キスの余韻
「…ただいま~…」
「おかえり~…って、何その腑抜け面。昨日といい今日といい、何かあった?…ってちょっと、また無視?」
家に帰ってくると、ぼーっとしながら俺は階段を上がり、自分の部屋に入った。
─────パフン。
「はぁ~…あぁあ…」
部屋に入ると、スクールバッグをベッドの側に投げ、俺はベッドに倒れるようにしてダイブした。
まだおさまらない、胸の熱とドキドキ。うつ伏せに寝転がっていると、胸の鼓動がベッドマットに当たり、その振動と鼓動音が俺の全身に跳ね返って響く。
ごろりと体を回転させ、うつ伏せから仰向けにする。ふにっと、人差し指で俺は自分の唇に触れる。
すると、ふいに思い起こされる…春風の唇の感触。春風から香る、爽やかでやさしい柑橘系の香り…そして、顔を真っ赤に染める春風の可愛らしい表情。
「~~~~~~……!!!」
声にならない声を喉から出しながら、体をぎゅっと丸める。激しく高鳴る鼓動が、いつまで経っても止まない。全身の発熱がいつまで経っても冷めない。
それくらい、俺にとって初カノとの初キスは衝撃的で素晴らしいものだった。
「はぁ~…やっぱ…好きな子とするキスは…良いな」
春風とキスしたことにより、春風のことがもっともっと好きになった。もっともっと、春風とキスしたい。そして、キス以上のことも…春風ともっとしたくなった。
「春風…会いたい…」
今さっきバイバイしたばっかなのに…また、春風に会いたくなった。
俺はスマホを手に取り、LINEを開くと。
『春風、めっちゃ好き!って、急に送りたくなったw』
と、文字を打ったが。
「…こんなの送ったらキモいか…」
そう思って、ぽちぽちと打った文字を消すと、俺はスマホをぽふんと、ベッドの端に投げた。
普段の自分とはテンションの違う、気持ち悪い文面を打つと、気持ちが少しは落ち着いた…けど。それでも、胸の高鳴りはおさまらず。
「はぁ~…キスっていいな…」
そんなことをひとりごちりながら、春風とのキスの余韻に浸っていると…
「深月~これ確か、あんたが着てたスウェットよね?」
突然ノックもなしに、ガチャッと俺の部屋のドアが開かれた。母さんだ。
「ちょ、も~…部屋に入る時はノックしてくれってば!」
「そんなことより、これ洗濯したわよ。誰から借りたものか知らないけど、さっさと返してきなさいよ」
そう言って母さんは、洗濯したスウェットを俺に渡した。
「もしかしてあんた、年上の彼女でもいるの?女物のスウェットだし、何だかすごく大人の女の匂いがするし~」
ニヤニヤしながらぽそっと、母さんは俺に耳打ちしてきた。
「ちっ、違うよ!!そっ、そんなんじゃないし!てか、母さんには関係ないだろ!」
「何よー!洗濯したのは私よ!教えなさいよ!」
「も、何でもいいだろ!洗濯してくれてありがとう!」
俺は母さんの背中をぐいぐいと押して、部屋から追い出した。
─────パタン。
「はぁ~…」
ため息を吐きながら、ベッドにどさっと座る。
「そうだ、このスウェットあのお姉さんに返しにいかないとな~…」
そう言いながら、綺麗に畳まれたグレーのスウェットを手に取る。いつも我が家で使っている柔軟剤で洗ってるはずなのに、洗われたスウェットからは、お姉さんの甘くてやさしい香りが漂ってきた。
思わず、俺はそのスウェットの匂いを嗅いでしまう。
「…いい匂いだな─って、俺は変態かよ」
畳まれたグレーのスウェットを見つめながら、ため息を吐く。
「…明後日は日曜日か。昼過ぎとか、あのお姉さんいるかな?てか、仕事休みかな?」
日曜日にお姉さんのところに行ってみよう。そんで、早くこのスウェットを返そう。
そう、心の中で思うのだった。
◆
「深月君…私とシて♡」
目の前でゆさゆさと、大きな果実がやわらかに揺れる。
下着姿のお姉さんは俺を床に押し倒すと、俺の身体を跨ぎ、覆い被さるようにして見下ろした。
「シテって…え?な、なにを…?」
「何ってぇ~…服を脱いだらすることはひとつだけでしょ~?エ・ッ・チに決まってるじゃん♡」
お姉さんは、俺の耳元でそう囁くと。
「んぅ…っ」
むにゅっと、俺の胸におっぱいを押しつけながら、お姉さんは俺の唇に吸い付くようにキス…した─────