第二十六の魔法「クロの魔法」
次の日呼ばれたときはレクスも一緒にいた。この黒い力を見たときにレクスもいたからだろう。
「今日はクロさんの力の改善策を見つけました」
ヴァローナはすでにレクスに話はしているようだ。
「本当ですか?」
「えぇ、それを今から実行に移します」
「しかし、もうすぐ朝礼の時間ですよ。早く行かなければ…」
「だからいいのですよ。ロッソ先生、貴方にも協力してもらいますから」
「はぁ…」
ロッソを含め、他の五人もヴァローナの言っている事が理解できなかった。ただ、策はあるとだけ言ってロッソとクロを残し、他の三人を朝礼へと急がせた。
朝礼は十日毎に学園の大広間で行われる。生徒全員が集合し、校長の長い話を聞くだけのどうでもいいモノだった。しかし、今日だけは雰囲気が違った。
生徒の前に現れたのは校長ではなく理事長だった。
「皆さん、今日はとても嬉しい知らせがあります。なんと、新しい魔法を見つけた生徒が現れました!」
会場はどよめき、生徒だけではなく教員も慌しくしていた。しかし、誰よりも驚いていたのはクロだった。
「おい、ロッソ。もしかして……」
「お前の力をこういう形で公表するのだろう。まったく、理事長も人が悪い」
「大丈夫か?こんな簡単に言って…」
「まぁ、あの人も考えがあってのことだろう」
「さぁ、その素晴らしい生徒を拍手で迎えましょう!」
すっかり盛り上がった理事長に続いて生徒も拍手で迎える。
「行って来い」
渋々、壇上に上がるクロ。クロが現れたことに皆、不審に思っていた。特に一年の生徒に騒ぎは起こっていた。
なんで、あの落ちこぼれが?
なんで、あんな不良女が?
皆、考えていることは一緒だった。クロのような生徒がなぜなのだ?まったく理解できていなかった。
「クロさんは、前の野外授業のとき、偶然魔法の元を見つけたそうです。では実際に見せてもらいましょうか」
「え、でも……」
「大丈夫ですよ」
ヴァローナは小言でクロに呟く。ロッソもヴァローナには考えがあると言っていた。ならそれに賭けてみよう。なんせ、この学園の理事長なのだから。
言われたとおり、黒い力を発動させた。手が黒く染まると、生徒はその黒い力を食い入るように見つめていた。
「なんだあれ?」
「どんな魔法だよ」
「なんか、今までの魔法と違うような」
「すごく特殊だよな」
生徒の声もすごかったが、私自身は恥ずかしくて堪らなかった。
「クロさんはこの魔法に自分の名前を込めて『クロ魔法』と名付けたようです」
「は?」
その一言はあっという間に生徒の声にかき消された。更にヒートアップする会場と同じように私の顔も真っ赤になった。
いきなり何を言い出すのか。自分で決めていないのに勝手に決められてしまった。しかも『クロ魔法』って…。
ちょっと良いかも。
「この力は、クロさんにしかない特別な力のようです。魔法学科の皆さんはクロさんのように自分だけの魔法を発見できるように、騎士学科の皆さんはクロさんに負けないように今以上に勉学に励むように」
そう言い残し、ヴァローナは壇上から降りた。クロもそれに続いて隠れるように壇上から降りた。