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魔導王国の物語

ドラゴン令嬢と氷の公爵

作者: 深緑翡翠


「えっ・・・。」


 朝起きると、私の腕がドラゴンの腕になっていた。

 鱗生えてるし、爪もやばいくらい鋭くなってる・・・。

 試しに手を動かすと、本当に動く・・・。なんか凄いことになっているようだ。


 私は部屋を飛び出て、階段を駆け下りる。


「お父様ー!!起きたら腕がドラゴンになってたー!!」


「・・・?

 ああ、いつだって魔導の腕はドラゴン並みだと思ってるよ。さあ、朝食にしよう。」


「だから本当だって!!」


 お父様はいつものことだと言わんばかりに何食わぬ顔で紅茶を飲んでいる。そんなやり取りをしているうちに妹のグレイスが降りてきた。


「グレイス、リーゼルを止めてくれないか?」

「姉さんはいつもこうだから、無理だわ。」


「だからこの手を見てよ!」


 お父様と妹のグレイスが私の手にやっと気づく。

 しかし、意外と二人の反応は薄く、顔を見合ってやれやれという顔をしている。


「お姉様、どうせ魔導でやらかしたのでしょう?」

「うーん・・・たぶん?」


 たぶん、昨日の魔導事故だろう。魔導具を作るときに腕に変な力を加えてしまって、魔力が暴走してしまったのだ。その時は何もなかったのだが・・・。


「リーゼル・・・。さっさと元に戻しなさい。うちではドラゴンの腕の付いた娘は飼えません。」

「お姉様はただでさえドラゴンみたいな厄介者なのに、そんな腕付いたら手に負えないわ。とっとと戻して。」

「誰がドラゴンよ。はぁ、わかったわ。戻せばいいんでしょ?」


 ったく、私はそんな厄介事起こしてるつもりはないのだが・・・。しかし、今回のようなことは日常茶飯事。この腕もきっとすぐ治せるだろう。私は魔力を腕に流して再生の魔導をかける・・・

 

 あれ?どうしてだろ?再生の魔導がかからない。あれ?


「もしかして、元に戻らないの?」


「・・・・。なんかやばいかも・・・。」

「リーゼル?そうはいかないぞ。そんな子芝居やめてとっとと直しなさい。」


「そんなぁー私が嘘をつけるような娘だと思う?」

「王宮の花を全てバケモノに変えたときの言い訳、覚えてるからな。」


「あれは!・・・ごめんなさい・・・。

 けど!今回は違うの!本当に元に戻せないの!」


「お父様、お姉様は本当に戻せないんじゃないの?」


「うーむ・・・。

 もし戻せなかったとして、第二王子のデルガー殿下との婚約はどうなるのだ?」


「じゃあ手紙送ってみるよ。けどあいつ馬鹿だから、きっとすぐ『婚約破棄だ!!』とか言い出すよ?」





-------------------------


「リーゼルとは婚約破棄だ!!そんな腕では貴族として何もできないではないか!!」


 何となく、婚約のことについて話に出すとは思ったが、まさか本当に言い出すなんて・・・。

 今の私の腕はちょっとばかしゴツゴツしているだけで、私の可憐で麗しい顔は変わってないというのに・・・。


「そもそも、リーゼル。貴女は私の婚約者としてふさわしいのか?今回のような問題をたびたび起こしているではないか。王宮の花を全てバケモノに変えた件、私に魔力の籠ったピアスを送った件・・・


 どれも事故という話だったが、本当に事故なのか?」


「デルガー殿下、どんなに不出来な娘でも、そのようなことは決して・・・」


 不出来な娘で悪かったな。

 まあ、殿下は私がいらないようだ。ではとっとと了承してしまおう。


「そうですよね。私のような不出来な婚約者、殿下には似合いませんよね。」


「その通りだ!

 それにその腕の危険性から、貴女の処分を―――・・・


 本当に、殿下は私に気がないようだ。浮気相手に相当ゾッコンなのだろう。

 まあ、普通こんな腕持ってる奴を愛するほうが不可能なのだ。

 ドラゴンの腕を持った妻なんて、恐ろしくて夜も眠らないだろう。

 喧嘩したら真っ先にこの腕が飛んできたらと思うと、とんでもないじゃないか。

 どんなに想っていても、こんな腕では・・・


「―――ということで、リーゼル・フロイアは王都追放とする!!」


 ・・・・・・は?




---------------------------------


 はい、王都追放をくらったリーゼル・フロイアです。私はいま、国の辺境、アルテミス領に向かって馬車に揺られています。アルテミス領は寒さが厳しいことで有名だそうで、あの王子を本当に恨んでいます。


 竜の腕は相変わらずで、すごくゴツゴツしています。結構力持ちなようで、旅の途中で襲ってきた山賊を片手で吹き飛ばしてしまいました。なんだか物騒なようですが、意外と役に立っています。竜の腕なのだから、寒さとかも防いでくれるのかな?


 そうそう、家族とも離れ離れになってしまいました。家族は仕事もあるので王都に残らなくてはいけないらしいです。お父様と妹のリーゼルには会いたいですが、この腕がいつ暴走するかもわかりませんし、しょうがないでしょう。

 それに、アルテミス領には領主補佐という名ばかりの仕事を与えられているし、生活に困るということでは無いようです。まあ竜の腕があるから実生活には困るんだけど。


 そしてその領主なのだが・・・

 ロベルト・アルテミス公爵は氷のように冷たいお人であると有名である。以前、夜会でどこかの伯爵令嬢に、「興味ない、黙っていろ。」と言い放ったそうだ。こんな私を領主補佐として認めてくれるのだろうか?


 馬車が屋敷の前で止まる。すると屋敷のドアの前にはすらっとした男が立っていた。


「来たか、リーゼル・フロイア嬢。俺がロバルト・アルテミスだ。」


 とても綺麗な人だと思ったと同時にとんでもない圧を感じる。整った顔立ちと、鋭い眼光。こんなにイケメンなのにまだ結婚なされていないということは、噂通りの性格なのだろう。


「お初にお目にかかります、ロバルト公爵。リーゼル・フロイアと申します。これから領主補佐としてよろしくお願いいたします。」


「挨拶はいい。それより、その腕はペンを握れるのか?」

「い、いえ・・・。」


「ふん・・・。そうか、ではこちらに来い。」


 ロバルト公爵は屋敷の中に入っていった。私も荷物を持って屋敷に上がる。

 やっぱり聞いていた通りの性格だな。さっき「ペンも握れないのになぜここに来た?」みたいな顔してたし。


「ここに座れ。」


「は、はいっ。」


 ロバルト公爵も机を隔てた対面の椅子に座る。

 すごい、なんか私を睨んでる?すごく圧を感じる・・・


「今後一週間は俺の傍について仕事を学べ。あと、この屋敷の部屋を貸す。自由に使え。」


「・・・いいのですか?部屋は町で借りようと思っていたのですが・・・。」


「俺の傍で仕事を見ろと言っているだろう。素直にここを使え。」


「あ、ありがとうございます!」


「礼はいい。俺は仕事があるから、あとは侍女に聞け。」


 そういうと、ロベルト公爵は部屋を去った。


 どっと力が抜ける。とてつもない緊張感だった。ロベルト公爵は私の腕をずっと睨んで、警戒していた。机が一つあったから良かったものの、何一つ隔てるものがなければ私は切り殺されていただろう。


 ロベルト公爵への第一印象は”氷の君”という感じだった。





---------------------


 仕事一日目、私はロベルト公爵と共に領地の村を視察に来ていた。ロベルト公爵曰く、「領民を見ずに領主が務まるわけがない。」というわけで、今ここに至る。既得権益にしがみついている領主がたくさんいる中で、ロベルト公爵はいい領主のようだ。


 村に着くと、、村の子供たちが「ロベルト様だー!」「魔法、魔法使って!!」などと騒いでいる。彼は表情一つ変えずに挨拶をしているが・・・どうやらロベルト公爵は毎週のように来るようである。意外と慕われていて、ちょっと驚いた。

 対する私は・・・「何こいつ」みたいな目で見られている。まあそれもそうか。というより、魔物として見られていないだけマシだろう。子供たちは無邪気に「変な手~」とか言ってくるが。


 村で一番大きい家に着くと、村長が出迎えてくれた。


「ロベルト様、ようこそおいでくださいました。そちらの方は・・・?」


「領主補佐のリーゼル・フロイアと申します。」

「まだ見習いだがな。

 ところで村長、最近はどうだ?」


「林業の方はロベルト様から頂いた山道が運搬の役に立っているのですが・・・

 実は最近落石で塞がれてしまいまして・・・。

 このままだと近くの村まで運ぶのに二日以上かかってしまうのです。どうにかして頂けませんでしょうか?」


「どれくらいの大きさだ?」

「家一つ分くらいでしょうか・・・」


「では、屋敷に戻ったら撤去に必要な人員を手配しておく。そうすればあと一週間ほどで撤去できるだろう・・・」

 

 一週間もかかるのか・・・。妥当だとは思うが、生活的には大きな打撃だろう。この村は見たところ林業で成り立っているようだし、その主要な産業が一週間も活動停止になったら、困るのではないだろうか・・・?


「すみません、ロベルト公爵。

 その件私に任せてくれませんか?」


「聞いていなかったのか?撤去することなど容易い。それに今日はまだ他の村の視察もある。だから・・・」


「大丈夫です。すぐ終わらせますよ!」



◇ ◇ ◇


 私は近くの村の方向を聞き、山の麓まで来た。山は大きく、落石のある場所まではずいぶんありそうだ。


「おい、これだと落石のある場所まで半日はかかるぞ。すぐ終わらせるのではないのか?」


「はい、だから大丈夫ですって。」


 私は山に向かって竜の腕を突き出す。竜の腕に意識を向けて、どんどん魔力を送る。竜の腕は魔力を溜め続け、今にも暴発してしまいそうだ。人間の腕ならもうすでに腕の方が消えているだろう。しかし、竜の腕は魔力を溜め続ける・・・。


「はぁっ!!!!」


 私は竜の腕から魔力を放出する。ただ魔力を放つだけではそこまで威力がないのだが、竜の腕は違う。放った魔力は山を貫き、まるで山に光の槍が突き刺さったようだ。

 光が消え、その跡に現れたのは山を貫く人二人分くらいの大きな穴。ちょうど向こう側には次の村が小さく見える。


「ふう・・・いまここにトンネルを作ったので、前よりももっと早く次の町に行けますよ!!」


 ロベルト公爵は唖然としている・・・。ちょっと、やり過ぎただろうか。これを見て「危険だから死刑!」とか言わないかな?


「リーゼル嬢・・・まさかこれほどとは思っていなかった・・・・・。」


「や、やっぱそうですよね。こんなに危ないから王都を追放されたんです。 さあ、この腕を切り落としてください。そして、私を牢屋にでも入れて、鞭でも打ってください。できれば毎日三食がいいですが、こんな罪人なので、二食で我慢します。それでもバツが足りないというならいっそのこと殺してください。一日一食など生きてる意味はありません。覚悟はできてます・・・。」


「・・・・・・・何を言っている?リーゼル嬢、

 貴女の力は大いに役に立つ。これからも雇うつもりだぞ。それに毎日三食くらい余裕だ。」


「え、本当ですか?ロベルト公爵があまりにも冷たい目でこちらを見ているからつい罰するのかと・・・。」


「貴女を罰することはない。それに貴女が暴走しても、俺が止めるさ。俺も貴族の端くれ。魔導くらい使える。」


 公爵だから端くれではないだろうと思うが・・・。

 それにしても、この力を褒めてくれる人がいるとは思わなかった。そもそも、私が魔導のために努力しても誰も褒めてはくれなかったのだ。女らしくない、貴族の義務はどうした、そんな言葉ばかりだったのだ。

 しかし、ロベルト公爵は認めてくれた。


「あ、ありがとう、ございますっ・・・・!」


「・・・なぜそんなに感謝する?そんなに暴走するのが不安だったのか・・・?

 とにかく、とっとと村に報告して、他の村も視察するぞ。」


 ロベルト公爵は相変わらずだった。


◇ ◇ ◇


「ありがとうございます!これで次の村まで半日もかかりません!!」

「移動が楽になる!本当にありがとう!」「リーゼル様、ありがとうございます!!」


 村に戻ると、賞賛の嵐だった。こんなに魔導が役に立つなんて・・・。やっぱ私の価値に気づかない王子が馬鹿なだけだったのね!この村には特別に魔獣除けの花の種を植えてあげようかしら。


「リーゼル嬢、次の町へ行くぞ。」

「はいっ!」


 私はその日、たくさんの賞賛をもらってお屋敷に戻ったのであった。



-------------------------


 仕事三日目、昨日までは領地内の視察だったが、今日はお屋敷のなかでのお仕事。と言っても私はペンすら握れないのでただロベルト公爵の仕事を眺めるだけなのだが・・・。


「リーゼル嬢、今日は書類仕事だ。貴女は俺の傍で仕事を見ていろ。」

「はいっ!」


 ロベルト公爵の仕事をしている姿は実に勉強になる。どんな時に、どんな対応をするのか・・・領地経営をしたことのない私にはどれも新鮮だった。

 ・・・・・それにしても書類の量が半端じゃない。内容は輸入品の概要や、憲兵の許可状、開拓の申請などなど。それをロベルト公爵は一枚一枚丁寧に印を押していた。


「ふむ・・・。」


 ロベルト公爵が手を止める。


「どうしたんですか?」


「いや、冒険者ギルドが騎士団に魔獣の森の調査を依頼したいというのだ。ここ最近、何度も冒険者の遺体が森で発見されているらしい。」


「どうしてお亡くなりに?」


「調査資料では魔物に噛まれた跡があるが、死ぬほどの傷ではなかったと書かれている。おそらく毒や病を持っている魔獣なのだろう。」


「アルテミス領の魔獣の森あたりで毒を持った魔獣というと・・・

 きっと擬態虫ミミックじゃないですかね?」


「しかし擬態虫ミミックでは遺体を食べるのではないか?毒を使い、殺し、自分の寝床まで運ぶ。それが擬態虫ミミックだ。死体を放置などあり得ない。」


「ふふ、甘いですね。」


 ロベルト公爵が不機嫌そうにこっちを睨んでくる。


「ではリーゼル嬢、なぜ擬態虫ミミックだと言い切れる?」


「それはですね~。この時期の擬態虫ミミックは発情期で凶暴なんですよ。だから一回噛んですぐどっか行ってしまうんです。活発に動くので冒険者には見つかりやすいですし、擬態虫ミミックの毒は貴重ですから冒険者も倒したいところでしょう。

 しかし、擬態虫ミミックだと思って侮ると殺さねかねません。冒険者ギルドには擬態虫ミミックは倒すなとお伝えください。」


「そうか・・・ではそう伝えてみよう。納得いかないがな。」


「ロベルト公爵にも知らないことがあるんですね。てっきりすごく博識なのかと・・・。」


「そんなわけがない。逆に、なぜギルドも知らないような魔物の生態を知っているのだ・・・?」


「うっ・・・そ、それはですね・・。」


 私は時々“禁忌の書”なるものを手に入れることがある。その手に入れ方は教えられないが、その中に『擬態虫ミミックを創るまで。』という本があったのだ。その名の通り、擬態虫ミミックを生物兵器として作った張本人が書いた書物なので、とてもじゃないがタネは明かせない・・・。その張本人はいくら何でも私じゃないからね、本当だからね!


「・・・?まあいい。リーゼル嬢は博識なのだな。」


「領主補佐として役に立ててます?」


「・・・まあ、そうだな。」


 ロベルト公爵が私に顔を背けてそう言った。ふふ、可愛いところあるじゃないかロベルト公爵。


「・・・今、良からぬことを考えただろう・・?」


「さあ、何のことでしょうか~。」


 ロベルト公爵は不満気だったが、私はこんな腕でも少しは力になれたことに喜びを感じていた。だって、あんな「ペンも握れないのに俺の仕事の手伝いなんて出来るはずがない。」みたいに見られていたのだ。少しは舞い上がってもいいだろう。


 数日後、冒険者ギルドからは「毎日死人が出ていたが、擬態虫ミミックを倒すなと言った以降、死人は出ていない。おそらくロベルト公爵の指摘された通りであると思われる。感謝する。」と返事が返ってきた。ロベルト公爵は返事を見て、とても複雑そうだったが一応「リーゼル嬢の手柄だ。よくやった。」とお褒めの言葉を貰えた。

 竜の腕でも、この仕事向いてるかもしれない。




------------------------


「リーゼル嬢、」

「はい!なんでしょう!」


 六日目、私が屋敷でロベルト公爵の書類仕事を眺めていると、休憩にお茶でもどうだと言われて一緒に書斎でくつろいでいた。そんな中、ロベルト公爵が私の名を呼ぶ。


「今も貴女には婚約者がいないのか?」

「はい!絶賛募集中です!」


「そうか・・・」


 どうしたのだろう?ロベルト公爵がこんなことを聞くなんて・・・。もしかして私の婚約者を探してくれる・・・なんてことしてくれるのだろうか?


「しかし、この竜の腕では誰も相手にしてくれないんですよ~。こんな美貌を持つ私なのに・・・価値がわからない男たちをこの腕で抱きしめてあげましょうかね?」


 しかし、ロベルト公爵は笑ってくれなかった。


「リーゼル嬢・・・

 どうして貴女はそのように明るくいられるのだ?貴女は王子のために魔導を極めていたのだろう?」


 ロベルト公爵は鈍感だと思っていたんだが、気付いていたらしい。正直、あまり触れてほしくはなかった・・。


「・・・どうして王子のためだとわかったんですか?」


「貴女を見ていればわかる。

 リーゼル嬢、貴女は村を出ていくたびに何かを埋めていたな。あれは魔獣除けの花だろう?そして俺は見たことがある。王宮に咲き乱れる青い花を。」


 王国、とくに貴族は青い花を忌避している。青は死を連想させるとして嫌われているのだ。だから青い花はバケモノとまで言われた。私はただ王子を魔獣からの被害から守ろうとしただけだったのだが、空回りしてしまったのだ。


「気づいてくれていたんですね・・・。しかし、いいんです。王子はもう私がいらないらしいので。今は王子に恨みしかありませんよ!ほらだって、こんな寒いところに追いやって、私を馬鹿にして、何も気付いてくれなくて・・・」


 駄目だ、泣いてしまう。王子への未練とか、そんなんじゃないのに。私は王子を恨んでるはずなのに・・・。


「明るいリーゼル嬢は俺も気に入っている。しかし、俺の前ではそんなふうに振る舞う必要はない。

 その腕だって、存分に振るうがいいさ。俺が受け止める。」


「・・・やめて、くださいよ。私のキャラが台無しじゃないですか・・・」


 ロベルト公爵は私が泣くのをそっと見守ってくれた・・・。


◇ ◇ ◇


 私が王子と出会ったのは7歳のときだ。そのころの私は魔導の才を持て余して、問題ばかり起こしていたが、王子はそれを褒めてくれたのだ。「リーゼル嬢の魔導はすごいよ!みんなができないようなことを簡単にしてしまうなんて・・・!」と。“女が魔導なんて”と言われてるなかで、王子は私の魔導を認めてくれた最初の一人だった。そこから私はできるだけ問題を起こさず、ただ王子のために魔導を使おうと思ったのだ。

 それからというもの、魔導にさらに打ち込み、少なくとも貴族一の魔導師となった。女だから誰にも認めてもらえなかったが、王子は君こそ魔導師の鏡だと言ってくれた。


 しかし、そんな幸せは続かなかった。私が17になった頃、王子は伯爵家の令嬢に想いを抱くようになった。まあ、当然だ。7歳と17歳では訳が違う。10年もあれば気が変わるだろう。だから、最初は許していた。だが、それでも魔導だけは極め続けた。禁忌の書も読んだ。新しい魔導を開発した。いつか王子のためになると思ってやってきた。でも、王子はだんだんと私の魔導を馬鹿にするようになった。「そんなに魔導ができても、貴族として認められなければ意味がない。」と。


 私はそれでも振り向いてもらえるようにと、魔導で出来ることを王子にするようになった。一回だけ攻撃を無効化するピアスや、魔獣除けの花、そして私の腕がこんなことになる原因となった“魔導鎧”。身体強化を自動的に行う魔導鎧を作るにはどうしても腕に負荷のかかる魔導をする必要があったのだ。そして無理をした結果がこれ。王子の体に合わせた専用の魔導鎧は王都にある私の部屋に眠ったままだ。


 私の努力おもいは王子によっていとも簡単に踏みにじられたのだった。



◇ ◇ ◇



「泣き止んだか?」

「泣かせといてそれはないですよ!」


 ロベルト公爵がふふ、と笑う。この人ズルいな。


「私、ロベルト公爵がいいです。」

「・・・?俺は貴女をまだ雇うぞ?心配しなくても貴女を選ぶさ。」


 ッチ。あんな鋭いくせに、どうしてこうゆうところだけ鈍感なんだよ!


「もうすぐ一週間経つ。貴女はその腕も、頭も、優秀なようだ。俺は貴女を高くかっているさ。」


 そうか、もうあと少しで別々に仕事をすることになるのか・・・。嫌だな・・・。





-----------------------------



「リーゼル嬢、この一週間の働き、しかとお見受けした。正式に、領主補佐として任命する。」

「ありがとうございます・・・。これからもよろしくお願いします。」


 ついにこの日が来てしまった。これからは別々に仕事か・・・。しかし、手は緩めないつもりだ。ロベルト公爵を支えるのならば、どんなにつらくともやっていけるだろう。


「それとだ。俺から記念に贈るものがある。」


「・・・?なんでしょうか?」


 ロベルト公爵が私に袋に入った何かを私に差し出す。

「開けていいでしょうか?」


「ああ、きっと貴女に似合う。」


 袋を開けると・・・中から手袋が出てきた。しかも腕まである分厚い手袋・・・。


「貴女の腕でもペンを握れるようにと思ってのことだ。これがあれば力の加減がしやすくなるだろう。」


 そうか・・・最初会った時から気にかけてくれていたのか。「ペンは握れるか?」とかぶっきらぼうに言うもんだから、つい役立たずだと遠回しに言っていると勘違いしていたが。


 私は試しに腕に通してみる。おお、どうやらこの手袋は魔導具のようで竜の腕の力を抑えてくれる。きっと公爵が寝る間も惜しんで作ってくれたのであろう。その気持ちがとても嬉しい。


「どうだ?力の制御ができるか?」


「はい!とても手が動かしやすいです!本当にありがとうございます!!」


「貴女に喜んで貰えてよかった。これで俺の仕事を眺めるだけではなくなるな。」


「結局仕事してほしいだけじゃないですか!」


 ロベルト公爵は少し微笑み、顔が明るくなる。出会った頃こそ、殺されるかもしれないと怯えていたが今ではとても愛おしい・・・。


「それと、もう一つ渡したいものがある。」

 するとロベルト公爵はその場に跪いて、小箱を開く。



「王子ほどに想ってくれなくて構わない。俺と婚約してくれ。」


 小箱の中には指輪がきらめく。


「どうして・・・」


「・・・貴女と共にいた時間は、とても楽しかった。この一週間では、足りないのだ。」


 とても嬉しい。とても嬉しいのだが・・・


「ロベルト公爵は、勘違いしてます。」

「む・・気に障るようなことを言ったか?」

「はい。」


 ロベルト公爵は困惑している。


「私は、王子のことなどもう想っていないのです。今はただあなたを、あなただけを想っているのです。」


 私は公爵が好きだ。だからこそ、迫られたい。


「・・・わかった。訂正する。


 俺の傍にいろ。そして俺を愛せ。」


「・・はい。」


 ロベルト公爵は私を抱きしめる。私も名一杯、手袋の付いた腕で抱きしめ返した。


最後まで読んでくれてありがとうございます!


「リーゼルの気持ちわかる!」「ロベルト公爵とどうなるの?」と思ってくれたら評価とブックマークをよろしくお願いします!

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