キスの練習
「へっ…きっ、きす………?」
「そ、キ・ス♡」
そう言って俺の顔の前でにこっと、お姉さんは微笑んだ。
「じょ、冗談ですよね!?」
「冗談…じゃないよ。私ね、深月君みたいな可愛い年下の男の子が好みだし……」
お姉さんはそう言いながら、俺の頬に乗せていた手をすすす…と、顎に沿って滑らせ、ピトッと、俺の唇に指を乗せた。指の先で俺の唇をやさしく弄りながら、俺の唇の傍で「ふふふ…」と妖しく微笑む。
「…ねえ、だめぇ?」
甘えたような声で言いながら、俺の瞳を見つめるお姉さん。お姉さんの大きな瞳には、頬を真っ赤に染めながら間抜けな顔をする俺が映っていた。
俺は、お姉さんの瞳から目を反らすと。
「その…だめ…です」
「え~…だめなのぉ。やっぱり私がおばさんだから?」
「ち、違います。その、俺…彼女いるんで…」
俺がそう言うと、お姉さんは驚いたような顔をしながら「え?」と、言って。
「なーんだ、彼女いるんだ。反応が童貞…じゃない、女の子慣れしてない感じだったから、てっきり彼女いないのかと思った」
「どっ、どどっ、童貞って言わないで下さい!いやまあ…童貞…ですけど─…って、何言ってんだ俺は!?」
「へ~そうなんだ。でも、彼女いるならキスはもう済んでるよね」
「うっ…それが…まだ…です…」
「え?まだキスもしてないの?あ~…付き合ってまだ1週間とか?」
「いや…その…付き合ってそろそろ半年です…」
「えーーーー!?付き合って半年になるのに、エッチどころかキスすらしてないの??」
お姉さんは驚いたように声を上げた。そんなに驚かなくてもいいのに…
「それはまずいわよ~…」
「え…そ、そうですか?」
「だって、付き合って半年になるのに、キスすらしてないなんて…女の子からしたら『私って、そんなに女としての魅力がないのかしら』って不安に思っちゃうわよ」
「そっ、そうなんですか?」
「そうよ~。だから早く、キスしてあげなくちゃ。それとも、キスができない何か理由でもあるの?」
お姉さんにそう言われ、俺はお姉さんから視線を反らせた。そして。
「…その、自信がないって言うか。ヘタクソなキスでもして嫌われたら…とか考えちゃって」
「うわ~…ヘタレだぁ」
「っ!わ、分かってますよ!分かってます…けど…」
言いながら、自身のヘタレさに呆れて殴りたくなってきた。
すると。
「─…じゃあ、私が教えてあげようか…キスのしかた」
「は…え?」
「私がキスのしかたを教えてあげるよ…唇で」
ふるん、とお姉さんの唇が揺れる。
「いや…え?」
「まあきっと、ナニかを見たりしながら、ひとりでキスの勉強したりしてるんだろうけど…それより、キスが上手い人から直接キスしてもらった方が…キスのしかたを教えてもらった方が良いと思うんだ。因みに私、自分ので言うのも何だけどキスは上手だよ♡」
お姉さんは自分の唇に人差し指を当てながら、ウィンクしてそう言った。
「そっ、そんなことできませんよ!彼女以外の女子とキスなんてしたら浮気じゃないですか!」
「浮気にならないわよ~!だってこれはお勉強だもの。先生が生徒にお勉強を教えるようなものよ。それに、深月君は彼女ちゃんとキスしたくないの?」
「それは…したいですけど…」
「だったら、私に任せなさい!彼女ちゃんがメロメロにとろけるキスを教えてア・ゲ・ル♡」
そう言って、お姉さんはニヤッと妖しく微笑む。
「…どうする?やる?」
ふるふると、お姉さんの唇がやわらかに発音する。何だか…頭がくらくらしてきた。
そして、俺は…
「は…い。キスしたいです…い、いや、教えてほしいです……」
お姉さんの艶やかでやわらかそうな唇を見ていると、気づいたら俺はそう言っていた。
「そう…じゃあ、やろっか♡」
お姉さんはそう言うと、俺の首の後ろに腕を回した。ふにふにと、お姉さんのやわらかいおっぱいが俺の胸に当たる。俺の激しく揺れる心臓が、お姉さんのおっぱいに伝わってると思うと…恥ずかし。
「目…閉じて」
耳に、お姉さんの吐息と一緒に囁きが触れる。ゾクッ…とする。
俺は、お姉さんの言われた通りに目を閉じる…と。
「…じゃあ、キス…するね」
………………………
静かで。
窓の外で降る雨が、よく聞こえる。
胸に押しつけられているお姉さんの胸が、あったかくてやわらかくて…俺の真ん中が熱く鼓動する。
だんだん、近づいてくる微かな呼吸音。
お姉さんの、甘い香り。
唇に…甘くて温かい息が触れ、ると─────
「んっ…」
唇に、やわらかいものが押し当てられた。
あったかくて…息がしずらいけど、心地よくて。
「ん…ふっ…」
お姉さんはチュッチュと、俺の唇に何度も何度もキスしては離れるを繰り返す。その度、お姉さんの胸がふにふにと押し当てられる。
「唇…軽く開けて」
俺は、お姉さんに言われた通りに唇を軽く開く。すると、湿ったやわらかいものが…俺の唇をひたひたと軽く舐め…そしてそれは、俺の口の中にぬるぬると入ってきた。
「う…ん…」
「ん…」
俺の舌に絡みついては離れる、やわらかくて温かいもの。心地よくて…頭がふわふわしてくる。
─────ちゅ…ぱっ。
お姉さんは、俺の舌に絡めていたものを解くと、俺の唇のそばで微笑んだ。やさしいけど、どこか妖しげな微笑み。
「…ごめん、調子に乗りすぎて上級者向けのキスまでしちゃった。もし、その彼女さんとキスするなら、最初にやった唇に軽く触れるくらいのキスがいいよ。濃いめのキスは…何度かキスして慣れてきた頃にしてね」
俺の唇のそばで、お姉さんはそう言う。
「…もう一度、軽いキスだけ…練習しようか」
ふるん…と、お姉さんの唇が揺れる。さっきよりつやつやに濡れた桃色の唇。
俺はお姉さんの唇を見つめながら。
「…お願いします」
俺がこくりと頷くと、お姉さんは俺の唇にまたキスをした。
或雨の日、俺は近所のお姉さんに初めての接吻を教えてもらった…