第五話 戦場の採掘場
ガライアVの朝は赤茶けた大地と灰色の空に包まれている。
薄暗い採掘場では鉱山労働者たちがいつものように作業を始めていた。
ダン・ウェルナーも例外ではない。
キャケロビャの操縦席に座り、地面に巨大なドリルを突き立てながら鉱石を掘削していた。
バーナム鉱業の労働者たちは、最近のカイロン社との戦闘の影響で疲弊していた。
だが、企業側からの命令は変わらず、『利益を出せ』の一点張りだった。
「ちくしょう、俺たちが戦ってる間に、あいつらは会議室でワインでも飲んでるんだろうな…」
ダンは悪態をつきながら、モニターを睨みつけた。
ふと、通信機が雑音混じりの音を発する。
「おい、ダン!採掘場の北側で爆発があった! 何が起きてるか確認してくれ!」
「…嫌な予感がするな」
「先に言ったやつらからの連絡が来ないんだ!」
ダンはキャケロビャのスラスターを吹かし、駆け出した。
爆発現場に到着すると、そこには地獄のような光景が広がっていた。
炎を上げる採掘施設。
転がる作業用ロボットの残骸。
逃げ惑う労働者たち。
そして、その中心に、異形の機体が立っていた。
「またカイロン社か…!」
ダンの目に映ったのは、カイロン社の新型戦闘メカ 『クライフバウム』だった。
鋼鉄の巨躯はバーナム鉱業の作業ロボットとは明らかに異なっていた。
戦闘用に設計された重装甲を備えていたのだ。
何よりも特徴的なのは、両腕に備えられた巨大な油圧式の破砕クロー。
強化合金の鉱石すら握り潰すその腕は、まるで死神の鎌のようだった。
「おいおい、あんなもんとやり合えってのかよ…」
ダンは息を呑んだ。
少なくとも、周囲に一切の被害を出さずに戦える相手ではない。
そのことをダンは瞬時に理解した。
「全員、逃げろ!」
ダンは無線で仲間たちに避難を指示する。
キャケロビャをクライフバウムの前に立ちはだかるように動かした。
「来いよ、クソ鉄塊…!」
キャケロビャのドリルが唸りを上げ、ダンはクライフバウムの装甲を貫こうと突進した。
しかし、クライフバウムの装甲は予想以上に硬く、ドリルが跳ね返されてしまう。
その瞬間、クライフバウムの巨大なクローがキャケロビャに向かって振り下ろされた。
「なっ…!?くそっ!」
ダンは咄嗟にスラスターを吹かし、キャケロビャを横に跳ばす。
しかし、それでもクローの一撃はかすめ、キャケロビャの肩装甲が砕けた。警報音が鳴り響く。
「ちょっと、ダン!その機体、もうボロボロよ!」
リーナの声が通信機越しに響く。
以前のギル・レイバーのヴェルクシュトルムとの戦闘。
それが思ったよりもダメージになっていたのだ。
「わかってる、だけど…!」
ダンは歯を食いしばった。
このまま逃げれば、クライフバウムは作業員たちを皆殺しにするだろう。
逆転の一撃を用意する必要がある。
それは…
「ダン、応急処置用の炸薬を積んでるわね? 地面に仕掛けて!」
リーナからの通信。
ダンは一瞬考えた後、キャケロビャの荷台に積まれていた爆薬に目をやる。
以前のギル・レイバーのヴェルクシュトルムと戦った時に使った戦法。
それと同じことを再びやるのだ。
「…なるほど、やるしかねぇな!」
ダンはキャケロビャのアームを操作し、炸薬をクライフバウムの足元にばら撒いた。
ギル・レイバーのヴェルクシュトルムとは違い、相手は重量級の機体だ。
爆薬を大量に使う必要がある。
「勝負だ!」
クライフバウムがクローを振り上げた瞬間、ダンはキャケロビャのドリルを地面に突き立てた。
火花を散らせ、その火花が導火線に火をつける。
急いでその場を離脱するダンとキャケロビャ。
そして…
ドンッ!!
爆薬が炸裂し、衝撃波とともに砂煙が舞い上がる。
爆風に煽られたクライフバウムはバランスを崩し、巨体を揺らしながら膝をついた。
「今のうちに撤退よ!」
リーナの声に従い、ダンはキャケロビャを後退させる。
砂塵が晴れると、クライフバウムはまだ動いていたが、機体は大きく損傷していた。
完全に横転し、動くことができなくなっていた。
「くそっ…次はこうはいかねぇぞ…!」
カイロン社のパイロットが悔しげに舌打ちしながら撤退していく。
以前のギル・レイバーとヴェルクシュトルムとは違い、操縦していたのはカイロン社の一般社員だったようだ。
もしこれがギル・レイバーのような者だったら、今回のようにはいかなかっただろう。
ダンはキャケロビャを操縦しながら、大きく息をついた。
「…なんとかなったか」
しかし、安堵する間もなく、リーナから通信が入る。
「ダン、いいニュースと悪いニュースがあるわ」
「…先に悪いニュースを聞こうか」
「カイロン社の戦闘メカは、これが最後じゃないわ。おそらく、もっと強力な機体が投入される」
「…やっぱりな」
ダンは天を仰ぎ、唇を噛み締めた。
以前、ヴォルクが捕まえたカイロン社のスパイ。
今回の襲撃で彼も負傷したのだという。
それで気が変わったのだろう。
その彼が情報を吐いたらしい。
「じゃあ、いいニュースは?」
「キャケロビャを戦闘用に改造する方法を思いついたわ。次は、戦えるようにするわよ」
リーナの言葉に、ダンは目を細めた。
彼女は最高の仲間だ。
あらためて、それを再確認させられた。
「…頼んだぜ」
戦いは、まだ終わらない。むしろ、これからが本番だった。
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CA-07B『クライフバウム』(重装甲近接戦闘)
全高:12.7m
装甲:重装甲+耐衝撃セラミックコーティング
武装:
•破砕クロー×2(両腕部)
•火炎放射ユニット
•ショックウェーブ・スタンプ(両脚部)
追加武装プラン:
大型野戦砲×2(背部)
概要:
重装甲と強靭なフレームを持つ格闘型メカ。
両腕に装備された油圧式破砕クローにより、敵を掴み潰す戦法を得意とする。
過酷な戦場での戦闘を想定し、耐爆性能が高い。
機動力は低いが、瓦礫を押しのけて進む力強さを持つ。
複雑な操縦を必要とせず、優れたインターフェースを持つため、比較的操縦がしやすい。
追加武装プランは大型野戦砲。
その重装甲と強靭なフレームに目をつけ、後方支援機に転用した。