初カノと初キスは
「…ただいま~…」
「おかえり~…って、あんたその格好何?制服はどうしたの?─…って、深月?ちょっと、お母さんの声聞こえてる?」
家に帰ってくると、足元を少しふらつかせながら、俺は階段を上がり、自分の部屋に入った。
─────ボフン。
「はぁ~…」
部屋に入ると、スクールバッグをベッドの側に投げ、俺はベッドにダイブした。
「何やってんだ俺は…」
枕に顔を埋めながら、大きくため息を吐く。
「やっぱ…彼女以外の女子とキスはダメだろ。それなのに俺は何度も…」
そう、独り言をぶつぶつと言いながら…俺は、お姉さんとのキスを思い出す。その瞬間、お姉さんの唇の感触を思い出し、俺の唇が発熱してくる。だんだん、心臓がドキドキと騒ぎはじめる。
「でも…キスって、あんなに気持ちいいものなんだ。だったら、好きな子としたら…もっと気持ちいいんだろうな…」
目を瞑り、彼女と…春風とキスをするイメージをする。お姉さんが俺にキスしてくれたように、やさしく…そして、深くふかく春風の唇にキスする。
「春風…知らない女の人とキスしてごめん。でも、俺が好きなのは春風だから。それにもう、あの人には会わないだろうし─…いや、違う。このスウェットを洗って返しにいかないといけないか…」
俺の肌に触れる、上下グレーのスウェット。制服がびちょびちょで着れそうもなかったので、結局それを着たまま、家に帰ってきた。甘くて優しい…お姉さんの匂いのするスウェット。
「そういえば…お姉さんの名前、聞いてないな。でももう…いいか────」
ベッドに俯せながら、俺はすうっ…と眠りに落ちた。
スウェットの甘く優しい香りのせいか…俺は、お姉さんと抱き合いながらキスをする夢を見てしまい、さらに春風に申し訳なくなるのだった…。
◇
「ごめん、深月君!委員会会議が思ったより長引いちゃった。待たせてゴメンね」
「ううん、面白い本見つけて集中して読んでたから、時間なんて分かんなかったよ」
放課後。俺の彼女…柊澤春風が息を切らせながら図書室に来た。
放課後に委員会会議があるから先に帰ってていいよと春風は言ったが、俺は春風と一緒に帰りたかったから、図書室で待っていたのだ。
「じゃ、帰ろっか」
「うん」
カタッと席を立ち、俺と春風は図書室を後にした。
「そろそろ夕方だけど、まだ暑いね~」
「そうだね」
「ねえ、コンビニでアイス買って食べようよ」
「いいね、アイス。俺もゴリゴリ君食べたいな」
春風と一緒に、肩を並べて歩く。手は、繋がない。本当は手を繋ぎたいけど…ここは通学路。同級生や知り合いに見られたら冷やかされるので、学校や学校周辺ではあまり手を繋いだりしない。
「わーい、アイス~♪ソフトクリ~ム~♪」
「そこの公園で座りながら食べようか」
「うん♪」
コンビニから出ると、その側にある小さな公園に入り、東屋の下のベンチに座った。
「アイス~♪アイス~♪はい、深月君のゴリゴリ君!」
春風はルンルンで鼻唄を歌いながら、コンビニ袋をガサガサとさせ、アイスを取り出して俺に渡した。
「うーん、おいしい!」
「うん、おいしいね」
シャクシャクと俺はソーダ味のアイスを食べる。春風はバニラのソフトクリームをもふもふと食べていた。
「あ、春風。口にソフトクリームがついてるよ」
「え?どこ?」
「うん、そこ…あ、まだついてる」
「え~、じゃあ深月君がとって」
「え?いいけど…」
そう言われ、俺は指で春風の口元についているアイスを拭い取ろうとした。すると春風は、目を瞑り「ん」と言った。
「ん?なに?」
「…口で取ってほしいな~…って…」
「え…?口?」
俺がそう言うと、春風はこくんとちいさく頷いた。
く、口で取るって…それってキ──…
昨日あのお姉さんからキ、キスのしかたを習ったばっかだけど…まさかこんなに早く、春風とキスするチャンスが来るなんて…!
そう心の中で思いながら、俺は…
ゆっくりと、春風に顔を寄せた。
瞼をゆっくりと閉じていきながら…だんだん、春風に顔を近づける。
いつも春風から香る、やさしい柑橘系の匂いが鼻腔を擽る。
ドキドキと、胸の内側が跳ねる。
そして─────
「んっ…」
舌先で静かに、春風の口元に付いていたアイスを取ると…俺はそのまま、春風の唇に唇を重ねた。キス…した。
─────────……
春風の唇からゆっくりと離れ、閉じていた瞼を開いた。俺の少し後に、春風もゆっくりと瞼を開いた。目が合うと、お互いばっ!と顔を反らせた。顔がぼぼぼと熱くなる。きっと、耳まで真っ赤になってる。…だって、目の前で視線を合わせようとしない春風の顔も耳も真っ赤っかだし。
「あっ、アイス…溶ける前に食べなくちゃ!」
「う、うん、そうだね」
そう言って春風は顔を真っ赤にしながら、溶けかかっているソフトクリームにかぶりついた。
俺の初カノとの初キスは…甘いあまいアイスクリームの味がした。