第二十四の魔法「クロVSエテレイン~急~」
「もう……やめて……」
泣き崩れているクロをエテレインは強引に起こす。
「協力しないのならお前を殺し、オレがその力を手に入れる」
手に力を込め、クロに魔法を放つ。すでにクロの体から黒い力は出ていなかった。地面を転がり、ローザの元まで飛ばされるクロ。力なく呻き声を上げるクロ。すがるように、ローザに手を伸ばすクロはただの女の子だった。
「ローザ………」
頬に手を添える。ふと、ローザが目を覚ます。そして、目の前にいるクロを見る。
「大丈夫!クロちゃん」
手足が縛られていることに気付かず、クロに近づく。足をつまずかせ、転倒するローザ。
「酷い……こんなに傷だらけになって……」
自分も傷ついているのにクロのことだけを気にしているローザ。それを見たクロはまた、大粒の涙を流した。
「どこか痛いの?クロちゃん……」
「ちが…うの……」
嬉しかった。エテレインの言葉で少しでもローザのことや、サフィラのことを軽く見ていた自分が情けなかった。
ローザを、自分の大切な友達の存在を確かめる為にもクロはぎゅっとローザのことを抱きしめた。
「その女共々、死ね…」
エテレインは右手に渾身の力を込めて上級魔法を放つ。全てを切り裂く上級魔法「ヴァン・パルフェ」は大きな渦を巻き起こしクロとローザを包み込んだ。徐々に小さくなる渦の中で身を切られているだろうクロをじっくりと待つエテレイン。
しかし、風が消えていく。エテレインの意に反して。そして、風の中から黒い力を纏ったクロが姿を現した。
「な………」
クロは、笑っていた。先程の涙はとうに枯れていた。
「分かったんだ。アンタの言ったこと」
「なんだと?」
「憎む気持ち。それがこの力を生み出す。だけど、単に憎むだけじゃない。守りたいものがあるから、それを邪魔する奴を憎むんだ。自分勝手に人を憎むんじゃなくて、守りたいものを守る為に、私はこの力を使う」
クロは胸に手をあて、そっと目を閉じる。
「そう、教えてくれたから……」
クロは風に包まれた刹那、以前心の奥から聞こえた声が、静かに語りかけてくれた。
憎め、守るために。
微かに聞こえたわけじゃない。しっかりと耳に響く声が心の奥から聞こえてきたのだった。
「もう一回言うぞ、覚悟は出来ているか?」
「ふざけるな!勝つのは俺だ!」
クロはエテレインが魔法を放つ前に、手を伸ばす。クロの手から黒い何かがエテレインに向かっていく。それは手の形をしており、エテレインを掴む。
「!なんだ、これは…」
クロが手を握ると、エテレインを掴んでいる手も同じようにエテレインを握る。その力はエテレインでも振りほどくことが出来なかった。
この、黒い力、全てを滅ぼす力。たとえ、それがヒトであろうと。クロの握った拳の先、すでにエテレインの姿は無かった。黒い力により、エテレインという存在自体がこの世界から消えた。
クロに罪悪感は無かった。エテレインは悪。そう言い聞かせていた。