第一話 惑星ガライアVの男
銀河の辺境にある惑星『ガライアV』。
この辺境の資源惑星には、豊富な鉱物資源が眠っている。
だが、それ以上に企業の欲望が渦巻いていた。
銀河連邦の支配下にあるとはいえ、こんな辺境の地まで軍の目が届くわけではない。
鉱業企業同士の争いは激しく、時には法すら無視されることすらあった。
採掘場は戦場と化した。
労働者たちは日々の仕事と同じように、生き延びることに必死だった。
辺境の村『センナータウン』。
センナータウンは砂漠と荒野に囲まれながらも、井戸と採掘場があるため人の生活には困らない。
砂漠と荒野のオアシスにできた小さな村。
その日、労働者の一人『ダン・ウェルガー』もまた、いつもと同じように作業用ロボット『キャケロビャ』に乗り込み、赤茶けた大地の中でドリルアームを動かしていた。
キャケロビャ、それは巨大な採掘用ロボットだ。
全高十メートル、無骨な外装に片腕の巨大なドリル。
もう片方の腕にはクレーン機構がついており、鉱石の採掘と運搬するのが主な用途だった。
その名は古代ゾット語で『動かぬもの』、『働かぬもの』を意味する。
正式名称は別にあるが、人が乗らなければただの鉄くず。
と、だれかが自嘲気味に呼び出したのが広まったらしい…
「おい、ダン。今日もやるか?」
通信機から、陽気な声が聞こえてきた。
同僚の鉱夫だ。
今掘っている場所は特に固い。
別の場所を先に掘ったほうが早いのかもしれない。
しかし…
「やるしかねぇだろ。これで飯食ってんだからな」
ダンは無愛想に答えながら、キャケロビャの操縦桿を引いた。
ドリルアームが回転を始め、目の前の岩盤に食い込んでいく。
岩を砕き掘り進める。
ダンはこの岩盤の性質を把握している。
どこをどう掘ればいいのかも、ほかのものよりはわかっているつもりだ。
大まかに削った後は人力で少しずつ掘り進んでいく。
仕事はそれの繰り返しだ。
重い振動が機体を揺さぶるが、ダンにとっては慣れたものだ。
今日も平凡な一日になる。
そう思っていた。
だが、それは唐突に始まった。
遠くで、警報が鳴り響いた。
「緊急事態発生!くそっ、カイロン社の強襲部隊だ!」
無線から悲鳴が聞こえてくる。
さきほどの同僚の鉱夫の声だ。
直後、爆発音。
採掘場のあちこちで土煙が舞い上がった。
「カイロン社…?」
ダンはキャケロビャのカメラを動かし、視界を切り替えた。
視線の先、黒い装甲をまとった戦闘用のロボットが、バーナム鉱業の施設を蹂躙していた。
二体の旧式戦闘用ロボットだ。
今暴れているのは『カイロン社』、競合企業にして、手段を選ばぬことで悪名高い企業だ。
連邦の監視が緩いこの惑星では、企業同士の武力衝突は日常茶飯事だった。
酒場や食堂での労働者同士の衝突など慣れたものだ。
だが、今回は違う。
…明らかに、殺しに来ている。
「くそっ、何でこんなタイミングで…!」
バーナム鉱業の労働者たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
だが、逃げ遅れた者たちもいた。
ダンの視界に、若い整備士の少女が映る。
同僚の『リーナ・ファルク』、工場でキャケロビャの整備を担当している気の強い技術者だ。
今も仲間の整備士たちを庇いながら物陰に隠れている。
だが、見つかった。
見つかってしまったのだ。
その直後、カイロン社の機体がリーナたちに向けて銃口を向けた。
「逃げたきゃ逃げろ!俺はやる!」
ダンは迷わなかった。
通信を切り、キャケロビャの操縦桿を大きく引く。
重機動メカが地を蹴って動き出す。
本来キャケロビャは戦闘用ではない。
武器と呼べるのは片腕のドリルアームのみだ。
しかし…
「こいつだって、使いようによっちゃ立派な武器だろ!」
ダンはドリルアームを高速回転させ突撃した。
厚い岩盤をも砕くドリルアーム、仕事でいつも使ってきた。
こいつの扱いならば、誰にも負けぬ自信がある。
カイロン社の機体が反応し、機銃を放つ。
装甲を弾丸が削るが、ダンは止まらない。
そのまま突進。
そして…
「どけぇぇぇっ!!」
ドリルアームが敵機の装甲に食い込んだ。
回転するドリルが装甲を削り、内部機構を破壊していく。
カイロン社の機体は断末魔のようなスパークを発し、そのまま沈黙した。
…やれる!
そう思った瞬間、別の敵機が背後に回り込んでいた。
相手は旧式とはいえ戦闘用だ。
反応速度ではどうしてもあちらに分がある。
「しまッ…!?」
次の瞬間、キャケロビャの側面を機銃の砲撃が直撃した。
爆発が起こり、警告音が鳴り響く。
視界がぐらつき、キャケロビャが膝をつく。
その衝撃で、ダンの額から血が流れた。
「ちっ…クソが!」
操縦桿を握りしめるが、警告が次々と表示される。
装甲の一部が剥がれ、動作が鈍くなっていた。
仕事中に落石がぶつかってきたことはある。
その時とは比べ物にならぬ衝撃。
反撃を叩き込もうとするも、リーチの差が如実に表れる。
作業用アームと機銃ではどうしてもあちらに分があるのだ。
「(終わりか…?)」
こちらの攻撃が当たる前に、あちらの攻撃が当たるだろう。
ダンが歯を食いしばったその時、通信が入る。
「ダン!そのまま動くな!」
リーナの声だ。
直後、採掘場の巨大なクレーンが動き、敵機の上に大量の鉱石が降り注いだ。
カイロン社の機体は押しつぶされ、動かなくなる。
操縦席が潰れている。
操縦していた者は即死だろう。
「…助かった、のか?」
ダンは息をついた。
戦闘が終わった後、キャケロビャを整備場へと運び込む。
キャケロビャの側面には敵機の機銃の砲撃が直撃していた。
爆発が起こり、警告音が鳴り響くほどの破損だった。
リーナは、ため息をつきながら、キャケロビャの傷を眺めていた。
そして呆れた口調で言う。
「…アンタ、バカなの?」
「助かったんだから、いいだろ」
「よくない!キャケロビャは戦闘用じゃないの!こんなこと続けたら、すぐに壊れるんだから!」
「でも、戦わなきゃ死んでたぞ」
ダンはそう言い返し、椅子に腰を下ろす。
「…俺はもう決めたんだ。俺たちの居場所を守るために、戦うしかねぇってな」
リーナは黙り込んだ。
ダンは、額の傷を拭いながら、キャケロビャの巨大な機体を見上げた。
この先、何が待っているかは分からない。
だが、戦わなければいけない。
そしてこの戦いは、やがて惑星ガライアVの運命を変えていくことになる。
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CMR-03「バーランダー」(旧型戦闘用ロボット)
タイプ:汎用戦闘用メカ
全高:9.8m
装甲:中装甲(耐弾性重視)
武装:
•75mmマシンガン×1
•簡易プラズマカッター×1(腕部)
追加武装プラン:
•小型ミサイルポッド×2(肩部)
概要:
かつて銀河連邦軍が制式採用していた量産型戦闘メカをカイロン社が買い取り、企業間抗争用に転用した機体。
旧型ながら堅牢なフレームと実弾兵器主体の火力を備えており、防衛戦にも適している。
ただし、機動性が低く、整備性も悪いため、現場のパイロットには「鉄クズ」と揶揄されることも多い。
しかし、耐久力に優れ、砲撃を受けても一撃では沈まないこともある。
かつて実戦投入されていた小型ミサイルポッドを追加装備した機体は、後方支援機として活躍していた。
旧式機を転用した機体としては一定の戦果を残した。
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