第二十二の魔法「クロVSエテレイン~序~」
ロッソの思いとは裏腹にクロは部屋にはいなかった。ある一枚の手紙を握り締めながら、手紙に記された場所を目指し、走っていた。
幸か不幸か、走っている最中、職員と出会うことはなかった。
目的地は資料室。普段から利用したことのないクロでも中の異変に気付いた。血の匂い。崩された本棚。
「よく来てくれた、クロ」
クロの目の前にエテレインが立っていた。
「手紙のこと、本当なんだな?」
資料室の異変など聞かずにエテレインに話しかけた。クロの持っている手紙を出したのはエテレインだった。
「付いて来い」
それ以上を語らず、エテレインは地下に続く階段を下っていく。それに続くようにクロもまた、エテレインの後を追う。
暗く、じめじめとした空気。いるだけでも吐き気をするくらい気持ち悪い雰囲気。
「本当に、私の黒い力を取り除いてくれるのか?」
クロに届いた手紙の内容はこうだった。
『お前の持つ黒い力。それを取り除く方法が見つかった。資料室まで来い。 エテレイン』
この手紙を見て、クロは深く考えなかった。なぜ、エテレインがクロの力を知っているのか、なぜその力を取り除く術を知っているのか。グリズリーを殺したことがクロの心の中に焦りを生んだ。自分が自分でなくなる感覚。それが恐かった。暗闇にもたらされた小さな一筋の光に導かれるようにエテレインを頼った。
「確かに、お前の力を取り除く方法はある。だが、その前にある話をしてやる」
「ん?」
「昔、始祖と呼ばれる全ての魔物の頂点に立つ魔物が存在した。その魔物はこの世界、ヴェスパルを魔物のみの世界にするべく種族を殺戮していた。そして、ある一つの種族との対立で事件は起こった。その種族はほとんど殺されたが、その種族を殺そうとした始祖の魔物もまた、深く、致死に至る傷を負った。しかし、魔物も始祖と呼ばれるだけのことはあった。最後の力を振り絞り、生き残った一人の少女に自分の力ともいえる全てを強引に与えた」
話を聞くにつれ、次第にエテレインが何を言いたいのかが分かっていた。
「それって………まさか」
「クロ、お前のことだ。お前の種族、ヒュム族を殺した魔物がお前に取り憑いている。それが、黒い力の原因だ」
「なんで、そんなこと知ってるんだよ」
「この地下に置いてあった一つの書物に記されていた。そして、お前の力を取り除く方法も……」
エテレインが指を鳴らすと、それに反応するように辺りに火が灯った。今まで暗く見えなかったが見たことのある人を見つけた。
「なんでローザが?」
ローザは気を失っているようで、手足を縛られ倒れこんでいる。
「お前の黒い力の原動力、それは『憎悪』という不の感情。お前が憎悪に染まったとき、その力は発現する。そして、その時こそ、お前から力を取り除く唯一の時間だ。そのための、生贄だ」
「生贄だと?」
「そうだ、この子には悪いが、死んでもらう」
「ふざけるな!」
「仲の良い友人が死ねばお前の憎悪の感情は最高潮に達する。その時しか取り除くチャンスは無い」
「黙れ!黙れ!そんなことでしか消えない力なら消えなくたっていい!」
「お前の力は、この友人だけでなくいずれ学園にも害になる!今のうちに取り除くべきだ。そのための犠牲と思え!」
エテレインは剣の切っ先をローザに近づける。切っ先がローザの胸元に届き、血が流れ落ちる。
「止めろ……」
クロの手が徐々に黒く染まる。指先から徐々に侵食していく黒。ただ、クロは今までとは違うように感じた。
エテレインもクロの手が染まっているのに気付いた。もう一押し、そう思い、一気に剣を下ろそうと力を込める。
「うっ!」
エテレインの手に衝撃が走る。何かが直撃し、持っていた剣が飛ばされる。クロは人差し指を立て、目の前のエテレインに向けている。クロは顔だけを残し、全てが黒く染まっていた。
「エテレインだっけ………覚悟は出来てるんだろうな?」
エテレインは飛ばされた剣を取り、呪文を呟く。
「覚悟だと、それはオレの台詞だ!」
大気から生み出された真空波がクロに襲い掛かる。クロは右手を広げ、前に突き出した。エテレインの作り出した真空波はクロの右手に吸収されていった。
「な……」
全てを吸収し、手を握り、再び手を広げ、突き出す。クロの手から吸収した真空波が生み出される。真っ黒に染まった風となって。
「くっ!」
エテレインは真空波を喰らって、あることを感じだ。自分の魔法と同じ素質であると。