よそ見しちゃダメ 『私だけがいいな?って言っちゃう』
物語のあるリボン作家『いろいと』です
私の作るリボンには、1つずつ名前と物語があります
手にとって下さった方が、楽しく笑顔で物語の続きを作っていってもらえるような、わくわくするリボンを作っています
関西を中心に、百貨店や各地マルシェイベントへ出店しております
小説は毎朝6時に投稿いたします
ぜひ、ご覧下さい♡
Instagramで、リボンの紹介や出店情報を載せておりますので、ご覧下さい
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携帯を開けては、ふーっとため息をつく
10分前にも同じ事をしていた気がする
パタンと転がすようにローテーブルの上に携帯を置く
『こなーい』
『にゃん』
可愛い声で私に返事をしてくれるヒマラヤンの雪ちゃんは、しっぽをくるんと翻して私の膝から降りていく
普段は気まぐれな猫のように連絡もそっけない私は、今日だけはどこかの忠実な犬のように、彼からの連絡を今か今かと睨みつけるように携帯の前で待っている
遠距離恋愛中の私達が会えるのは、半年に一度
本当は、もっと会いたいのだが去年から、お互い仕事が忙しく自分の休みも取れていないくらい忙しい
そんな日々が続いていたので、今日という日をどれだけ待ち望んでいたか
久々に会える楽しみと、緊張する気持ちが相まって私は、何度も鏡を見る
『どこか変なとこないよね?前髪よし!笑顔よし!』
準備は完璧。それなのに、彼から駅に着いたという連絡が一向に来ない
私の家から車で10分程のところにある駅
家まで来てくれるというので、駅まで迎えに行くと言っていたのだが
ピンポン
雪ちゃんと同時に耳をピンと立て、ドアの方へと体を向ける
まさかと思いつつインターホンで返事をする
『あーけーてー』
彼だ
お土産をドカっとローテーブルの横に置き、中から色々取り出す
『これ美味いんだよ!で、これが欲しいって言ってたチョコ』
感動の再会と思いきや、お土産の説明に忙しい彼はそれどころではない
一通り紙袋から全部出し、そろそろ熱い抱擁を、と手を伸ばすも、残念ながら私ではなくトランクへ手が伸びている
大きなトランクを開ければ、一番上にあるのは雪ちゃんの好きなおやつ
待ってましたとばかりにゴロゴロと甘えた声で、彼にすり寄っていくのは雪ちゃん
『お?ゆきぃー元気だったか?お前はいつも可愛いなぁ。ほら!お土産だよ食べるか?』
『うにゃーん』
『そうかそうか。ちょっと待ってろよ』
そう言いながら、あぐらをかく彼の足の上にちょこんと雪ちゃんを乗せ可愛がる
『にゃーん』
『みてみて。美味しいって食べてるよ?可愛いなぁ!好きだよぉ!ゆきぃ!』
メロメロになる彼には、私の事なんて見えていないようだ
ふんっと荒い鼻息が聞こえたのか、彼が私を見る
『なに?どした?』
『おみやげたくさんありがとう』
『おお。こんなくらいしか持って帰れなかったけど、一緒に食おう!』
『うん』
『なんだよ?もっと買ってきて欲しかったのか?』
『そうじゃないもん。連絡待ってたのにさ、一言くれたら良いのに』
『びっくりさせようと思って、ごめんな!機嫌直せよ』
しばらくほっぺたが膨らんでいた私は、どうやら相当不満な顔をしているみたい
なかなか会えなくて寂しかったのに、私じゃなくて雪ちゃんばっかりだと、少し拗ねてしまう
そんな気持ちを知っているかのように、頭の上に大きな手がポンと乗っかり、心配そうに彼が、私の顔を覗き込む
『会いたかった。久しぶりすぎてちょっとドキドキしちゃってさ。ごめん』
そう言いながら優しく頭を撫で、頬に手を添えられたと思ったら、軽くおでこに彼を感じた
私は、伏せていた目を少しずつ彼へと向けていく
『ずっと会いたかった。好きだよ。もっと顔見せて。こっちおいで?』
我慢していた気持ちは、決壊したダムのように溢れ、私は勢いよく彼の胸へと飛び込む
強くギュッと抱きしめる彼の腕は、とても逞しく安心するものだった
『休みの間はずっとこうしていたい。ずっと会いたかった。大好きだよ』
『私も』
『うにゃーん』
仲間に入れて欲しかったのか、しっぽをくるんと翻しながら、雪ちゃんがトランクの中から返事をした
『くすくす。私も雪ちゃんも、あなたが大好きだからライバルだね』
『俺モテるなぁ。ゆきも、おいで?』
『だめ!私だけがいいな?なんてね。ふふ』
『はは。俺はお前が一番好きだよ』
彼の瞳に映る私の顔は、恥ずかしそうに嬉しそうに映っている
『よそ見しちゃダメ』が、ゆらりと揺れ、静かにゆったりと早春の昼下がりを迎えていく
終
最後まで読んで下さり、ありがとうございます
色々なお話を書いておりますので、どうぞごゆっくりとしていってもらえると嬉しいです
また明日、6時にお会いしましょう♪