第十話 最強の刺客
ガライアV、鉱山地帯。
カイロン社の前線基地を爆破し、なんとか撤退したダンたち。
しかし、彼らに安息の時は訪れなかった。
夜の闇を切り裂くように、キャケロビャの警報音が鳴り響く。
「ダン、敵機が急速接近中! スピードが尋常じゃない!」
リーナの声が焦燥を帯びる。
ダンがモニターに目をやると、レーダーの警告が激しく点滅していた。
「…来たか」
轟音とともに、漆黒の機影が降下する。
『X』いや、本当の名は『ヴァイス・クリューガー』。
カイロン社が次世代の主力機として開発していた、試作型エース機である。
「…待たせたな、ダン・ウェルナー」
通信が開かれ、ギル・レイバーの顔が映し出された。
「俺が来たってことは、どういうことかわかるよな?」
ダンは歯を食いしばる。
「お前を倒せば、バーナム鉱業も俺たちの反抗も終わるってことか…」
「まあ、そういうことだな」
ギルは軽く肩をすくめた。
「まさかお前みたいなド素人が、こんなに長く粘るなんて思わなかった…」
ヴァイス・クリューガーのスラスターが点火され、一瞬でダンの視界から消える。
最新鋭試作機が宙を舞い、キャケロビャの背後を取る。
ダンはスラスターを噴射し、急旋回して敵の攻撃をかわす。
しかし、ギルは一切の無駄なく機体を操り、正確にダンを追い詰めてくる。
「もう、終わりだ」
電磁パルスブレードが光を帯び、斬撃がキャケロビャに迫る。
ギリギリで回避するダン。しかし、その余裕は長くは続かなかった。
ヴァイス・クリューガーが驚異的な加速で間合いを詰める。
次の瞬間、キャケロビャの背後から鋭い斬撃が走った。
「ぐっ…!!」
ダンが咄嗟にスラスターを吹かし後退するも、キャケロビャの右腕の装甲が深く裂け、火花を散らす。
「速すぎる…!」
「お前の機体じゃ、俺には勝てん」
ギルの声が、どこか虚し気に響く。
ヴァイス・クリューガーが舞うように跳躍し、再び斬撃を繰り出す。
ダンはドリルアームで迎撃しようとする。
だが…
「なっ!?」
ドリルの刃が、ヴァイス・クリューガーのシールドに弾かれた。
右腕に装備された小型複合シールドだ。
「無駄だよ」
ギルは余裕の表情を崩さない。
「お前の武器じゃ、この機体には傷一つつけられん」
「…ッ!」
ダンはすぐに距離を取ろうとするが、それを見越したギルが一気に詰め寄る。
今度はキャケロビャの右腕が斬り裂かれた。
バランスを崩し、キャケロビャが膝をつく。
「ダン!!」
リーナの悲痛な叫びが聞こえる。
「ハハッ、やっぱりな」
ギルは満足げに笑った。
「お前は、ずっと『採掘用の機体』で戦ってるつもりだったんだろう?」
ヴァイス・クリューガーが、ゆっくりとブレードを下ろしながら歩み寄る。
「でもな、戦場ってのはそんな甘くねぇんだよ」
ギルの怒号が響く。
珍しい彼の怒りの声。
その声に含まれる意味は、今のダンにはわからなかった。
「クソッ…!」
「もう諦めろ。お前の機体も、俺の『ヴァイス・クリューガー』の前じゃ、ただの鉄屑だ」
「これが、お前と俺の違いだ。俺はハンター、お前はただの鉱山労働者だ」
「黙れ…!…お前に、何がわかる!」
「何もわかる必要なんかない」
ギルは一歩前へ踏み出す。
ヴァイス・クリューガーのブレードが、再びキャケロビャを狙う。
とどめを刺すために。
「お前はここで死ぬ。ただそれだけだ」
「くッ…」
「さよならだ、ダン・ウェルナー」
しかし、その瞬間だった。
轟音が鳴り響き、爆発がギルの視界を遮ったのだ。
突然のことに驚くギル。
「チッ、なんだ…!?」
ダンの目の前に、黒い機体が飛び込んできた。
「…お前、少しは成長したかと思ったが、まだまだだな」
無骨な機体、旧式支援機シュルードヴァイス。
その機体が、その巨体を盾にするようにキャケロビャの前に立ちふさがった。
通信が開かれる。
「ヴォルク…!」
カイロン社へ突入した機体はキャケロビャだけではない。
以前、ダンとキャケロビャが倒したロボットたち。
その中から比較的に破損が少ない機体をリペアし運用していたのだ。
シュルードヴァイスもリペアし、バーナム社のロボとして再生されたのだった。
「…まだ、死ぬには早ぇよ」
「ダン、もう撤退するしかない!」
リーナが叫ぶ。
これ以上戦っても勝てない。
それはだれが見ても明らかだった。
「…クソッ!」
ダンはスラスターを吹かし、キャケロビャを後退させる。
しかし、ギルは余裕の笑みを浮かべながら、それを追い詰めるように前進してきた。
「諦めたか? まあ、賢明な判断だな」
ギルはブレードを構え、トドメを刺そうとする。
しかし、その瞬間…
「ダン!」
リーナの叫び。
それとともに、突如、ヴォルクのシュルードヴァイスが側面から飛び出した。
そしてギルの視界を遮るように割り込んだ。
「はッ!」
大型の閃光弾とスモーク弾を放つリーナ。
一瞬、ギルの機体の動きが鈍った。
その隙にヴォルクのシュルードヴァイスが体当たりを繰り出した。
バランスを崩すギルのヴァイス・クリューガー。
「ずあッ!」
ヴァイス・クリューガーのブレードが、シュルードヴァイスを切り裂く。
その場で爆散するシュルードヴァイス。
閃光弾とスモーク弾、そしてシュルードヴァイスが放った爆炎。
それらが晴れたとき、その場からダンたちは姿を消していた。
シュルードヴァイスのコックピットは空いていた。
乗っていたヴォルクも脱出していたのだろう。
「チッ…!」
ギルは不満げに舌打ちするが、それでも余裕の表情を崩さない。
すぐに口元に笑みを浮かべる。
そして…
「お前が逃げても無駄だ。またすぐに追い詰めてやる」
ヴァイス・クリューガーのスラスターが点火され、ギルは一度撤退していく。
ギル・レイバーは、完全にダンを格下と見ていた。
格下を深追いする必要はない。
それは、ギルが戦場を生き抜くための決断でもあった。
一方その頃…
「クソッ!!」
「ダン…」
「もう無理だ…! 俺の機体じゃ、ギルに勝てねぇ!」
ダンはキャケロビャのコクピット内で拳を壁に叩きつけた。
リーナも苦渋の表情を浮かべる。
キャケロビャはボロボロ、右腕は切断されている。
いままで戦いで負った傷を騙し、ごまかし戦ってきた。
だが、もう無理だ。
ヴォルクが腕を組み、静かに言った。
「そろそろ、決断の時だな」
ダンは顔を上げる。
ヴォルクの言葉に、ダンはハッとする。
「お前が決めろ」
「…!」
「ああ。お前は今まで、戦闘用じゃない機体で必死に戦ってきた。だが、それももう限界だ」
「…そんなことはわかってる!」
ダンは歯を食いしばる。
キャケロビャはあくまで作業用。
本格的な戦闘用ロボットではない。
「お前はこのまま、『採掘用ロボット』に乗り続けるのか? それとも、本格的な『戦闘用メカ』に乗り換えるのか?」
「…俺は…」
キャケロビャのコクピットで、ダンの拳が震えた。
「俺は…!!」
このまま、キャケロビャで戦い続けるのか?
それとも、新たな戦いに進むのか?
決断の時が迫っていた。
リーナも言った。
「私もずっと考えてた。キャケロビャを戦闘向けに改造してきたけど、それにも限界があるわ…」
戦いを最も身近で見てきたリーナ。
キャケロビャにとって、これ以上の戦いが不可能なのはよくわかっていた。
いや、これまでの戦いで壊れていても不思議ではなかった。
「もし、本当にアイツに勝ちたいなら…」
「キャケロビャを捨てる、ッてのか…?」
ダンの拳が震えた。
「お前が決めろ」
ヴォルクはそう言うと、ダンの肩を叩いた。
「決めるのは俺か…」
ダンは夜空を見上げた。
「俺は…俺は…!」
彼の心は、キャケロビャとの思いと、戦いの現実との間で揺れていた…
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KZ-?? 『ヴァイス・クリューガー』
タイプ:試作型高機動型戦闘メカ
全高:12.0m
装甲:軽量複合チタン合金フレーム+耐衝撃セラミックコーティング
武装:
•高感度センサーユニット(頭部)
•電磁パルスブレード×2(両腕部)
•ブースターパイル(脚部内蔵)
•その他、状況に応じて装備可能。
概要:
カイロン社が開発した新型試作機。
機体コンセプトは以前にギル・レイバーが登場していた『ヴェルクシュトルム』の発展型となる。
その苛烈な攻撃は、敵を反撃すらさせないまま一方的に攻め立てる。
量産や整備性の向上も視野に入れたられており、『ヴェルクシュトルム』と一部の部品が共通化されている。
今回の戦いが実戦への初投入であったため、詳細はいまだに不明。




