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第二十三の魔法「クロVSエテレイン~破~」

 体が軽い。気分もいい。あんなに嫌だった黒い力が私の体に、心に馴染んでいる。何でも出来るように思えた。もちろん、エテレインを倒すことも簡単に出来そうに思えてくる。

 エテレインの繰り出す剣も、魔法も、難なく避けるクロ。次第に焦りを見せ、上級魔法を使い続けるエテレイン。

 上級魔法は高威力のため、術後に隙が生じやすい。その隙はどのように魔法を極めても絶対に生まれる。

 闘いに慣れていないクロに対して、エテレインは上級魔法を使い、一気に勝負をつけるつもりでいた。

 しかし、クロはその隙を見逃さなかった。数m距離を取って魔法を回避していたクロは一気にエテレインの懐に飛び込む。そして、腕を振り上げ、掌底を顎に当てる。体が宙に浮くエテレイン。追うようにしてクロも飛び、追撃の蹴りをエテレインに喰らわす。エテレインは防御する間もなく後ろの壁に叩きつけられる。

 軽い脳震盪を起こし、眩暈もする。エテレインはクロを素人だと油断した。そして、自分が学園で一番強いと自負する、その慢心によって起きた結果である。


「なぜだ………なぜ勝てない」


 エテレインの読んだ書物には力を取り除く方法しか書かれていない。その方法はただ一つ。黒い力を持つ者を殺すこと。殺すことで黒い力は宿主を失い、元の宿主を殺した者を新たな宿主とする。黒い力に関してはこれしか書かれていなかった。こんなにも黒い力が強力だとは知らなかった。グリズリーを殺せる程度の力だと、甘く見ていた。

 足にまでダメージが及んでいる。やっとの思いで立てたエテレイン。


「くそ、貴様を殺して……全てが上手くいくのに………」


「どういうことだ?」


 遠く離れたクロはエテレインの言葉を逃さなかった。そして、エテレインは異常なまでの聴覚の良さも黒い力のものだと知っている。


「その力だ、その力を我が物にするためだ!」


 クロの持つ黒い力は身体能力を急激に向上させるだけではなく、五感の神経も限界まで研ぎ澄ます。そして、全てを滅ぼす力。


「一体なぜ、この力にこだわる?」


「俺の真の目的………。オレはお前を殺す。そして、その力を手に入れる!」


「なんで、そんなことを……」


「お前にもわかるだろう!種族を皆殺しにされたお前なら!」


「どういう……ことだ」


「オレの種族もお前同様に始祖と呼ばれる魔物に殺された種族だ。名をアルマース族といった」


 そこからエテレインは静かに自分のことを話し始めた。


「アルマース族も始祖と呼ばれる魔物に襲われた。しかし、お前達、ヒュム族を襲った魔物と違う魔物だ」


「どうしてわかる?」


「全てはここにあった一つの書物に記されていた。お前達ヒュム族はエトワールと呼ばれている魔物。アルマース族はメルオースと呼ばれる最古にして最強の魔物に、それぞれ襲われた。一瞬だった。一瞬で田畑が燃え、家が無くなり、人も死んだ。立ち向かおうとしたが傷一つ付けられず、アルマース族は全滅した」


 クロは話を聞きながら、自分の事と照らし合わせていた。同じ境遇にいる人


「だが………」


 不意に、声を震わすエテレイン。拳を握り締め悲しみにも怒りにも似た顔をしている。


「他の種族は……助けに来なかった!助けを呼んだにもかかわらず……無視をされた!今ものうのうと生きているプレミア族は…自分たちかわいさに同じ志を持つ種族を見殺しにしたのだ!」


「そんなの、俺たちだって同じだ!」


「違うっ!ヒュム族には助けが来たのだ。だからこそ、お前はこの都市にいる。覚えていないだろうが………オレがお前を助けたのだ」


「ウソ……」


「本当だ。もう、アルマース族と同じ目に会って欲しくなかったから、ただ結果は変わらなかった。お前以外を助けることが出来なかった」


 一つ、呼吸を置き、冷静になるエテレイン。


「だからこそだ。お前の力はエトワールが残した最高の力だ。エトワールはお前に種族を殺して欲しいと願っている。お前さえ良ければ、二人で復讐をしよう」


「ふざけるな!この力をそんな……友達を殺すようなことに使いたくない!」


 エテレインは高らかに笑った。まるでクロの言葉を嘲笑うかのように。


「友達だと……お前は所詮一人だ。種族の違いはいずれ友情を壊すことになる。お前には誰一人、本当の友達など出来ない!あそこにいる女も、クラスの奴らも全員、本心ではお前のことを恐がっているに違いない!」


「やめろ、やめろやめろやめろぉ」


 クロは首を振り、エテレインの言葉を否定するように叫ぶ。エテレインは徐々に近づく。


「グリズリーを殺した奴などと、誰が友達になるか!」


 その言葉を聞いたクロは静かに涙を流した。入学からずっと強がってきて、それでも切れない様に頑張って、友達も出来て、もう苦労することも無いと思っていたのに………。全てが無駄になるようにして糸は切れた。

 クロはその場に泣き崩れた。今まで、誰にも見せたことの無い涙。甲高い声で泣き叫ぶ。今までずっと女を捨ててきたクロ。独りになったときから、昔の自分は皆と一緒に死んだ、そう誓ってずっと男の格好までして頑張っていた。


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