彼女が無防備過ぎる件
カチャッ。
「さ、入って入って」
キイッ─…と、ドアを開けた音が家の中に響く。
「はっはははい!おっ、お邪魔します!」
「なんで緊張してるの~?誰もいないんだってば」
春風はクスクス笑いながら言う。誰もいないから緊張してるんですっ!と、俺は内心で叫ぶ。寧ろ、春風のお母さんにはいてほしかった。
「私のお部屋はこっち。2階にあるんだ」
「は、はい」
家に入ってすぐのところに階段があり、その階段を上がる。すると。
「…!?」
トントンと階段を上がりながら、春風は後ろを歩く俺に何か話している。だけど、内容がまったく頭に入らない。俺の意識は、目の前でひらひらと揺れる春風のスカートに行っていた。パンツは辛うじて見えないけど、太ももがスカートからチラチラと覗く。
華奢と思ってたけど…春風の太ももはけっこうむちっ、としていた。
…あ、あれかな?春風は着痩せするタイプかな?脱いだら─…
そう、こころで呟いていると。ぽわんと、裸の春風のイメージが脳内にぼんやりと映る。ふいに、熱を帯びる俺の半身。俺は慌てて頭を横に振り、脳内イメージを消す。
「…深月君?どうしたの?」
はっ!として、俺は声のする方を見た。すると、階段を上っていた春風は足を止め、俺の方に振り向いていた。
「ずっと顔色悪いし冷や汗すごいよ?やっぱり体調悪いんじゃない?…だとしたら無理しないで帰ろ。私送るよ」
すごく、心配そうな顔で俺を見つめる春風。その表情が可愛いなと思うのと同時に、邪な思いを廻らせ、春風にいらぬ心配を掛けさせた自分を殴りたくなった。いや、実際に…
バチンっ!!!
「!!!?深月君!?」
俺は冷静になるために、自分の両頬を平手で思いきり叩いた。
いかんいかん。変なこと考えるな、俺!!今日は春風とテスト勉強するだけだ!ふ、ふたりきりだからなんだって言うんだ!ふたりきりだからって…
「…顔色悪くしたり冷や汗かいたり、頬っぺた叩いたり静かになったり…今日の深月君やっぱ変だよ」
尚も心配な面持ちの春風。
「ご、ごめん、やっぱまだ何だかすごく緊張してて…」
「…ほんとに?体調悪いのを隠してない?」
「うん、緊張してるだけ」
「─じゃあさ、抱きしめる?そしたら、少しは緊張が解れないかな?」
そう言いながら、春風は両手を広げた。けど。
「あ、ありがとう。でもごめん、今はいいかな…」
今抱きしめられたら、折角ちょっと鎮まった理性がまた暴れだしそうだったので、春風には申し訳ないけど抱擁を断った。すると少し、春風は寂しそうな顔をした。
…気まずい空気が流れる。
「そ、それよりそこが春風の部屋かな?」
気まずい空気を変えようとして、俺は階段の傍にあった部屋に指をさして聴いた。
「あ、うん、そうだよ!はい、どうぞ」
少し慌てた様子でそう言いながら、春風は部屋のドアを開けた。その瞬間─部屋の中から、やさしい柑橘系の香りが漂ってきた。いつも、春風から香る匂いだ。
「おっ、お邪魔します…」
俺は今日2度目の『お邪魔します』を言いながら、春風の部屋に入った。春風の部屋は、俺が想像していた女の子の部屋そのものだった。
ベッドや部屋の隅々にぬいぐるみが置いてあり、家具や壁はピンクと白が主で部屋内は明るくそして、綺麗に片付いていて。なにより、いい匂い。俺の薄暗くて散らかり気味の部屋とは全然違う。
「こっちに座ってね」
そう言って春風は、部屋の真ん中にある、真っ白でちいさいテーブルの前に俺を案内した。俺はおどおどしながら、そこに正座で座る。
「正座したら足痛くなっちゃうよ?足崩して楽に座りなよ。私、何か飲み物持ってくるね」
「あ、うん」
春風が飲み物を取りに行くと。
「どはぁ~…」
俺はどでかいため息を吐いた。
…彼女の家に入るのってこんなに緊張するんだな。緊張…というか、変なことを常に考えてしまうっていうか…
お姉さんの家に入った時もドキドキしたけど─…好きな女子の家に─…部屋に入るのは、もっとドキドキする。こ、こんなの俺だけなのか?こんなもんなのか??
ドキドキしながら、1人でそんなことを考えていると。
「おまたせ~。ジュースがなかったから冷たいお茶しかなかったけど、それでよかったかな?」
透明なコップに注がれたお茶とお菓子を乗せたお盆を持って、春風が戻ってきた。
「お茶でも何でも大丈夫だよ。ありがとう」
春風がちいさいテーブルにお茶を置くと、俺はすぐにそれを手に取り「いただきます」と言って、ごくごく飲んだ。緊張のせいか、または冷や汗をかきすぎたためか、ひどく喉が渇いていた。コップに注がれていた緑茶は、とても冷たくて。飲む度俺の枯れた喉を潤していった。
「えーっと、カバンどこに置いたっけ─…」
持ってきたお茶とお菓子をテーブルに置くと、春風は立ち上がって、くるりと俺に背を向けた。すると─…春風のスカートが捲れていて…シルクっぽい、つやのある真っ白いパンツが露になっていた。
「ぶふぉっ!!!?」
春風のパン…スカートの向こうを見ると、俺は飲んでいたお茶を思いきり口から吹き出した。
「ええ!?ちょっ、どうしたの深月君!?」
俺がお茶を吹き出すと、春風は驚いてティッシュの箱をすぐに持ってきた。
「ごほっ、げほっ…は、春風…後ろ。スカートが捲れて…見えてるよ」
「え?…あっ、ほんとだっ!さっきトイレに入ったからその時にかな…恥ずかしい…」
春風は俺に言われて捲れ上がったスカートに気づくと、顔をほんのり赤く染めながら捲れたスカートを直した。
…邪なことばっか考えてる俺も俺だけど、春風も無防備すぎじゃないかな?
俺、このまま理性保てるかな…




