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第四話 その男、『ギル・レイバー』

 

 惑星ガライアVの夜は静かだった。

 薄暗い採掘場に、風が吹き抜けるたび、崩れかけた鉱山施設の鉄骨が軋みを上げる。

 そこに、巨大な機体がひっそりとたたずんでいた。


 採掘用ロボット『キャケロビャ』だった。


 機体の随所には、戦いの爪痕が刻まれている。

 装甲はひび割れ、油が滴り落ちる。ドリルアームの先端も摩耗していた。

 その傍らで、ダン・ウェルナーはタバコを咥えながらキャケロビャを見上げた。

 すでに何度も死にかけている。

 けれど、ここで戦わなければすべてを奪われる。

 仲間も、採掘場も、自分も。

 全てカイロン社に奪われてしまう。


「おい、ダン!」


 低い怒声が響いた。

 バーナム鉱業の上層部に属するハーヴィー所長が険しい顔で歩み寄る。


「戦闘はやめろ。キャケロビャは採掘に戻すんだ」


「冗談だろ。戦わなきゃ、俺たちは終わる」


「軍に頼めばいい。こんな素人の戦争ごっこに付き合うつもりはない」


 ダンは忌々しげにタバコを指で弾くと、所長の目を睨みつけた。


「軍が来る頃には、ここはもうカイロン社のもんになってるぜ?」


 所長は顔を歪めるが、あきらめたような顔で戻っていった。

 ダンはため息をつき、機体に手を添えた。

 所長の気持ちもわかる。

 これ以上、戦いを広げたくないのだろう。

 しかし…


「戦えるだけ戦う。それが俺のやり方だ」


 沈黙が続く。

 だが整備士の女、リーナ・ファルクは、やれやれと肩をすくめた。

 そのやりとりを遠巻きに見ていた


「戦うなら、もっとちゃんと準備しなさいよ」


 リーナは整備用のタブレットを片手に歩み寄ると、キャケロビャを叩く。

 随所に刻まれた、戦いの爪痕。

 装甲はひび割れ、油が滴り落ちる。


「このままじゃ、次は持たないわよ」


「じゃあどうしろってんだ?」


「戦闘用に改造するのよ」


 リーナの口調は淡々としていた。ダンは眉をひそめる。


「採掘用ロボットを戦闘用に?」


 まともに戦えるメカがないなら、改造するしかない。

 廃材を使って追加装甲をつける。

 エネルギー供給も改良して、ドリルの回転数を上げる。


「少しは戦いやすくなるはずよ。」


 ダンは一瞬考え込むが、やがてニヤリと笑った。

 幸い、素材はたくさんある。

 以前倒したカイロン社のロボットたちだ。

 旧型戦闘用ロボット『バーランダー』、高速強襲型『スプリッター』、護衛機『ヴァルサルト』。

 何かに使えないかと、倉庫に残骸を保管していたのだ。


「いいな、それ」


 こうして、リーナ主導のもと、キャケロビャの改修作業が始まった。

 ジャンクパーツを使い、ヴォルクが残してくれたデータを参考にしながら計画を立てる。

 作業は難航した…


 --------------------


 一方、カイロン社の本部では、一人の男がモニターを見つめていた。

 彼の名は『ギル・レイバー』、カイロン社に雇われた大戦時のエースパイロットだ。

 彼は戦闘データを見つめ、軽い笑みを浮かべた。


「なるほど、あの採掘ロボット。面白い動きをするじゃないか」


 以前の戦闘データの映像。

 キャケロビャの戦闘映像を見ながら冷静に分析する。

 上官がギルに命じる。


「キャケロビャを破壊しろ。バーナム鉱業はそれで戦意を喪失する」


「いいぜ。ちょっとした狩りを楽しませてもらおう」


 ギルの機体。

 それはかつての大戦時の主力機体。

 漆黒の『ヴェルクシュトルム』だった。



 --------------------


 翌日。

 リーナとダンの努力の甲斐あって、キャケロビャは一回り頑丈になった。

 胴体にはジャンクパーツを加工した追加装甲が取り付けられた。

 肩部には耐久性を向上させる補強フレームが設置された。

 エネルギー供給システムも改良され、ドリルアームの回転速度は従来の1.3倍に強化されている。

 ダンは新たなキャケロビャに乗り込み、操縦桿を握る。


「いい感じだな…これならやれる」


 しかし、その時、爆音が響き渡った。

 カイロン社の機体が、バーナム鉱業の拠点を襲撃してきたのだ。

 そして、そこにはヴェルクシュトルムがいた。

 早速出撃するダンとキャケロビャ。

 しかし、ヴェルクシュトルムは圧倒的だった。


「作業用にしてはいい動きだな」


 ギルが呟く。

 高機動型の戦闘メカであるヴェルクシュトルム。

 ブースターを駆使した高速移動と、精密な射撃技術でダンを翻弄する。


「ちっ、こいつ…!」


 ダンは追加装甲のおかげで攻撃を耐えるが、決定打を与えられない。

 キャケロビャはもともと戦闘用ではなく、機動力ではどうしても劣るのだ。

 ギルは余裕の笑みを浮かべながら、通信を入れてきた。


「悪くない動きだな。でも、所詮は素人ってことか」


 次の瞬間、ヴェルクシュトルムのレーザーキャノンが放たれる。

 まずは威嚇用の一撃。

 ダンの背後の岩山を削り取った。

 しかし、次に直撃すれば終わりだ。

 と、その時だった。


「ダン、聞こえる!?」


 リーナの声が通信に割り込んだ。


「採掘用の爆薬がまだ残ってるわ! ドリルで地面を掘って仕掛けなさい!」


 ダンはすぐに理解した。


「なるほどな…やってみる!」


 キャケロビャのドリルアームが地面を抉る。

 そのまま、採掘爆薬を埋め込む。

 これは作業用ロボットのキャケロビャに搭載された機能だ。

 ドリルの先端から、小型の採掘用の爆薬を仕込むことができる。


「…なるほど!」


 これは一般兵器には当然、搭載されていない機能だ。

 もしかしたら、ギルも知らないかもしれない。

 彼の意識外からの攻撃になるかもしれない。

 ヴェルクシュトルムの足元に誘導する。


「…そこだッ!」


 起爆スイッチを押した。

 爆音とともに、ヴェルクシュトルムは爆発に包まれる。

 ギルは咄嗟に機体を跳躍させるが、採掘用の爆薬によりヴェルクシュトルムのフレームに違和感が発生した。

 バランスを崩し、一時的に戦線を離脱せざるを得なくなった。


「クソッ、こんなやり方で…!」


 ダンは息を吐きながら、キャケロビャのドリルアームを構える。

 通信の向こうで、ギルが不敵に笑う。

 こんな戦い方があったのか、と思いながら。


「知恵と工夫があれば、こっちにも戦える道はあるんだよ」


「面白いな…またやろうぜ」


「俺はやりたくないな」


「いいじゃねえか。このゲーム、まだまだ楽しめそうだ」


 ヴェルクシュトルムは撤退し、戦闘は終わった。

 しかし、それは今回だけだ。

 地形を利用した爆破作戦によって、その機動力を封じ、一時的に撤退に追い込んだ。

 ギル・レイバーは、その敗北を決して忘れない。

 戦闘後、リーナはキャケロビャの整備をしながら、ダンに言った。


「私たちの機体は、戦闘用じゃない。でも、知恵と工夫でやれることはある」


 ダンは静かに頷く。

 これは、戦いではなく、生き延びるための戦いだ。

 だが、ギルの笑みがダンの胸に不穏な予感を残していた。

 本当の戦いは、まだ始まったばかりなのだ。



 --------------------



 KZ-07GR 「ヴェルクシュトルム」(ギル・レイバー仕様)

 タイプ:高機動型戦闘メカ

 全高:11.2m

 装甲:軽量複合チタン合金フレーム+耐衝撃セラミックコーティング

 武装:

 •バスターレーザーキャノン×1(右腕部)

 •高性能センサーユニット(頭部)

 •プラズマブレード×2(両腕部)

 •ブースターパイル(脚部内蔵)

 概要:

 ヴェルクシュトルムは徹底したヒット&アウェイ戦術を採用する。

 相手の動きを読んで先手を取り、高速機動で撹乱しながら確実にダメージを与える。

 敵が動きの鈍い機体であれば、もはや反撃すらさせないまま一方的に攻め立てる。

 ギルの操縦技術により、ヴェルクシュトルムは本来のスペック以上の性能を引き出している。

 彼は機体の特性を活かし、敵の攻撃を紙一重でかわしながら反撃するスタイルを得意とし、決して無駄な動きをしない。

面白かったと思っていただけたら、感想、誤字指摘、ブクマなどよろしくお願いします! 作者のモチベーションが上がります! コメントなんかもいただけるととても嬉しいです! 皆様のお言葉、いつも力になっております! ありがとうございます!

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