ありがとう、さようなら
いずれかの賞の投稿作です。何の賞かは記録し忘れておりました。
基本ひらがなで書かれておりますが、読んでいただけますと嬉しいです。
せかいのまんなかに、たいへんなあつさの、ひろいさばくがありました。
そこに、一ぴきのねこが、げんきのないようすでとぼとぼとあるいていました。どうやら、みちにまよってしまったようです。
ねこは、つかれたからだでがんばって、オアシスをさがしていました。オアシスにいけば、水がのめて、たべることができるようないきものもあつまっているだろう、とおもったからです。
「おなかはすくし、のどはからから。つかれすぎたせいで、なにやらおかしなおとまできこえるようになってしまった。いよいよ、しんでほねになってしまうのかなぁ」
ねこはなきたくなりましたが、まぼろしのようにきこえたおとは、いっぽあるくたび、はっきりしてきました。どうやらそれは、いきもののこえのようです。
「さびしいよう、さびしいよう」
そのこえは、そういっているようにきこえました。
ねこのすこしかすんだ目に、小さないどが見えてきました。そのいどのへりには、これまた小さな、ねずみがたっています。どうやらこえのぬしは、そのねずみのようでした。
ねこは、よろこんでさけびました。
「おお、みつけた!」
「あしおとをきいて、まっていたのです。おあいできてうれしいですよ」
「ねずみさん、ここはオアシスですか?」
「そうです。水しかなくて、たべるものもないのですが。
なんにちもなんにちも、だれにもあえなくて、さびしくてしんでしまいそうでしたよ。あなたがきてくれて、よかった!」
ねずみは小さな目をきらきらさせて、ねこを見ました。するとねこは、ねずみよりもっと目をひからせて、いいました。
「たべるものは、あるじゃないですか」
「え、どこに?」
きょろきょろとするねずみを、ねこは、あたまからひとくちでたべてしまいました。
「わたしには、あなたがごちそうなのだよ。わるいね、ねずみさん」
たべられたことにきがつかないのか、ねこのおなかの中でまで、ねずみは「よかった、ありがとう」といいつづけていました。そのこえはだんだん小さくなり、やがてさいごに「ありがとう、さようなら」といって、それきりこえはきこえなくなりました。
「小さいいきものだから、あたまがわるいのかな。たべられたのに、ありがとうだなんて。とにかく、おなかもいっぱいになったし、水をのんでひとやすみするか」
ねこは、じょうきげんで、いどのつくる日かげによこになりました。
それからねこは、そのオアシスでじっとしていましたが、すぐにまた、おなかがすいてしまいました。水だけのんですごしても、きゅうきゅうとおなかのなるのはおさえられません。
ねこがたべることのできるようないきものは、まるで、やってきませんでした。
そしてよるになると、さばくはひるまとはちがってとてもさむくなり、くらくて、しずかで、とてもこころぼそいのです。
そんな日がなんにちかつづいて、ねこはすっかり、こころもからだもよわってしまいました。
「ああ、さびしい。どうせうえてしぬなら、いっしゅんおなかがいっぱいになるよりも、ねずみさんにそばにいてもらえばよかった」
ねずみがいきていれば、さいごのときまではなしをしたり、いっしょにそらをながめたりして、さびしくならずにすんだからです。
ねこは、であったときのねずみとおなじように、とおくをみつめてなきました。
「さびしいよう、さびしいよう」
やがて、オアシスに、いきもののあしおとがきこえてきました。
さいごのちからをふりしぼって、ねこがいどのへりにのぼると、そのいきもののかげがだんだんおおきくなっていきました。
そのかげは、からだじゅうがすなぼこりでよごれた、大きなくまでした。
「あなたがきてくれて、よかった!」
よろこびのあまり、なにもかもわすれてあいさつしたしゅんかん、ねこは、くまにあたまからひとくちでたべられてしまいました。
「ああ、わたしをたべたらあとはどうなるか、くまさんにおしえてあげられればよかったな。でも、とにかく、これでさびしくなくなる。くまさん、ありがとう」
なんかいも、おれいをいいながら、ねこはだんだんきがとおくなりました。あのよでねずみにもおれいをいおう、とおもいながら、さいごにひとこと、ねこはくまにいいました。
「ありがとう、さようなら」
お読みいただきありがとうございます。
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