第二十の魔法「フィリップの残したメッセージ」
今朝早くから先生の動きが慌しい。どうやら緊急の会議が続いているらしく、授業は自習になった。まぁ私には関係のないことだった。
この前の授業で、グリズリーを殺したということで謹慎処分を受けている。私自身は全く覚えがないけど、レクスが証言したらしい。あの時は、レクスだけが正気を保っていたらしく、レクスもマルグリットも同じように謹慎処分を受けている。
今は一人でいる方がいいかもしれない。私は何も考えずにベッドで二度寝をすることにした。
職員室ではまた、会議が開かれていた。フィリップが死んだことに対して開かれたものだった。死因は剣が体を貫通したことによる傷。現場の資料室には大量の血が流れていた。しかし、直接の死因ではないが魔法による攻撃も確認されている。つまり、犯人は魔法・騎士両名による殺人だとされている。このとき、学園にいる者も、調査に来たジュルヴィーヴルの検査官でさえも、魔法騎士による犯行だとは考えなかった。
魔法騎士とは、魔術にも騎士にも精通したエリートのこと。しかし、ユートピア学園には魔法騎士は存在しない。カリキュラムはあるが、それに見合った生徒も、教える職員もいないため、事実抹消されているカリキュラム。
そのため、二人組みによる犯行とされ、単体での犯行は考えられなかった。
思わず笑みがこぼれる。他の教師のくだらない推理ごっこも愚かな憶測も笑いにしかならなかった。たとえ、シュルヴィーヴルの検査官でも知る筈はあるまい。
会議が終わり席を立つと、声をかけられた。
「エテレイン先生、ちょっといいでしょうか?」
話しかけてきたのは理事長のヴァローナ。ここでは要件を告げず、付いて来て欲しい、と言われ職員室を後にする。
「なんでしょうか?」
連れてこられたのはフィリップの死んだ資料室。事後処理は済んでいるが、まだ血の匂いも跡も残っている。気持ち悪い場所だ。
「犯人のことですが、何かご存知ですか?」
「いえ、私は何も。そのために呼んだのなら……」
「フィリップ先生が以前、私にある相談事をしていましてね。貴方のことで」
「どういうことです?」
「貴方が、クロという生徒を始末しようとしているということを聞きました」
まさか、フィリップが他言していたとは。それも理事長に。面倒なことになった。
「それが、フィリップの殺人と何か関係があるのですか?」
フィリップを使って始末させようとしたのは確かだが、それがフィリップの死と関係性はない。よって自分が犯人になるなどあり得ないことだった。
「相談事をされたときに私はフィリップ先生にある約束をしました」
「約束?ですか」
「ええ、もしエテレインが貴方に危害を加えた場合、すぐに私に伝えると。そして、フィリップは貴方に殺されかけ、最後の力を振り絞り、私にメッセージを残しました」
ヴァローナは血の残ったある場所を指差した。何かが這ったようにして、線が引かれていた。
「これはエルフ族にしか伝わらない文字です。幸い、私もフィリップ先生もエルフ族。貴方にはこれが理解できない筈です」
言葉が無かった。完全に殺しておらず、メッセージを残していたとは。地下に続く階段を見たときに油断してしまったようだ。
「この文字はひどく汚いですが、確かに『エテリエン』と書いてあります。もう諦めて罪を認めたらどうです?」
まだこちらにも手はある。
「ですが、私は騎士です。私がどうして魔法を使えるのです?犯行は魔法と剣による攻撃ですよ?そこの証明をして欲しいものだな」
「実は、残したメッセージには貴方の名前以外にもう一つメッセージがあります」
「は?」
「『魔法騎士』と書いてあるのですが、貴方まさか……」
「あの女は、必ず学園に害をもたらします!今の内に始末するべきなのです!」
ヴァローナの言葉を遮る。
「教職者の言葉とは思えませんね、エテレイン」
もはや、言い逃れは出来ない。もう少しで全てが完成するというところで、やはり、フィリップなどに頼むべきではなかった。
しかし、地下で見つけたある書物。後は自分一人でも出来ることのみ。
「っ!止まりなさい!エテレイン」
今は捕まるわけにはいかない。窓を蹴破って外へと脱出する。
「バカな……」
資料室は三階。ヴァローナは窓から身を乗り出し、下を見る。しかし、エテレインは姿を消した。
エテレインは騎士のはず。一瞬で姿を消すなど、魔法による力がなければ出来ない。フィリップの残したもう一つのメッセージも真実だったとヴァローナは確信した。
『エテレイン・魔法騎士』
ヴァローナは資料室を後にして、職員たちを再び呼び掛ける。