にいたいと思ったことはなかったから、クロは少しだけ嬉しかった。
次の日、魔法学科のBクラスではちょっとした騒動が起きた。いつも、帽子を被って、髪に関して全く興味が無いように見えたクロが、この日だけは違った。
帽子は被っておらず、髪型もポニーテールに変えていた。
「どうしたの、何かあったの?」
「べ、別に!何もないけど…」
サフィラが言い寄ってきても、マルグリットが何を言っても本当のことは言えなかった。
ケーニッヒの言葉が気になったからとは。
この日一日、魔法学科二年生、特に男子生徒の間でクロの評判が上がった。
ある男子生徒は
「髪を上げたら、顔がよく見えて実は綺麗なことに気付いた」
と言い、とある男子生徒は
「可愛さと格好良さを兼ね備えた美しい顔立ちだ」
この日、クロを廊下で見かけた生徒、口で伝わった生徒もBクラスにいるクロを一目見ようと集まっていた。
~あとがき~
いつのまにか「剣と魔法と不良少女」も三十話目に突入してしまいました。長かったような短かったようなそんな気持ちです。
気が付けばお気に入り登録も10件に到達していました。初の二桁で嬉しい限りです^^
さて、物語の方ですが、三十話と致しましてクロにちょっとした変化を付けてみました。女を捨てていると言ったクロでしたが、ここに来てようやく女の子としての部分が目覚めはじめています。自分的にも何をしていいのやら分からないのが現状です。
とまぁ、長話もここまでということで。