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依存  作者: 橘蒼良
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第六章 「限界」

ついに家賃までもが払えなくなってしまった。

「1、2、3 … だめだあと2枚足りない。

500円玉を数えていた兄がそう言った。

「ごめん」

 申し訳なくて兄の方を見ることができずに、俯いたまま言った。

「䙥が謝ることじゃないよ。俺がもっと働けばよかったんだ。」

振り込み締め切り日の1週間後。

 「すみませーん」

と家主さんが玄関の扉をドンドン叩き訪ねてきた。

「はい…」

何を言われるか怖く兄は恐る恐る扉を開けた。

「あ、家賃まだ受け取ってないんだけど。また引き伸ばすつもりかね?」

「いや、すみません」

と兄は頭を下げた。

「こっちは謝って欲しいんじゃなくて払ってほしいの。な、分かるか?」

「はい、、払えそうもないです。」

兄は言いたくなさそうにぼそっと言った。

「はぁ … 」

家主さんは大きなため息をつき、ポケットから携帯を出した。

「どこに連絡するんすか。」

「どこって養護施設に決まってるじゃないか。家賃払えないんだったら出てってもらわないとこっちも困るんだ。でも、親いないんだろ?んじゃ、ここに引き取ってもらうしかないんだよ。妹さんも未成年だし。」

 そう言って家主さんは養護施設の人間に電話をかけた。何だか家主さんはこういう対応に慣れているように感じた。私たち以外にも昔払えなくなってしまった人たちがいたのだろうか。

「あ、もしもし。あの貝塚アパートのものなんですが。302号室に住んで…おい!」

兄が家主の携帯を奪い取った。

「何すんだよお前!」

「…くっ」

ただがむしゃらに抵抗してくる家主を兄は殴り続けた。


しばらくして意識を失って動かなくなった時、

「䙥行くぞっ」

兄がそう言って私の手を引っ張った。

「えっあの人どうするの…?」

走りながらそう言った。

「時間があったら後始末しとく」

「後始末って!…お兄ちゃん捕まっちゃうよ」

 兄はその後何も言わなかった。なんで何も言わないの。あたかもいずれそうなる運命のように。一点を見つめてひたすら走っていく兄に、言われるがままついて行った。


 

 ♢


 

 「ねぇ疲れた」

 数分間走った時、息を切らしながらそう言った。しばらく我慢していたけれど、もう足が限界だった。

 兄はスピードを落としトンネルの先にある駐輪場へ入って足を止めた。日々工事現場で働いているからだろうか。兄の呼吸はあまり乱れていなかった。

 私はなぜか話しかけることができなかった。不思議な空気だった。いつもだったら「水飲むか?」とか聞いてくれるのに。今日はただ下を向いて黙っていた。

 数分経って兄がそっと口を開いた。

「䙥はさ、人が憎いとかそういう感情抱いたことないの?」

 家主さんとのことだろうか。

「少なくともさっきみたいに手出したりはしない」

「そっか」

 兄のことを否定しているようで胸が痛かったが、さっきのことは流石にやりすぎだと思ったため遠回しに注意した。兄はそれ以上話しかけてこなかった。

 その後、さらに歩き始め廃屋を見つけ、しばらくの間はここに住むことにした。ぱっと見、虫などもいなく綺麗で前住んでいたアパートよりも広かったため、個人的に気に入った。

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