傘と肌を重ねるお姉さん
「ん…ぅっ…」
「ん…ふふ♡」
舌に、お姉さんの濡れたやわらかいものが絡み付く。ビールの風味が、俺の口内いっぱいに広がる。
お姉さんの舌から伝わるアルコールのせい…なのか、全身が火照る。さっきより、くらくら…してきた。
「ふ、あ…っ」
「ふふっ、深月君可愛い♡もっと…気持ちよくしてあげる…」
一度唇から離れてお姉さんはそう言うと、また俺の唇に深くふかくキスする。
むにむにと、やわらかいおっぱいを俺の身体に押しつけながら、貪り食うように俺の唇を求める。
だんだん…視界と思考がぼやけてくる。
─と。
…もっと、ほしい。唇も…肌も…もっと、もっと。お姉さんの身体のすべてが…ほしい───
俺はふわふわとそんなことを思いながら。
「ん…」
「ぅん?んふふ…♡」
気づいたら、自身からお姉さんの舌に舌を絡めそして、お姉さんの腰に両腕を回そうとして───
「……っ!やめっ、て下さいっ!」
はっと我に返り、腰に回そうとしていた手でお姉さんの肩を掴み、唇からお姉さんを剥がした。
今…俺、何を──…
「─っ、すみません、俺帰りますっ!」
「ちょ、深月君!」
俺は下着姿のお姉さんの横を抜け、慌てて家を出た。
────バシャバシャバシャバシャ!
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
どしゃ降りの雨のなか。俺は傘も差さずに、泥水を跳ねさせながら全速力で走る。
どっくんどっくんと、心臓が暴れる。
「おかえり~…って、あんたどうしたの!?びしょ濡れじゃない!ちょっと、深月!?」
家に帰ってくると、俺はばたばたと階段を駆け上がり、自分の部屋に入った。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
バンッ!とドアを乱暴に閉めると、ドアに凭れかかりながらズルズルとしゃがんでいき、そして。
「はあぁ~…」
両手で顔を覆いながら、大きなため息を吐いた。
「俺…もう少しで、お姉さんのこと─」
全身雨でずぶ濡れだけど、身体にはお姉さんの体温やおっぱいの感触、口内にはビールの風味とそして…お姉さんの濡れた舌の感覚が、色濃く残ってる。
あの時俺は…自らお姉さんの身体を求めた。練習とかじゃなく…ただ、お姉さんとエッチなことをしたくなった。
俺には大事な彼女が─春風が、いるのに。
「ごめん…春風。ごめん」
俺は情けない声で、そこにいない春風に謝った。
◇
「─くん、深月君!」
「…え?あ、春風」
「もう放課後だよ!」
目の前に仁王立ちした春風がいる。
お姉さんの家に、借りたスウェットを返しに行った次の日。あれからずっと、俺はボーッとしていた。
「も~…深月君今日ずっとボーッとしてるけど、どうしたの?」
「え?あ…ううん、何でもないよ」
そう言いながら、俺は春風から視線を反らせた。昨日の件でのことがあり、申し訳なくて春風と目が合わせられない。
「なんか~…朝から私に対して挙動不審っていうか、目を合わせないようにしてるっていうか…は!もしかして深月君、浮気的なことでもしてるの!?なんちゃって─」
「いっった!!」
春風にそう言われた瞬間、ガンッ!!と机の端で思いきり手の甲を強打した。
「だ、大丈夫!?今すごい音がしたけど…」
「う、うん…平気」
なんて、今のはまあまあ痛かった。机の下でぶつけた方の手を擦りながら、春風に苦笑いする。
「まあでも、深月君真面目だから、浮気なんてしないって分かってるもんね~」
「あ…ありがとう」
腕を後ろに組みながら、春風は俺に向けてウィンクした。胸が、ズキッとする……
「それより、早く帰ろ」
「…うん」
スクールバッグを肩に掛け、俺は席を立った。
◇
「みおったら授業中に私に変顔で笑わせようとして、そしたら先生にバレて怒られちゃって~」
「ははっ、そうだったんだ」
春風と一緒に下校。隣で楽しそうに春風が話す…けど、内容がほとんど頭に入らない。
ぼんやりとしながら歩いていると。
「!」
ふいにぎゅと、あたたかい何かが俺の手を握った。握られた方の手を見ると、春風が俺の手を握っていた。
「…ねえ、今日は本当にどうしたの?何か悩み事?」
「え?ううん、そうじゃないけど…」
「…私に言えないこと?」
俺の手を握りながら、覗き込むようにして春風は言う。ドキッと二つの意味で胸が鳴る。春風の覗き込む顔が可愛いからということと、昨日のお姉さんとのことで春風に対して罪悪を感じてだ。
「春風…」
俺の顔を覗き込む春風の瞳が、涙の膜の向こうで揺らぐ。綺麗な…瞳。
「…春風、ちょっといい?」
「え?深月君?」
握られた春風の手をぎゅっと握り返し、俺は近くの公園に入った。
「どうしたの?みつ─んっ…」
────────────…
公園の端にある木々の陰。そこで春風とキス…する。
唇を軽く重ねるだけの、静かなキス。
春風とはまだ…お姉さんとするような濃厚なキスはしていない。がっついて春風に嫌われたくないから。
春風のことが─…大好きで、大事にしたいから。
そっ…と。春風の唇から離れる。頬を薄く赤く染めながら、俺を見つめる春風。可愛くて愛しい…
「…大好きだよ、春風」
俺はそう言いながら、春風の身体を優しく抱き寄せた。
これからは…これからも、もっともっと春風のことを大事にしよう。…大好きだから。この子のことだけをしっかり見つめて行こう。
胸の中で、春風のあたたかさを感じながら思っていると。
「…うん、私も深月君のこと…大好きだよ」
春風はそう言って俺の背中に腕を回し、ぎゅっと優しく抱き寄せた。
◇
「は…あ、深月くぅ…ん」
深月君の置いていった傘をベッドに持ってきて、一緒に布団に入る。その傘に裸で抱きつき…傘の持ち手の部分をキスしたり舐めたりする。
「あ…深月君の匂い…」
ぎゅっと、その傘を抱きしめる。私の胸の先端や又に、深月君の傘が当たってゾクゾクする。
「…深月君。深月君と付き合えたら…私の恋人になってくれたらなぁ…」
深月君の傘を又に擦りながら、傘の持ち手部分に何度もキスする。体内がゆっくりゆっくり、発熱してくる。
そして。
「んっ…深月…君っ───」
じわっと。深月君の傘を湿らせると、私は息を切らせながら傘に頬擦りする。
「は…深月君…好き、大好きだよぉ~…」
深月君の傘を撫でながら、私は深月君の傘とベッドで一夜を共にした─────