第六話 新兵器パイルバンカー
カイロン社の戦闘メカ『ヴェルクシュトルム』や『クライフバウム』との戦いから数日が経過した。
バーナム鉱業の採掘場は半壊し、多くの作業員が負傷していた。
キャケロビャも大きなダメージを受けていた。
左腕の関節部分が損傷、装甲の一部は焦げ付き、動力系統にも不調が出ていた。
ダンは鉱山基地の整備場に座り込んで、愛機を見上げた。
「…このままじゃ、次はやられる」
キャケロビャは本来、採掘用の重機だ。
戦闘用ではない。
ドリルアームは強力だが、やはり敵の装甲を貫くには不十分。
せめて、もう少し攻撃力があれば…
「ダン、まだ落ち込んでるの?」
整備士のリーナ・ファルク。
彼女が、工具箱を抱えて近づいてきた。
汚れた作業服の袖をまくり上げ、キャケロビャを睨むように見つめる。
そして軽くため息を吐く。
「…別に落ち込んでるわけじゃない。ただ、このままじゃダメだって分かってるだけさ」
「だったら、こいつの腕をもっと強化するわよ」
リーナはキャケロビャの左腕の損傷部分を指さした。
それとともに、タブレットに表示されたデータをダンに見せる。
そこには、新たな武器を取り付けるための改造計画が書かれていた。
「追加武装プランか…!」
「ええ、これを使うわ」
リーナが指さした先にあったのは、巨大な旧式のパイルバンカー。
もともとは硬質岩盤の破砕作業に使われる掘削機であり、圧縮空気で鋼鉄の杭を撃ち出す装置だ。
旧式ゆえに倉庫の奥にしまわれていたものだった。
しかし、作業員の一人がリーナに武装として使えないか?と相談を持ち掛けたのだ。
「これをキャケロビャの左腕に取り付ければ、近接戦闘の主力武器になるはずよ」
「…なるほどな」
ダンはゆっくりと頷いた。
ドリルは持続的な破壊には優れているが、一撃の威力ではパイルバンカーに劣る。
この武器なら、敵の重装甲を一撃で貫けるかもしれない。
「ただし…これを扱うには相当な衝撃がかかる。キャケロビャのフレームが耐えられるように補強もしなきゃならないわ」
「やるしかないな。俺たちは戦うしかないんだ」
こうして、キャケロビャの新兵器の開発が始まった。
リーナと整備班の協力により、パイルバンカーの取り付け作業が進められた。
キャケロビャの脚部の関節部には衝撃吸収用の油圧ショックアブソーバーが追加された。
機体全体のバランスを調整するために、背部に安定用の補助スラスターとスタビライザーが取り付けられた。
いずれも、今までのカイロン社の敵機のジャンクから調達したものだ。
「試しに撃ってみなさい」
リーナの指示で、ダンはキャケロビャを操作する。
衝撃吸収用の油圧ショックアブソーバーを展開し、目の前の分厚い岩盤にパイルバンカーを突き立てた。
轟音と共に、岩盤に鋼鉄の杭が突き刺さる。
そして岩盤は一瞬で砕け散った。
これまでのドリルとは比較にならない威力だ。
「…すげぇ」
「威力は申し分ないわね。でも、問題は…」
リーナがモニターを確認する。
やはり、関節部の負荷が想定以上に高く、連続使用が困難であることが判明した。
しかし、逆に言えば単発での使用には特に問題がないともいえる。
「むやみに使うと、キャケロビャのフレームごと壊れちゃうわよ」
「なら、一撃必殺の武器として使うしかないな」
「そういうこと。使うタイミングを見極めなさい」
こうして、キャケロビャは新たな武器『パイルバンカー』を得た。
そして、試運転から数時間後、警報が鳴り響いた。
「敵襲! カイロン社の部隊がまた来た!」
採掘場の監視塔からの報告が入り、ダンはすぐさまキャケロビャに乗り込む。
「今度はどんなやつが来るんだ…?」
戦場に現れたのは、カイロン社の旧式後方支援機『シュルードヴァイス』。
長距離射撃を得意とする支援型メカで、遠距離からの砲撃でバーナム鉱業の施設を攻撃していた。
しかし命中率が悪いのか、思ったように当たっていない。
弾の装填も遅そうだ。
「遠距離攻撃…面倒な相手だな」
キャケロビャは元々、接近戦向きの機体であり遠距離戦は不利だ。
しかし、ここで引くわけにはいかない。
命中率が悪いとはいえ、一撃でも食らえば致命傷になる。
「行くぞ、キャケロビャ!」
ダンはスラスターを吹かし、岩場を駆けながら敵の砲撃を回避する。
砲弾が地面に着弾し、砂煙が舞う。
「迂闊に近づいたら撃ち抜かれる…」
ダンは考えながら、周囲の地形を利用する方法を模索する。
そして、ある作戦を思いついた。
シュルードヴァイスの狙撃を避けながら、ダンはキャケロビャを鉱山の岩場の陰に潜ませる。
「視界に入れば、嫌でも撃ってくるはずだ」
敵は慎重に距離を取って砲撃を続けていた。
だが、ダンはわざと機体を敵の射程にさらした。
そう、あえてしびれを切らしたように見せかけて…
「今だ!」
シュルードヴァイスがキャケロビャを捕捉し、リニアキャノンを発射したその瞬間…
ダンはキャケロビャのスラスターを全開にし、砲撃の瞬間に横へ跳ぶ。
敵の砲撃はわずかに外れ、ダンは一気に距離を詰める。
「くらえええええ!!」
キャケロビャの左腕が振りかぶられ、パイルバンカーが作動。
シュルードヴァイスのコックピット付近に杭が突き刺さった。
コントロール機器を貫いたのだ。
その瞬間、敵機のセンサーが狂ったように点滅する。
「やった…!!」
シュルードヴァイスは制御を失い、バランスを崩して転倒。
カイロン社の部隊は動揺し、撤退を開始した。
以前の『クライフバウム』の時と同様に、乗っていたのは一般社員だったらしい。
旧式支援機のシュルードヴァイスに一般社員を乗せて運用していた。
もしかして、カイロン社には余裕がないのか?
それとも…?
ふと、そう考えてしまう。
「パイルバンカーか。悪くないな」
ダンは機体の計器を確認しながら、手応えを感じていた。
新武装は想像以上の効果を発揮し、カイロン社の脅威を退けることができた。
しかし、リーナはまだ厳しい表情だった。
ダンは拳を握りしめた。
「敵はどんどん強くなっていくわよ。次はもっと厄介な機体を投入してくるはず」
「それでも、俺たちはやるしかない」
こうして、キャケロビャは新たな武器を手にした。
そしてさらなる戦いへと挑むこととなったのだった。
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CX-07W『シュルードヴァイス』(旧式支援機)
全高:8.5m
装甲:強化チタン合金+耐衝撃セラミックコーティング
武装:
•ZS-22 リニアキャノン×1
•近接防衛用ガトリング砲(腹部)
•フレア&チャフ(腰部)
概要:
もともと後方支援用の機体であり、前線での戦闘には向いていない。
そのため、地形を利用して身を隠し、遠距離からの支援砲撃が基本戦術となる。
機動性は低く、近距離戦闘には極端に弱い。
特に、近接戦闘を得意とする機体に接近されると、ほぼ撃破される。
しかし、熟練のパイロットが搭乗すれば長距離戦闘では圧倒的な火力を発揮し、敵を寄せ付けない戦闘が可能となる。
カイロン社は最新鋭の戦闘メカを配備するまでのつなぎとして、旧式のシュルードヴァイスを現地の部隊に配備。
バーナム鉱業の拠点を砲撃し、圧力をかける役割を担っている。
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