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依存  作者: 橘蒼良
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第二章 「リゾット」

「ねぇ見てこれ。今日ラジオ体操やったらもらえたんだ」

兄が少し微笑み嬉しそうに話す。

「すごいよかったね!」

兄が微笑む姿を見ると、私も嬉しかった。

「ん?一緒に食べよ」

「えいいの?」

「いいよもちろん。そのためにもらってきたし。」

「ありがと」

嬉しかった。今日イチ嬉しい出来事だ。手元にあった袋を開け、

「これドリアの元と白米だけだけどどうやって作るの?」

兄は後ろのパッケージを見た。だが、すぐ見るのをやめた。

「なーんか文字タラタラ書いてあって読むのめんどくさ。ま、適当に混ぜたりすればリゾットなんてできるんじゃね?」

 兄は面倒くさがりだった。私はどちらかというと一つ一つ丁寧にやりたいタイプで、そこが兄と違う唯一の点だった。このすれ違いはなんども起きた。喧嘩もした。でも、次の日にはお互い普通に接していた。

 それはある日私たちで必ず決めたルールがあった。

「なんかこういうの面倒くさいから、喧嘩してその日寝たらもうリセットな。」

「また面倒くさいからなの。なんでも面倒くさいじゃん」

「いーだろ別に。ごちゃごちゃしたの嫌いなの。」

「ふーん」

 その日から必ず喧嘩で1日を過ぎることはなかった。この方法はなかなかに良く、お互い気まずくもならなかった。ぜひカップルにオススメしたいルールだ。

そうして、兄による適当料理が始まった。

「〇〇、お皿とフォーク取って。」

「ん、あっ」

「どした?」

兄は振り返りながら言った。

「フォークうちにないよ」

「えなんで。あったじゃん前」

「この前壊して捨てたじゃん。」

「あーそうだった。じゃ、フォークいいや。お皿だけとって」

「了解」

 フォークなど食べるもの、混ぜるものがなくても正直慣れっこだった。

 お皿にリゾットの元とご飯を入れ、手で混ぜる。そして公園から汲んできた水をご飯がかぶるくらいに入れる。本来ならここで電子レンジを使うが、ここにそんなものはない。先日庭に行った時、公園から取ってきた木を集めマッチをつける。ここまではお決まりのテンプレートだ。

「よしこれでまぁ10 .. 15分くらい待てば完成だろ」

「やったぁ楽しみだね」

「だな」

 お兄ちゃんが言った通り15分後、リゾットが完成した。

「リゾットなんて贅沢食べていいのかな」

「いいだろ、俺ら散々我慢してきたんだから。」

「そか。だよね。はいご一緒に」

「いただきます」

 この挨拶は私が4歳くらいからずっと兄と続けてきた。

 ある日散歩していてベンチに座っていた時、向かいに座っていた同い年の子供がやっていたのだ。私はなぜかその光景が羨ましかった。

「やべこのリゾット最高」

「やばいねこれ!」

 お皿は一つしかなかったので、兄と手で掴みながら食べた。これが行儀悪いことだとわかってはいるが、仕方がなかった。幼少期からこの食べ方の私たちは手を使って食べることが当たり前になっていた。正直、お箸の正しい持ち方すらも分からない。

 そんな私ですら、今年の春、19歳を迎える。そう、お箸の持ち方を知らなくたって、勉強を何もしなくったって、時間は過ぎて行き、やがて大人になれるのだ。まともな人間にはなれないけれど私はこの人生にどこかで満足していた。


何事にも時間が解決してくれるよ


 小さい頃、兄から聞いたこの言葉を私は今でもずっと自分に言い聞かせて何事にも乗り越えてきた。私は周りと違って、人間関係に悩まされることも、勉強に悩まされることも何一つ経験していない。だからこそ、本当に小さい嫌な出来事でさえすぐに落ち込んでしまう。

 兄は私がどんな出来事に直面したって救ってくれる。

そんな兄のそばにずっといれると思っていた。

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