第十二話 廃墟の決闘
廃墟となった旧採掘施設。
赤黒い夕陽が静かに降り注ぐ。
崩れかけたかつての採掘施設の鉄骨の影が長く伸び、地面を黒く染めている。
かつて鉱山労働者で賑わっていたはずの場所は、今や荒れ果てた無人の戦場と化していた。
ギル・レイバーは、ヴァイス・クリューガーの操縦席で周囲を見渡しながら、嗤う。
「チッ、くだらねぇ場所だな。ここが決戦の舞台ってわけか?」
最後の決着をつけるため、ギルはダン・ウェルナーへ通信を送った。
彼から帰ってきたのは、この場所で決着をつけようというものだった。
それ以降、彼からの通信はない。
ダン・ウェルナーの姿も見えない。
それがギルには気に入らなかった。
「隠れてコソコソするのが好きみたいだが、どうせ最後は俺にぶっ潰される運命だぜ?」
ヴァイス・クリューガーが一歩踏み出すたびに、廃墟の地面が揺れる。
その重量により、地面に転がる鉄屑が軋んで崩れていく。
やがて視界の奥、壊れた資材置き場の影。
崩れかけた採掘施設の鉄骨が軋み、遠くのクレーンのワイヤーの残骸が風に揺れている。
そこから、ひとつのシルエットが現れた。
ギル・レイバーのヴァイス・クリューガーは、眼前に立ちはだかる巨大な機体を睨みつけた。
「ほぉ、ついにお出ましのようだな」
ヴェルクシュトゥルム。
大型のシルエット、強固な装甲、キャケロビャとは比べ物にならない戦闘能力。
ギルは薄く笑う。
「なるほど、ヴェルクシュトゥルムか…」
爆破されたカイロン社の前線基地から、ヴェルクシュトゥルムが消えていたのは知っていた。
バーナム鉱業のヤツらが持って行ったのだろうとは考えていたが…
本来、カイロン社の機体であり、ギル・レイバーのかつての乗機。
それが今、敵の機体としてギルの前に立ち塞がっている。
「それで勝てる気になったってわけか?」
ヴェルクシュトゥルムは無言のまま、ゆっくりと歩みを進める。
その巨大な右腕が上がり、戦闘態勢に入る。
ギルは舌打ちした。
ヴェルクシュトゥルムは、かつて自身が乗っていた機体。
そして、ギルがダン・ウェルナーと初めて戦った時に乗っていた機体でもある。
「お前には似合わねぇ機体だな、ダン・ウェルナー!」
ギルは軽い笑みを浮かべながら、ヴァイス・クリューガーの腕を軽く鳴らすように動かした。
油圧システムが唸り、巨大なブレードがゆっくりと展開する。
次の瞬間、ヴァイス・クリューガーの推進機構が起動し、一気に加速した。
爆発的な加速。
ギルは躊躇なくヴェルクシュトゥルムに襲いかかった。
ヴェルクシュトゥルムも動く。
次の瞬間、両者が激突する。
ヴェルクシュトゥルムがブースターを噴射し、一気に距離を詰める。
その巨体に似合わぬ加速力。
「…ッ!やはり速いな」
ギルはわずかに目を細めながらも、動じることなく回避機動に移る。
ヴァイス・クリューガーが横へ跳び、ヴェルクシュトゥルムの攻撃を回避。
重い衝撃音とともに、地面が砕ける。
「…ん?」
ヴァイス・クリューガーの巨大なブレードがヴェルクシュトゥルムの装甲を抉る。
重い衝撃音とともに、鉄屑が飛び散った。
だが、奇妙だった。
「…動きが鈍い?」
ギルは違和感を覚えた。
たしかにヴァイス・クリューガーは強力な機体。
だが、攻撃に対する反応が遅い。
まるで戦術の裏を読まれていない。
ただの的を相手にしているような…
「…まさか!」
ギルの予感が確信に変わったその瞬間…
ヴァイス・クリューガーのクローが、ヴェルクシュトゥルムのコクピットを貫いた。
「ハッ、くだらねぇ!」
爆発音とともにヴェルクシュトゥルムの装甲が砕け散る。
しかし、その内部にパイロットはいなかった。
…自動操縦だ。
「クソッ! 罠か!!」
ヴァイス・クリューガーの左腕には、内蔵式のリニアカノン。
至近距離での狙撃。ヘッドショット一発。
本物のパイロットが乗っていれば、こう簡単には決まらなかっただろう。
だが、ヴェルクシュトゥルムは無人機だった。
「…自動操縦ッ!」
ギルが気づいた時には、もう遅かった。
地面が、崩れた。
突如として廃墟の残骸が崩れ落ち、砂埃が舞い上がる。
そして、その瓦礫の下から出てきたのは…
「気づくのが遅かったな、ギル!」
ダン・ウェルナーのキャケロビャが飛び出した。
ギルの顔が、初めて驚愕に染まる。
狙いは一点、ヴァイス・クリューガーのみ。
その右腕に備えられた、パイルバンカーが突き出される。
「貴様ッ…!」
ギルが反応するよりも速く!
ダンがキャケロビャを駆る。
ヴァイス・クリューガーにパイルバンカーが突き込まれた。
その攻撃で肩部装甲が粉砕される。
だが、まだ終わらない。
ダンはさらに推進機構を吹かし、連撃を仕掛ける。
一撃、二撃、三撃…!
「うおァァァァッ!!」
ギルがヴァイス・クリューガーの電磁パルスブレードを振るう。
だが、それはキャケロビャの左腕の防護装甲を吹き飛ばすだけだった。
今のダンは、かつての彼とは違う。
ダンの表情は、戦いに身を投じた者のものだった。
「これで…終わりだ!」
最後の一撃、パイルバンカーの全出力を開放。
荒野に鈍い音が響き渡る。
ヴァイス・クリューガーの胸部を貫通した。
機体から力が抜け、その場に崩れ落ちる。
「ッ…!」
キャケロビャを後退させるダン。
それとほぼ同時に爆発が起こる。
ギル・レイバーの機体は、爆炎に包まれた。
静寂が訪れる。
砂埃が晴れる頃には、そこに立っていたのは、キャケロビャただ一機だけだった。
そして、戦場にはただ、沈黙が流れていた…
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キャケロビャ(パイルバンカー装備型)
型式番号:無し
全高:11.8m
動力源:高圧縮ディーゼルエンジン+補助バッテリー
装甲材質:耐圧複合スチール+追加装甲プレート
武装:
•大型パイルバンカー×1(右腕)
•ドリルアーム×1(左腕)
•シールド×1(左肩部)
•即席スモークディスチャージャー(背部)
元々は単なる採掘作業用機体だったキャケロビャ。
戦闘用としての性能は低く、装甲も薄い。
武装らしい武装も装備していなかった。
しかし、戦闘が激化し、ダン・ウェルナーは決定的な火力不足を痛感する。
これを受け、リーナ・ファルクはキャケロビャの右腕を完全改造。
新たな主武装として「パイルバンカー」を搭載。
さらに、戦闘の継続力を高めるため、装甲を一部強化し、即席の防御策として簡易シールドを追加。
こうして、『パイルバンカー装備型キャケロビャ』が誕生した。
ギル・レイバーとの戦いでは、ヴェルクシュトゥルムを囮にし、キャケロビャが地中から奇襲する戦法が決定打となる。
一撃必殺のパイルバンカーが、ヴァイス・クリューガーの装甲を貫く瞬間…
キャケロビャは「ただの採掘機」ではなく、ダン・ウェルナーの戦う意志そのものとなるのだった。
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