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依存  作者: 橘蒼良
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第三章 「出会い」

 今日は珍しく兄から散歩に誘われた。

「今23時だけどいいの?」

 小さかった頃、18時以降は危ないから外に出るなと言われた時から18歳になった今でも門限を守っている。

 「別に一人じゃないしいいよ、俺いるし」

 とボロボロになった靴を履きながら答えた。昼間は工事現場でバイトをしているため、基本的に服や靴は汚れていた。

「そか」

 内心嬉しかった。深夜の外出は何年ぶりだろうか。夜の街へ出掛けるワクワクさと兄と散歩へ行ける嬉しさが同時に込み上げてきた。

 ドアを開け、一緒に歩いて行く。兄はさりげなく車道側を歩いてくていた。偶然かもしれない。でもその偶然は私にとってとても嬉しいものだった。


 しばらく歩いていき、たどり着いた場所はとある公園だった。バイト以外あまり外に出ない私は初めて見る公園だった。兄は立ち止まり、

「俺、ここの公園好きなの」

 全体を見渡しボソッと言った。

「へぇ知らなかった」

 兄のことをまた1つ知れたことが嬉しかった。今日は嬉しいことがたくさんだ。何かいいことでもしただろうか。こんな些細なことかも知れないけれど、嬉しさの積み重ねが私にとっての人生の幸せと言ってもいいかも知れない。

 ベンチに行くと兄はニコッと微笑みながら

「ちょっとここで待ってて」

そう言って小走りで木の間をすり抜けていった。

「わかった」

 私はベンチに座り、携帯を開いた。“23時59分”。

「あっあと少しで明日だ」

 私は普段早く寝てしまうため、日付が変わる瞬間を見れたのは初めてで少し興奮した。すると

 「お待たせ」

 兄が帰ってきた。

「早かったね」

「ほい、俺のおごり感謝しろよ」

 そう言って兄から渡されたのはいちごみるくだった。

「勝手に渡してきたくせに笑」そう思ったが、それ以上に兄がくれたという現状が私を笑顔にさせた。

「懐かしいねこれ」

「な」

 いちごみるく。昔、食べ物を買うお金もなく常にお腹が空いていた。子供の私でもある程度は我慢することができた。慣れというものかも知れない。

 だけど、ある日。ついに限界がきてしまい、兄に「お腹すいた」と言ってしまった。母にこの言葉を言ったら殴られる。兄も同様、この言葉を言ったら何をされるかわからない。ずっとそう思って言えなかった。でも殴られてもいい、何されてもいい、それ以上にお腹が空きまくっていた。すると兄は

「うんじゃお金集めてきて」

 予想外の返事に私は戸惑い、目を丸くして兄の方を見上げた。

「お金、ないでしょ。だから集めてきてって。あでも、悪いことして集めちゃダメだからな」

 幼かった私に兄は優しく答えた。

「わかった」

 私は兄の言う通りお金を集めてきた。お金を集めるのは初めてではなかった。ゲームセンターのお釣りを漁る。自動販売機の下を覗く。ある程度どこにお金が落ちているかなんてことは知っていた。一番くだらない知識かもしれない。

「集めてきたよ。足りるかな」

 兄のところに戻りそう言った。

「わかんない、貸して」

 兄にお金を渡した。今思い出すと60円くらいだっただろうか。

 そして兄はこの辺で一番安いスーパーに行き、買えるものを探してきてくれた。

 スーパーに入って行く前に兄は

「買えなかったらごめんな」

 と言った。この頃から私はお兄ちゃんが大好きだった。

「全然いいよ」

 

 そして数分後、兄の手に握られていたのは2つのいちごみるくだった。

「買えたよ、はい」

 笑顔で渡してくれた。久しぶりに見たあの笑顔、一生忘れることはないだろう。

「これ2つ買うのに20円足りなくってさ。近くにいた店員さんが少しおまけしてくれたんだ」

「そうなんだ、やったね」

 何気ない会話をしながら、空腹のお腹をいちごみるくで満たした。


 __という昔の思い出が詰まった飲み物なのだ。昔に浸りながら飲んでいると、奥の方から人がやってきた。こんな時間に、しかもこんな田舎の場所で珍しいなと思いながら自然と目でその人を追ってしまった。すると、その男性はサッカーをし始めた。リフティングだ。

「ね、あの人上手だね」

「あぁほんとだ。」

 兄は確か昔サッカーをやっていた。たまたま道路に落ちていたサッカーボールを拾ったのがきっかけで、そこから暇な時、ずっとサッカーをするようになったらしい。もちろん、一緒にする相手もいないのできっとリフティングなど一人でできるサッカーの遊びをやっていたのだろう。となればリフティングは得意なはずだと私は思った。

「ねね、お兄ちゃんってリフティングできるの?」

 男性のリフティングを眺める兄に聞いてみた。

「まぁ少しならね、最近やってないからわかんないけど」

 私はさっと立ち上がった。

「おいどこ行くんだ」

「あの人に一緒にやってもいいか聞いてみるの」

「やめろって、一人で練習したかったらどうするんだよ」

 少しキツイ口調だった。

「いいじゃん」

 私は兄の言うことに従わず、その男性の方へ向かった。男性は見た目から20代と予測した。雰囲気と感で兄と近いはずと思った。だとすれば話しかけるのなんて慣れっこだ。

「あのすみません」

いきなり声をかけてしまったからか、その男性は少し驚きながらこちらを向いた。

「よかったら一緒にやってみてもいいですか」

「あぁ是非いいですよ」

 快く受け入れてくれた。そしてその男性はボールを私に渡してくれた。

「ありがとうございます」

 私は後ろを振り返り、

「お兄ちゃんも一緒にやろうよ」

 微笑みながら私は言った。

「いいよやってて」

 兄は少し不機嫌そうにそう答えた。

「お兄さんと一緒なんだ」

「あっはいそうなんです」

「かっこいいねお兄さん」

 話し方から男性の優しさが伝わった。背が高くすらっとしていて、目にかかる長さの前髪。

「めちゃめちゃかっこいいです、顔も性格も」

 私は満面の笑みで自慢げに答えた。

「いいなぁ僕も兄弟いたらなぁ、こうやって一緒にできたかもしれないのにね」

「一人っ子ですか?」

「今はね」

私は男性の言葉に引っ掛かりコクっと首を傾げた。それを見た男性は続けて話した。

「昔は弟がいたんだけど、事故で亡くなちゃって」

「あ。。すみません。」

「ううんいいよ全然気にしないで」

 男性にペコっと頭を下げた。

「これどうやったら続きますか?」

 私はリフティングをやったことがなかったのでコツとかあればと思い尋ねた。

「あぁこれはね〜」



 つまんね。


 一人になってしばらくし、そう思い始めた。別に一人が苦手なわけではないが、この公園でやることが特にない。今日は妹がいるからこの公園に来た。ここは好きな場所だが、一人ではつまらないので滅多にいかない。楽しそうにサッカーをしている二人を押し除けるように「帰るぞ」と言った。

 すぐに背を向け、早歩きで公園を出た。


「あ、すみません。もう時間になっちゃったみたいで、また今度どこか出会えたら一緒にやりたいです」

「そっか、うんまた一緒にやれたらいいね」

 別れの会話が後ろから聞こえてくるのと同時に、妹が走ってくる足音も聞こえた。


「楽しかったよ、リフティング。今度一緒にやろうよ」

「ボールがあったらな」

「あそか、だね。ボールってさ自分で作れないのかな」

「いやむずいっしょ。なんの生地でできてるのかも知らないし」

「やっぱ難しいかぁ、いつか絶対やろうね。約束」

「だから約束は嫌いだって言ってんじゃん」

「あそうだったごめん、」

 兄は約束が嫌いだ。前に私が兄と約束をかわそうとした時、

「約束って守らなきゃいけないものだろ?守らなければ相手から責められる。自分が同意しなくても相手が勝手にかわした約束をな。絶対できるなんて保証は何1つないのに約束を結ぶことでそれが確定に変わってしまう」


 そう言っていた。

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