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第三の魔法「学科一の劣等生」

 職員室ではアスワドが机で次の授業の準備をしている。後ろからアスワドに近づく一人の教師。名前をフィリップという。魔法学科と対になる騎士学科の一年主任。


「アスワド先生。少しいいですか?」


「何ですか?」


「前々から話している合同実技訓練の実演なのですがね」


「そのことですか、もう候補は決まっていますが」


 二人の話は二日後に行われる魔法・騎士両学科の生徒が合同で授業をする合同実技訓練の最後の演習である実演に出す生徒を決める話であった。アスワドは当然、レクスをと決めていた。


「いえいえ、そちらの代表がクロということで決定しましたので」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。何で勝手に決めているんだ」


 前回の話し合いでは代表候補を次までに決めるというものだった。しかし、フィリップは話など関係なかったかのようにクロを代表にした。


「そう言われましてもこちらの代表も三年の主任が決めてしまいましたので。異論があれば直接、そちらの三年の主任に話して下さい」


 言い終わるとフィリップは自分の机へと戻っていった。やり場の無い怒りを込め、机を叩くアスワド。合同実技訓練に選ばれたクラスはクロのクラスだがクロを選ぶ理由は無い。万が一にもその可能性は無かった。

あのクラスにはレクスがいる。この合同実技訓練は魔法学科と騎士学科でどちらが優れているかを競う目的もある。クロをどんな理由で選んだのかを知るため、アスワドは三年の学年主任の元へと向かった。




 午後の授業は実技を兼ねた「魔法」を扱う授業だった。


「今日は、魔法について説明しますね」


 初老を迎えたリエータ先生は物腰柔らかく説明を始める。


「現在、開発されている魔法は四種類。ご存知の通り、地・水・火・風です。この魔法学科にいる生徒にも必ず素質はあります。皆さんも早く素質を見つけることが魔術師への道に近づくことになります」


 リエータ先生は説明を終えるとある実験道具を取り出した。丸く光る水晶やフラスコの数々を教卓の前に並べていく。


「では、この道具を使ってある実験をします。では、クロさん。前に来てくれますか?」


 今日はついていない。午前の授業だけでなく午後の授業でも当てられるとは。リエータ先生の授業ではよく当てられているから嫌な予感はしていたが。諦めたようにため息をつき、教卓に進んでいく。ふと、何人かの生徒から小さな笑い声が聞こえる。理由は知っている。リエータ先生の授業では実験は失敗するし、問題も正解したことは無い。


「じゃあ、今日は皆にどの魔法の素質があるか調べようと思います。実は皆さんにはもう、どの魔法の素質が自分にあるのか知ることが出来るのです。この二ヶ月、私たちの授業を受けたことで皆さんの体の中には無意識に素質が生まれているんですよ」


 その言葉で生徒の間で喋り声が聞こえてくる。自分がどの魔法に属しているのかは魔術師を目指す者として、最も大事なことの一つだから。


「クロさん。その水晶を持ってくれる?」


 言われるがまま水晶を手に持ってみる。水晶からは不思議なエネルギーを感じる。


「その水晶に力を込めてみて。それでクロさんにどの素質があるのか解るわ」


 水晶に力を込める。次第に水晶の色が変わり始める。


「青なら水、茶色なら土、緑なら風、赤なら火を指すわ。もうそろそろかしら」


 しかし、水晶の色は未だ決まっていなかった。様々な色に変わっていく。そして、水晶が真っ黒に染まった。


「え?」


 私は目を疑った。リエータ先生から聞いたどの色にもならなかった。最も醜い黒色。綺麗に輝いていた水晶はまるで鉄の塊にでもなったようだった。

 次の瞬間、水晶が粉々に砕け散った。


「これはどういったことかしらね」


 最初に力を込めて以外、一切力は入れていなかった。ただ、軽く持っていただけなのに。


「まぁ、しょうがないわ。個人差はあるもの。落ち込まなくても良いわよ」


 私はその言葉を聞く前に自分の席へと戻っていった。


「じゃあ、皆も実験してみましょう。水晶じゃないけど同じ性質の結晶石を前から順に配りますよ」


 皆、配られた結晶石を手に取り、力を込めていく。


「私の青色だ」


「オレは赤色になったぞ」


 自分以外の生徒がそれぞれ実験を成功させる。自分の魔法の素質を知って喜んでいる。誰も、自分のように失敗する人はいなかった。配られてきた結晶石も水晶のように黒く染まり、粉々に散っていった。


「色が付いた人から順番に持ってきて。次の実験に移るから」


 その後、どんな実験をしたのかは知らない。クラスの雰囲気に耐えられず、教室から出て行った。

魔法も使えない。実験すらまともに出来ない。自分が嫌いになる。

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