第二話 女整備士リーナ・ファルク
資源惑星ガライアVの朝は、いつも赤茶けた空の下で始まる。
強い風により巻き上げられた細かい砂が太陽光を遮る。
そのせいで赤茶けて見えるのだ。
今日もまた、地平線の彼方から粉塵が舞い上がり、鉱石を削るドリル音が響いていた。
しかし、その朝は違っていた。
バーナム鉱業の本部施設の中で、重苦しい空気が漂っていた。
「昨日の襲撃の報告は聞いたな」
会議室の中央で、鉱山管理責任者の男『ロバート・メイスン』が腕を組んでいた。
白髪交じりの男で、軍人上がりの経歴を持つ。
「カイロン社の襲撃が本格化している。これ以上の損害は許されん。軍に助けを求めるしかない」
「軍…?」
ダン・ウェルガーは、会議室の隅で腕を組みながら天井を見上げた。
以前の戦闘のことを思い出す。
相手は旧式とはいえ、戦闘用ロボットだった。
本来は軍に頼るのが一番最適なのだろう。
しかし…
「そんなもん、来るわけねぇだろ」
「だが、他に方法は…」
「軍が辺境の鉱山なんかに構ってくれると思うのか? ここは連邦の端っこだぞ。俺たちが皆殺しにされた後で、ようやく『調査に乗り出す』ってところだ」
ダンの言葉に、幹部たちは顔をしかめた。
確かにそうだ。
こんな辺境の地での争いなど日常茶飯事なのだ。
連邦が力を入れて対策を打つとは思えない。
「じゃあ、どうするっていうんだ?」
「自分たちで戦うしかねぇ」
会議室が静まり返った。
「戦う? まさか、鉱夫たちに武器を持たせる気か?」
「違う。戦い方は色々あるさ」
ダンは口の端を歪めた。
「俺たちには、キャケロビャがある」
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バーナム鉱業の機械格納庫に入ると、そこには整備中のキャケロビャが鎮座していた。
昨日の戦闘で、キャケロビャの側面には敵機の機銃の砲撃が直撃していた。
爆発が起こり、警告音が鳴り響くほどの破損だった。
現在では修復され、傷はふさがっていた。
「ったく…アンタ、本気で戦うつもりなの?」
整備士のリーナ・ファルクが、工具を手にしながらダンを睨んでいた。
昨日倒したカイロン社のロボット、その部品を転用し修理したのだ。
規格は合わないが無理やり装着した。
見た目は悪いが、多少はしょうがない。
「昨日の戦いを見ただろ。あたしたちの機体は採掘用だ。戦闘用のメカには勝てないよ」
「そうだな。でも、戦わなきゃ生き残れねぇ」
ダンはキャケロビャのドリルアームを見上げる。
いつも仕事で使っている相棒。
自分の手足といってもいい。
その特性は自分の体のように…
いや、ある意味では自分の身体以上に把握しているといってもいい。
「こいつの強みは何だ?」
「…採掘能力、ってこと?」
「そうさ。武器じゃねぇが、使いようによっちゃ戦える」
リーナはため息をつき、腰に手を当てた。
これ以上言っても無駄だと思ったのだろう。
一方で、彼に可能性を見出していた。
そこまで言うのならば、それ相応の自信があるのだろう。
「じゃあ、アンタの“戦い方”ってやつを見せてもらおうじゃない」
ダンが考えた戦法は単純だった。
キャケロビャのドリルで、地形を変えてしまう。
敵の機体は戦闘用で機動性が高い。
だが、地面を掘り返して罠を作れば、機動力を封じられる。
「この岩盤の下は砂地だ。上の層を削ってやれば、罠になる」
ドリルアームを回転させ、岩盤を掘削。
見た目は砂利で平らになった土地だ。
だが、足を踏み入れれば崩れる地点を作り出す。
底なし沼のようなものだ。
「なるほど…機動性の高い敵には、罠で対抗するってわけね」
リーナが感心したように頷く。
ダンにしては知的な作戦だ。
この採掘場の土地の特性を把握しているからこそできた作戦だろう。
「だが、こんなのが通用するのは最初だけだ。連中が学習すれば、すぐに別の方法で攻めてくる」
「だったら、それまでに一発かましてやるさ」
ダンは不敵に笑った。
…その時だった。
警報が鳴り響いた。
「カイロン社の部隊が来たぞ!」
鉱夫たちの声が響く。
怯える者、抵抗するために長物を持つ者。
避難するもの…
「はえぇな…」
ダンはキャケロビャの操縦席へと飛び乗った。
カイロン社の機体は、戦闘用メカだった。
前回とは違い、今度の敵は軽量型の高速機動メカだった。
鮮やかな青色の機体色が、作業用のキャケロビャとのギャップを感じる。
見た目からしてただ者ではないことがわかる。
「チッ…厄介なのが来やがった」
ダンはキャケロビャを操縦しながら、慎重に動いた。
敵の機体は機銃を装備し、高速移動しながらこちらを攻撃してくる。
ドリルアームを振りかざすが、当たらない。
「このままじゃジリ貧だ…!」
敵の機体がキャケロビャの側面へ回り込み、機銃を掃射した。
装甲が削られる。
しかし昨日よりは被害が少なかった。
昨日倒した旧型戦闘用ロボットの装甲、それが生きた。
修復のためにつけていたソレが盾となったのだ。
しかし、それだけだ。
こちらの攻撃はまず当たらない。
「くそっ…!」
しかし、ダンには策があった。
そのまま、罠の地点へ誘い込む。
テストのために一個、罠を作っておいた。
それを使おう。
キャケロビャは後退しながら、罠を仕掛けた場所へと向かう。
敵機が追いかけてくる。
慣れない場所だからか、自慢の機動性が発揮しづらいようだ。
「…今だ!」
ダンがドリルアームを突き刺す。
その衝撃で地面が崩れ、敵機が足を取られる。
「なッ!?」
敵機はバランスを崩し、そのまま沈み込んだ。
そして、ダンは最後の仕上げに入る。
ドリルアームを回転させ、積んであった鉱石を敵機の上に落とした。
敵機が沈黙する。
「…勝った」
その一部始終を見ていたリーナが呟いた。
だが、ダンは気付いていた。
これは、単なる小競り合いではない。
カイロン社の動きは、明らかに本格的な軍事行動に近づいている。
これから本当の戦争が始まるのだ。
キャケロビャのコックピットの中で、ダンは拳を握りしめた。
「…やるしかねぇな」
こうして、惑星ガライアVの抗争は、本格的な戦いへと突入していく。
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KZ-07「スプリッター」(高速強襲型)
タイプ:高機動戦闘用メカ
全高:8.2m
装甲:軽装甲(回避重視)
武装:
•レーザーブレード×2(両腕部)
•60mmショートバレルガトリング×1(背部)
追加武装プラン:
•EMPグレネード×3
概要:
カイロン社が採掘場襲撃用に開発した高機動型メカ。
高出力のスラスターを備え、戦闘機並みの速度で移動可能。
装甲は薄いが、俊敏な動きを活かして、敵機を翻弄する。
かつて実践投入されていたEMPグレネードを追加装備した機体は、電子機器を一時的に麻痺させることで、採掘用メカの行動を制限する戦法を得意とする。
防御力は低いが、直撃を避け続ければ戦闘を有利に運べるため、エースパイロット向けの機体とされている。
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