第三話 傭兵の教え
資源惑星ガライアVの夜は静かだった。
だが、それは戦いの終わりではなく、次の戦闘への猶予に過ぎない。
荒涼とした大地に、バーナム鉱業の採掘現場が広がっている。
度重なるカイロン社の襲撃により、バーナム鉱業の労働者たちは疲れ果てていた。
鉱夫も、整備士も、皆が疲労の色を隠せない。
「なぁ、本当に戦えるのか?」
「もう軍に頼んだ方がいいんじゃないか?」
「こんな辺境に来てくれるわけないだろ…」
そんな声が、作業場のあちこちで聞こえてくる。
ダン・ウェルナーもまた、キャケロビャの整備を終え、汗を拭いながら周囲を見渡した。
仲間たちの疲弊した姿に胸を痛めつつも、彼自身もまた疲労と苛立ちを感じていた。
キャケロビャの操縦席で目を閉じる。
そして思いにふける。
「(このままじゃ、ジリ貧だな…)」
カイロン社の襲撃はいつ来るかわからない。
ダンは戦える。
ただし、それは運が良ければの話だ。
もし負けてしまったら…
「お前の戦い方じゃ、いずれ死ぬぞ」
不意に、作業場に声が響いた。
大きくはないが、芯の通ったはっきりとした声。
ダンが操縦席からのぞくと、そこには一人の男が立っていた。
灰色の外套を羽織り、無精ひげを生やした壮年の男。
目は鋭く、鋼のような雰囲気を持っている。
操縦席から降り、男の前に立つダン。
「…誰だ、お前?」
「ヴォルク・ザガノフ。かつて戦場を渡り歩いた者だ」
ヴォルクは口元に薄く笑みを浮かべた。
鋭い眼光と鍛え抜かれた体躯。
一目でただ者ではないと分かる。
彼は昔、『傭兵』と呼ばれていた男だという。
ダンはその名に聞き覚えはなかったが、彼の雰囲気から只者ではないことを感じ取った。
そんな時…
「あんた、軍人さんか?」
作業場の作業員たちが話しかけてきた。
それに対し、ヴォルクが答える。
微かに笑い、首を横に振りながら。
「違うが、まあ似たようなものだ」
「おおそうか!上の人が呼んでくれたのか!」
そう言ってほかの者たちに伝えに行く。
「お前、闇雲に戦ってるだけだろ。おかげで何とか生き延びてるが…そのままじゃ長くは持たねぇ」
「…だったら、どうしろってんだ?」
「教えてやるさ、傭兵流の戦い方をな」
ダンは一瞬、彼の言葉に戸惑った。
だが、すぐに興味を抱いた。
これまで自己流で戦ってきた。
そのため、専門家の指導を受ける機会などなかったのだ。
少なくとも自己流で戦うよりははるかにマシだろう。
「…分かった。教えてくれ」
こうして、ダンはヴォルクから戦闘技術の指導を受けることになった。
彼の指導は厳しく、しかし的確だった。
まずは地形を利用して敵を翻弄する戦法を学んだ。
ガライアVは複雑な地形をしている。
それを活かし、岩陰や高低差を利用して敵の攻撃を回避。
逆に奇襲を仕掛ける。
ヴォルクは、地形を読む力とそれを戦術に組み込む技術の重要性を説いた。
「まず、戦場に立つ前に考えろ。自分の機体の特性、敵の特性、そして地形の使い方だ」
ヴォルクはそう言いながら、手元の端末にガライアVの地形データを映し出した。
「この惑星は岩盤が多いが、一部には沈下しやすい砂地や、天然の鉱脈がむき出しになっている場所もある。お前のキャケロビャは鈍重だが、地形を利用すれば敵を翻弄できる」
「…なるほど」
そう言いながらダンは頷いた。
以前、自作の罠を使った戦闘をしたことがあった。
いわば、それを発展させたような戦いをしろということだろう。
彼は今までは正面からぶつかることばかり考えていた。
だが戦闘用のメカと違い、採掘用ロボットには“機動戦”は向かない。
「それから、もう一つ大事なことがある」
ヴォルクはダンの肩を叩いた。
「相手の死角を突くことだ」
キャケロビャの武器はドリルアームだが、振りが大きいため、正面からの攻撃は回避されやすい。
ヴォルクは相手の死角を突く立ち回りを教えた。
敵の視界や注意の届かない位置から攻撃を仕掛けることで、効果的にダメージを与える方法だ。
ダンは、敵の背後や側面に回り込む訓練を繰り返した。
「敵の側面や背後に回り込めれば、相手は回避する暇もない」
ダンはヴォルクの言葉を反芻する。
今までは力任せに戦っていたが、狙う場所を選べばより効率的に戦える。
狙うならば関節や装甲の薄い部分になるだろうか。
場合によっては操縦席も候補にはなるだろう。
真っ先に防御されるだろうが、選択肢の一つにはなるか。
「そして最後に、“一撃必殺の攻撃”だ」
ヴォルクは笑う。
採掘用ロボットであるキャケロビャのパワーを活かした一撃必殺の攻撃も教えられた。
ドリルアームの破壊力を最大限に活用し、敵の急所を狙うことで、一撃で戦闘を終結させる。
「お前の機体は戦闘用じゃねぇが、パワーだけは本物だ。なら、狙いを定めて一発で仕留める。無駄な戦いをするな。お前の機体には、そんな余裕はない」
「…分かった」
ダンは拳を握りしめた。
敵の急所を狙うことで、一撃で戦闘を終結させる。
この技術を習得するため、何度もシミュレーションを重ねた。
「次の戦いで、試してみる」
ヴォルクは満足そうに頷いた。
「そうこなくちゃな」
仕事の合間に訓練の日々が続く日々…
その夜、バーナム鉱業の施設内で異変が起きた。
バーナム鉱業内で不審な動きがあることが判明したのだ。
調査の結果、カイロン社のスパイが潜入していることが明らかになった。
整備場の倉庫から機密データが盗まれたのだ。
「…スパイがいる」
ヴォルクは冷静に言い放った。
それを聞いた作業員たちは驚きを隠せない。
「こんな辺境にまで来て、情報を盗むってことは…」
「カイロン社の内通者がいるな」
「チッ…内部に敵がいるなんて最悪だな」
ダンが舌打ちする。
ヴォルクは銃を手に取り、静かに言った。
「なぁに、やることは簡単だ。スパイを見つけて、潰せばいい」
夜の採掘場。
一台の小型輸送車両が、闇に紛れて発進しようとしていた。
ダンはキャケロビャを駆り、ヴォルクの指示通りに側面から回り込んだ。
輸送車両を護衛するカイロン社の機体が現れる。
目立たぬような凡庸な小型機だが、護衛としては十分すぎる。
「護衛機は『ヴァルサルト』か…」
「逃がすかよ…!」
「正面からぶつかるな。死角を突け!」
ヴォルクの声が響く。
ダンはヴォルクから教わった戦術を思い出す。
地形を利用してスパイの進路を塞ぐ。
「ッ…!」
ダンは一瞬、息を飲んだ。
敵機は機銃を向けようとしている。
しかし、そこには弱点があった。
「右腕の関節部…防御が甘い!」
ダンはキャケロビャのドリルアームを振り下ろす。
回転するドリルが敵機の関節部を貫く。
そしてその勢いのまま装甲を破壊した。
「…やった!」
敵機が崩れ落ち、ダンは輸送車両の行く手を阻んだ。
コックピットから、カイロン社のスパイが降りてくる。
「くそっ…!」
「もう逃げられねぇぞ」
ダンが告げると、スパイは歯を食いしばった。
「…俺だって、生きるためにやったんだ…」
その言葉を聞き、ダンは拳を握りしめる。
「なら、俺たちも生きるために戦うまでだ」
ヴォルクは静かに頷き、スパイを拘束した。
殺しはしなかった。
彼から情報を聞き出すため。
そう言って。
翌朝、ヴォルクはダンの前に立ち、言った。
「…お前の腕はまだまだだが、覚悟だけは買ってやる」
「…お前は何者なんだ?」
ダンが問うと、ヴォルクは微かに笑った。
「ただの傭兵さ。昔は、金のために戦ってた…だが、今は別の理由がある」
「別の理由?」
「そのうち分かるさ」
そう言い残し、ヴォルク・ザガノフは静かに姿を消した。
だが、彼の言葉と戦術は、確かにダンの中に刻まれていた。
この出会いが、やがてダンの運命を大きく変えていくことになる…
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EXP-04「ヴァルサルト」(実験型採掘戦闘メカ)
タイプ:試作型戦闘・採掘兼用メカ
全高:8.0m
装甲:中装甲(耐熱処理済み)
武装:
•超振動ドリルブレード×1(腕部)
•採掘用プラズマレーザー×1(胸部)
•小型機銃×2(肩部)
追加武装プラン:
長距離スーパーライフル×2(背部)
概要:
元々はカイロン社が資源採掘の効率化を目的として開発したが、戦闘能力の高さから軍用転用された試作機。
超振動ドリルブレードは通常の装甲を容易に貫く威力を持ち、接近戦ではキャケロビャと同等以上のパワーを発揮する。
一方、機体バランスが悪く、長時間の戦闘には不向き。
また、プラズマレーザーは発熱が激しく、数発使用すると強制冷却が必要になるという欠点がある。
追加武装プランは長距離スーパーライフル。
幅広い武装を装備することが可能だ。
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