第十六の魔法「森での異変」
奥の方の広い場所に、魔物とマルグリットがいた。マルグリットは腰が抜けており、魔物が目の前にいるのに呆然とし、顔は恐怖に染まっていた。
「なんだありゃあ?」
「あれは、グリズリー。なぜこの森に……」
「助けないと!」
グリズリーは叫び、手を大きく上に上げ凶暴に伸び切った爪でマルグリットに襲い掛かろうとする。
「いやあああああああっ!」
悲鳴を上げるマルグリットの元へ走る。逃げることなど考えなかった。
間一髪のところマルグリットを抱えて、助けることが出来た。だけど。
「う、うあ……」
肩に激痛が走る。肩から大量に血が流れている。触ってみて血の生暖かさがキズの深さを実感させられる。
「なんで…私を助けたのよ!あんたに酷いことしたのに…。ねぇ!なんでよ!」
「……大切なクラスメイトだから………」
その言葉を聞いたマルグリットは涙を流した。自分に酷いことをした人を自分が傷ついてでも助けたクロ。サフィラが言ったことだと真に受けず、周りの噂だけを信じて、自分で判断せずに、そのことを今になって後悔した。
すでに授業の終了を知らせる鐘の音が学園から聞こえてから数分が過ぎた。まったく、何をやっているんだ、あの三人は。今回はレクスと一緒だから大丈夫だと思っていたが、クロめ、また何かトラブルでも起こしたのか?
クロ・レクス・マルグリットの三人だけが戻ってきていない。幸い、この森に魔物はいない。
「先生、探した方が良くないですか?」
「ん、そうだな。じゃあ探すか」
面倒になる前にさっさと探すか、まぁ別に焦る必要も無いだろう。どうせ迷子にでもなったのだろう。
森に入ろうするロッソの耳に悲鳴が聞こえる。女の声、まさかクロかマルグリットに何かあったのか?……多分マルグリットだろう。クロがあんな声を出すわけが無い。しかし、ただごとではない悲鳴だった。
「先生!今の悲鳴…」
「お前たちは学園に戻っていろ!」
走るロッソの後ろをサフィラとイーリスが後を追って走ってくる。
「付いて来るな!戻れ!」
「さっきのマルちゃんの悲鳴です。マルちゃんに何かあったら…」
そう言ったイーリスは泣きそうだった。
「分かった、分かった。はぐれるなよ」
まったく、女の涙ほど恐いものは無いな。