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女神の使者  作者: 原 弘一
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フランケンシュタインの執事


「フランケンシュタインは、ホムンクルスのように、やわではない。彼らを一緒にしないでやってくれ」


ジュドウは、血が滴る最後の肉を口の中に頬張った。


(どちらも同じじゃないのかな?)


「ホムンクルスとフランケンシュタインって何が違うんですか?どちらも作られているんですよね?」


ジュドウはグラスの赤い液体で、口の中にある最後の肉を流し込んだ。


「聖女よ。簡単な話だ。猿と人間は同じか?トカゲとドラゴンは同じなのか?似ているが全く別なのだ。それは種族の問題だ。

ホムンクルスとフランケンシュタインは全く別の種族なのだよ。ホムンクルスは人工生命体であり、無から造られた生命だが、フランケンシュタインは人造人間だ。人間を元に、改造して超人にした者だ。つまり元は人間だ」


(フランケンシュタインは人造人間だから、ヴォルフさんたちの爪での攻撃が効かなかったのかな?鉄で出来てるの?)


「冷める前に食べてはどうだ?肉はしっかり焼いてあるはずだ。腹が減っていては判断を誤る。これから起こることに対処できなくなるぞ」


(この人たちは嫌だけど、食材には罪がないからね!)


「頂きます!」


ヒメはミディアムに焼かれた肉を、ナイフで切り分け口に入れた。

何の肉かは分からないが、今まで食べた肉の上位に食い込む程の美味さがあった。

しかし、何故かそれは悔しかったので顔にも声にも出さないように、黙々と食べることにした。


「それでいい。食べながらで良いから聞いてくれ。

実は、私にはフランケンシュタインが必要なのだ」


(何!?モグモグ。いきなり恋の話?恋話?展開が急すぎ!モグモグ)


「ゴックン」


ヒメは驚き、大きな塊の肉を飲み込んでしまった。


「うっ……くっ……」


ヒメは、慌てて飲んだ肉を詰らせてしまった。胸を叩き、肉を流そうとした。

グラスの水を飲もうと、口元に持っていくと、凍っていることに気付き、慌てて他のグラスを探した。


(ん〜苦しい!!水!水!あった!)


グラスを見つけて手に取ると、中には赤い液体が入っていた。飲むか飲まないか迷ったが、やはり飲まなかった。

バッコスは先程、唯一持ってきたグラスを出し、ボッコスはそれに水を注いでヒメに渡した。


「ん、んぐっ。ハァハァ。危なかった。ありがとう。死ぬかと思った!女神様の白い部屋が見えた!でも良かった!血を飲まなくて!」


「私には必要な血だ」


ジュドウは悲しそうな笑顔を作り微笑んだ。


「我々ヴァンパイアの主食は人間の血だ。私も出来ることなら飲みたくはないのだ。しかし、飲まねば死んでしまう。

だがそれでも、私は人間の血を飲むのを止めたのだ。どうしても止めねばならぬ理由があった。そこで必要なのが、四人のフランケンシュタインだ」


ヒメは、気に入った残りの肉も食べ始めた。


(四人?モグモグ、もう一人いるの?モグモグ)


「彼らは人間なのだが、私と妻の正体を知っても、恐れることもなく、私を慕って執事をしてくれていた。我々は家族のように接していたのだ」


(どちらかと言えばモグモグ、良いモグパイアなのかな?)


「しかし突然悲劇が起きた。

彼ら四人は即死だった。そして当時の状況を四人とも覚えていなかった」


(いや、怪しいモグ……ヴァンパイアに都合が良すぎるモグ。どうして四人とも記憶がないモグか?後の一人は何故いないモグ?)


「私は彼らを冷凍保存して、一人ずつ改造を行った。

先ずは、オブラート。そして、オブラートと共に、双子のボッコス、バッコスの順で改造した。三人とも見事に成功した。しかし残念なことに、死ぬまでの数日の記憶を、三人とも覚えていなかった。

彼らには悪いが、それでも彼らをフランケンシュタインに改造出来たのは、私としては僥倖だった」


(やっぱり記憶が無いのはおかしい……元々改造するつもりだったのかな?蘇生させなかったのは何故?)


ここでヒメは、蘇生魔法は無いのか、確認しておく必要があった。


「どうして改造したのですか?蘇生魔法は使えないのでしょうか?」


ヒメは質問をして、肉を一切れ口にした。


「モグ?……蘇生魔法など聞いた事がないな。大司教や賢者、あるいは聖女ならば使用可能なのかもしれないが、我ら闇の者には聖魔法は使えぬ。使用したとしても、アンデッドになるか、もしくは逆に即死だろうな」


(この世界には、蘇生魔法は無いのかもしれないモグ。死んだら終わりモグ。気を付けないといけないモグ)


「改造したのは、心臓が完全に停止していたからだ。体ごと潰れている者もいた。そこで欠損していた彼らの体には、モンスターの各部位と、心臓にはモンスターの魔石を使用した」


「モンスターの魔石!?モンスターには、やはり魔石があるモグ?」


「モグ?……そうだ。彼らにはドラゴンの魔石を使用している」


「!?ゴホゴホッ!」


驚いたヒメは今度は詰まらせないように、水を飲み肉を流した。


(ド、ドラゴン!ゴックン。

やっぱりドラゴックンもいるんだ!)


「そして私が今飲んでいる、この血液のダミーは、彼らから採取している物だ」


「えっ!?も、元は人間で、今はモンスター。心臓にドラゴンの魔石を使ってるなら、その血は!……何の血?」


「鑑定によれば、混血液であるな」


再びジュドウはグラスに、混血液と言われた物を注いだ。


「これは、ほぼ、人間の血液と変わらぬ。それどころか、彼ら三人から、大量に抜き取っても、直ぐに魔石が新たな混血液を作り出すのだ。

私は彼らのお陰で人間の血を飲まずに済むようになった。つまり、人間を殺さなくても、生きて行けるようになったのだ」


分かってはいたが、ヒメは絶句した。以前のヴァンパイアは人を襲い、血を搾取していたのだから。


「そして四人目、最後の一人は双子の兄弟の妹である、フラン。彼女は一番損傷が激しく、最善を尽くしたのだが、再び目覚める事が無かったのだ。その後も度重なる改良を重ね、様々なモンスターの肉体や、魔石も使用してみたが、結局一度も動き出す事はなかった」


(だから蘇生させるために、仕方なく改造したんだ……でもそれが混血液を作るためのブラフって事は?)


「しかし、ある日奇跡が起きた。私の娘が、まだ小さかった頃に触れていた、魔石を使用すると動き出したのだ。我々は歓喜した。しかし、それにも制限があった。三日経つと止まってしまい、また娘が触れていた魔石を使用しなければならなかった。だがそれも、さしたる問題ではなかった。ストックがなくなるまでは……」


「それではまた、娘さんに触れて貰えば良いのではないでしょうか?」


「まだ、娘が居るのなら……そうしていた」


(やっちゃった!地雷踏んだ!ストックって言ってたのに)


そこまで話すと、グラスの混血液を一気に飲み干した。


「聖女。どうか、フランを助けてやってくれ!頼む!」


ジュドウはそう言って深く頭を下げた。いつの間にかジュドウの側に来ていた三人も、同様に頭を下げた。

ヒメは慌てて立ち上がった。


「頭を上げてください。私も助けたい気持ちはありますが、聖女ではありませんし、助け方が分かりません」


すると四人とも頭を上げ、静かにジュドウが口を開いた。


「お前が聖女であるのは、既に確認済みだ。

私の魔眼が、全く効かなかったのが何よりの証拠。済まないとは思うが、ここへ来た時にスキルを使用して、私の隣に来るように催眠をかけたのだがレジストされた」


(あの目を見た時だ!気味が悪かったけど、勝手に催眠術をかけてたんだ!催眠も状態異常だから良かった、レジスト出来て。グラスの水みたいに凍らされてたらアウトだった……)


「私に呪いは効きません」


「済まない。そうむくれるな。しかし自慢する訳ではないが、私の魔眼が効かなかった相手は、聖女が初めてなのだ」


「自慢しても良いのか分かりませんが、そのような呪いは私には効きません。そうです私に出来る事は呪いを解く事です。生命を与える事など私には出来ません……

そうだ!鑑定をして下さい。そしたら分かるはずです」


「魔眼による鑑定も既に試した。しかし信じられないことに、鑑定すらもレジストされた。こんな事今までなかったのだ。魔眼の鑑定は、並の鑑定よりも精度が高いのだ。毛布しか付けておらぬ小娘に、私は負けたのだ。これ以上、私のプライドを傷つけないでくれ」


(そうか。鑑定も状態異常攻撃になるのかな?)


「分かりました。でも、何をどうすれば良いのか私には分かりません。最善は尽くしますが、本当に出来るかどうかは分かりません……」


「恩に着る」


ジュドウ、オブラート、ボッコス、バッコスたちは、深々と頭を下げた。

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