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女神の使者  作者: 原 弘一
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魔界の炎


「『双子の眉は 向かい合い 表が裏が 選り分ける 影より白き 箱の世に 現れ救う 紫叉の聖女』

この詩を知っているか?」


「知っています。シルバーウルフ族のヴォルフさんから聞きました」


ジュドウは目を閉じ、こめかみに人差し指をあてて何かを考え始めた。


(考え方が様になってる……)


「イヌめ!我らが召喚した聖女を横取りするとは。やはり奴等は一族郎党、根絶やしにせねばならぬか!」


ジュドウの、こめかみから額にかけて、血管が膨れ上がっていた。


(考えてなかった!怒りを抑えてるだけだった!)


「それはやめて下さい!彼らは命の恩人です」


ジュドウはグラスに入った混血液を飲み干し、長い息を吐き出した。


「そうか……まあ良い。何を吹き込まれたのかは知らんが、『我々のための詩』の話に戻そう。この詩は、私の妻が耳にしたモノなのだが、我々の事を詩っているのだと直ぐに理解した」


(ヴォルフさんたちも、同じような事を言ってたけど、どういう事?)


「先ず『双子の眉は向かい合い』とは、双子のボッコスとバッコスの眉毛を合わせる事だ。全ての始まりはここからであり、聖女召喚も我らが行動を起こしたからこそなのだ。

『表が裏が』とは、聖女がいた世界がナイナジーステラ。つまり『裏』。我らがいる世界が、ナイナジースフィア。いわゆる『表』だ。『選り分ける』とは種族を選別して分ける。つまり、元々こちらの世界に居たイヌどもは、『裏』の世界に逃げ出した。それは既に、世界に選別されていたのだろう」


(嘘でしょ!双子の眉毛って、絶対嘘!!ダサ過ぎる。何!?全ての始まりは眉毛って!真顔で言う事?私は眉毛で召喚出来る女?酷い!恐ろしい思い込みですよ!ヴァンパイアじゃなきゃ文句言ってるのに〜!

そもそも、こっちが表?主観の違い?ヴォルフさんたちと詩の解読内容も全然違う)


ヒメは、拳を握りワナワナと震え始めた。


「そして『影より白き箱の世に』とは、裏の世界にある、影の出来ぬ、雪の壁に囲まれた白い『箱の丘』と呼ばれる場所だ。ここに、我らが召喚した聖女が現れフランを救ってくれるのだ。その日はボッコスとバッコスを向かわせた日。通称『紫叉の落日』(ししゃのらくじつ)と呼ばれる日だ。紫叉の落日とは百年に一度、赤と青の月が一列に並び、月の間に紫の門が出来る。そしてその門から、こちらの世界の満月が影を浴びて、紫色に染まる日である」


(落日?門?影を浴びる?やっぱり解釈の仕方で全然違う!ヴォルフさんたちは、呪いが原因だったから力になれたけど……)


「どのような事をすれば良いのか分かりませんが、私には、本当に命を与えるような事はできません」


(どうしよう。私が何も出来ない事が分かったら、どうなるんだろう……ここから逃げることも出来ないし……もしかしたら契約!死者にも出来るのかな?)


「我らはもう何もしてやれぬ。頼む!フランを救ってくれるのなら、何でもするつもりだ」


ジュドウは頭を下げた。


「食事を済ませたら移動する」


「移動ってどこに…ですか?」


「フランの元へ」


〜〜〜


「それでは行こうか」


食事を終えたヒメを確認したジュドウは、椅子から立ち上がり扉に向かって歩き始めた。

ヒメもその後を追った。


しかしジュドウは、何を思ったのか暖炉の前で立ち止まった。

そして、暖炉に向かって右側の、水瓶を持った女性の像の前に行き、おもむろに水瓶の中に手を入れた。


すると暖炉に変化が訪れた。


暖炉の奥から、水の流れる音が聞こえたかと思うと、炎の色が赤から青に変わった。

すると今まで見えていた、暖炉の奥の壁がスッと消えて通路が現れた。


ジュドウは暖炉の中へと歩き始めた。


青い炎が燃えているが、歩みを止めず、そのまま炎を通過して奥の通路へと進んで行った。


「燃えてない……ホログラム的な?ここを通るの?」


ヒメは後ろを振り向き、執事たちを見た。

視線を逸らすボッコス、バッコスを他所に、オブラートが答えた。


「青き炎は魔界の炎です。魔界の炎は、術者の意思で用途を自在に変える事が出来ます。燃やし尽くして灰にすることも、ただの威嚇のためのダミーとすることも可能です。そこで燃えている、青き炎は魔界の炎です」


「なる程!それじゃあ!一応聞きますけどっ!この青い炎はダミーの方で合ってますかっ!?」


分かってはいるが、炎の上を進む事が怖いヒメは、安全を再確認するために、やけくそでオブラートに聞いた。


「それで合っています。先の説明では、分からなかったのですね。聖女様にも、バイコーンの糞にも分かるように工夫するべきでした。これは失礼。バイコーンの糞とは、何も考えていない者、という意味、それで合っています。」


「名前の割に、全然オブラートじゃないし……これは消えないんですか?」


「消えない。素早く通れば問題ない。進め」


ボッコスが冷たくあしらった。


「本当に燃えないんですか?」


「燃えない。止まらず進めば問題ない。行け」


バッコスも冷たくあしらった。


(フランケンシュタインになって、人間の心を忘れたの?冷たすぎる)


「貴方たちが先に行ってよ!」


苛立ち始めたヒメは、きつい口調でフランケンシュタインに言った。


「ジュドウ様がお待ちです。あのジュドウ様が頭を下げられた。そして聖女様に行こうと言われた。後を着いて行かれるのは必然。もしかして聖女様は、その思いを踏み躙るおつもりでは?あるいは私奴どもが先に行った後で、逃げ出すおつもりでは?違うのであればどうぞ進まれてください。ジュドウ様がお待ちです」


「そんなつもりはありません!怖いだけ!毛布一枚の私のレベルは1ですよ!産まれたてホヤホヤなんですっ!」


「気にするな。あの炎にレベルは関係ない」


ボッコスが答えた。


「臆するな。立ち止まらなければ関係ない」


バッコスが答えた。


「レベルは関係ない?それ以外の何かだと燃えるの?立ち止まらなければ?止まれば燃えるの?」


三人のフランケンシュタインは口を閉ざした。


「分かりました!行けば良いんでしょ!まったく、フランケンシュタインには血も涙も無いんだから」


「あるぞ、混血液が」


「あるぞ、竜の涙が」


ボッコス、バッコスは、さっきまでの喧嘩が嘘のように仲良く答えた。


「もう!ああ言えばこう言う!行きますよっ!行けば良いんでしょ!」


暖炉に向き直り、意を決したヒメはダッシュした。


「きゃ〜〜〜〜!!」


そして青い炎をジャンプして奥の通路へと着地した。


ヒメは振り向いて執事たちに向かって叫んだ。


「ハァハァ。怖かった〜!分かっていても怖いものは怖い!」


オブラート、ボッコス、バッコスは呆れた顔をしてお互い見つめ合い、再度暖炉に向き直り、それぞれ縫合の跡を人差し指で、ゆっくりなぞった。


オブラートは額の傷を左から右。ボッコス、バッコスは額から顎にかけて、上から下へとなぞり、その後、そのまま人差し指が矢印となるように、それぞれ指が差す方を向いた。

アルベルトは右を向き、ボッコス、バッコスは下を向いた。


(何?何のサイン?呪いのサイン?怖い。謎なんですけど……はっ!)


ヒメは、またしても素っ裸だった。


ダッシュ&ジャンプで、毛布は青い炎の上に落ちていた。


「〜〜〜〜っ!?」


声にならない悲鳴をあげ、ヒメは慌てて左手で上、右手で下を隠した。


なんと!ヒメは、フランケンシュタインたちに気を遣わせていたのだった。


「毛布を取って下さい!いや!やっぱりこっち向かないで!自分で取ります!」


(どうしよう。怖くて嫌だけど。裸の方が嫌だ!パッと取れば大丈夫!よし!きっと大丈夫!)


ヒメは青い炎に手を入れる決意をした。炎の前でしゃがみ、ゆっくり手を伸ばして、炎の前で止めた。


「よーし!やるぞーっ!パッパッとすれば大丈夫!」


決意したその時、ヒメの目の前で、毛布は一瞬で灰となった。


「一応、トラップですから、時間経過で燃えるように術式を構築しております。一応」


オブラートの無慈悲な一言が、状態異常の効かないはずのヒメの動きを、ピタリと止めるのであった。

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