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女神の使者  作者: 原 弘一
11/20

ホムンクルスの招待


空になったグラスに、トプトプと血のように真っ赤な物を注いだ。


(本物の血かな?トマトジュースって落ちは……ないよね?)


「取り敢えず、食事をしながら話をしよう。それと、ボッコス!バッコス!もう離れてもよい」


「かしこまりました。離れます」


「いや、ようやくだな!おい!」


二人は頭に付けていた、黒い革のバンダナを外した。そしてキュポンと音が鳴るように、くっ付けていた頭を離した。二人とも首を左右に曲げて、ゴキゴキ音を鳴らしている。


(離れるんだ……)


離れた途端、赤と青の雲行きが怪しくなり始めた。


「離れてそうそう憎まれ口か?」


「鬱陶しい!お前に言ったんじゃない!」


「だったら誰に言ったんだ?」


「うるさい!黙れ!お前と同じ言葉を喋りたくないから、頭に『嫌』を付けて喋ってたんだ!」


「お前こそ黙れ!さっさと飯でも運んで来い!」


「もう離れたんだ。お前の言うことを聞く必要はないだろう!」


赤と青のホムンクルスは、一人の時は似たような言葉を話して仲が良く見えたのだが、離れた途端に揉め始めた。


(ホムンクルスが揉めてる……仲悪いんだ…)


今までくっ付いていて、見えていなかった顔半分には、髪の生え際から顎まで、縦一直線に手術をしたような縫合の痕があり、途中にある目は閉じており、二人とも片目であった。


「黙れと言ってる!お前は飯を取りに行け!」


「ジュドウ様の指示を聞いてたんだ!お前の指示は聞く理由も無い!」


二人を見ていたジュドウは、溜め息を一つ吐き、やれやれ顔で指示を出した。


「静かにしろ。客人の前だぞ。招待したのはこちら側だ。まずは食事を運んで来い」


「「かしこまりました」」


赤の後を、青が続けて歩き始めた。


「おい!今まで仕方なくついてたんだ。離れたんだからついてくるな!」


「飯を取りに行くんだぞ!同じ方向だから仕方なくついて行ってるんだよ!嫌なら俺を先に行かせろ!」


二人は肩をぶつけ合い、我先にと部屋から出て行った。


「聖女よ、済まないな。しかし許してやってくれ。奴らは特に嬉しいのだ。今日、この時をどれ程待ち望んだことか……」


そう言うとジュドウはヒメを見つめた。

そして、赤い瞳が怪しく揺らめき始めた。


(あの瞳は何だろう?気味が悪い……)


ヒメはジュドウの目を見て動く事が出来なかった。


「……クックックッ……ハーッハッハ!」


ジュドウは突然笑い始めた。


「何をするつもりですか!心臓を食べられるの?」


しかしヒメは恐怖の為、その場を動く事も、瞳から視線を外す事も出来なかった。

ジュドウは笑うのを止めてヒメを睨みつけた。


「やはりな。私のスキルが効かない。決まりだな」


(どう言う事?)


「オブラート!」


「ええ。拝見しておりました。ええ」


オブラートと呼ばれたあの老人が、料理をワゴンに乗せてきやってきた。


「こちらへどうぞ。歩きながらで失礼ですが、その小汚いバッグを、お預かりしても宜しいですかな?コートラックにお掛けしますのでご安心を。それでは、こちらへどうぞ」


そう言ってヒメの前を歩きながら、ショルダーバッグを受け取ったオブラートは、ジュドウの左斜め前の椅子を引いた。

しかしヒメは、その隣の椅子を、自分で引いて座った。


「嫌われたものだな……気の強い女は嫌いではない」


オブラートは、ヒメから預かったショルダーバッグを、壁際に設置された金のコートラックに掛けた。

そしてしばらくの沈黙の後、扉の奥の通路から、再びガヤガヤ争う声が聞こえてきた。


「お前は皿もマトモに運べないのか?ここに来るまでに幾つ割ったか教えてやろうか!?」


「お前がチンタラしてるからだろうが!お前が邪魔しなければ、とっくに終わっている!」


「邪魔をしたのはお前の方だ!!18枚だ!割れた皿は!結局見てみろ、お前が持っているのはグラス1つだ!使えねぇ!」


「うるせぇ!お前が俺の前をチョロチョロ動くからだろうが!偉そうに!お前こそなんだそれは!ただの水だろ!それこそ使えねぇわ!」


ガヤガヤしながら、二人のホムンクルスが入ってきた。

なんと二人とも服がボロボロであり、いたる所に食材が付いていた。


「何をどうしたら、ああなるの?」


ヒメは僅かな時間で、ボロボロになったホムンクルスたちを見て、一つの答えへと辿り着いた。


「分かった!!この城をボロボロの傷だらけにした犯人は、あの二人だったんだ!」


ヒメは名探偵ばりに、ホムンクルスの事を指差した。


「間違いない!あの二人が喧嘩ばかりするから、お城がボロボロになった。それを止めさせる為に、ヴァンパイアはホムンクルスの二人に、くっつくように命令してたんだ!」


更にジュドウを指差して言った。

それを聞いたオブラートは、パチパチと拍手をし始めた。


「参りました。流石を通り越して天晴れ!聖女様。目の付け所が違いますなぁ。目の付け所が違い過ぎて、全くと言って良いほど全然違います。間違いだらけなのに、間違いない!と大声を出されて、恥ずかしげも無く、人に指まで差して、さっぱり違うことを自信満々に言われるとは、参りました。流石を通り越して天晴れ!」


オブラートは拍手をしながら毒を吐いた。


「普通に違うって言ってくれたらいいのに……」


ヒメは耳まで真っ赤にしてうつむいた。


「どうかとは思いますが。しかし正解が一つありますなぁ。ジュドウ様はヴァンパイアで間違いありません。しかし城主を指差すのは、どうかとは思いますが」


それを聞いたヒメはバッと顔を上げ、オブラートとジュドウを交互に見比べた。

するとジュドウは、牙を見せ怪しく笑った。


「なぁに、取って喰おうと言うわけではない」


ジュドウは、赤い液体をヒメのグラスに注いだ。


「さあ。乾杯だ」


ジュドウはグラスを持ち、乾杯を促してきたがヒメはグラスは持たなかった。


「どうした?乾杯だ」


「何に乾杯するんですか?そもそも私は血は飲みません!」


ヒメはキッパリと断った。


「そうか……残念だ」


ジュドウはグラスを置き、溜め息をついてヒメを見た。


(あれは本当に血だったんだ……トマトジュースって落ちは?)


「それでは食事にしよう」


ジュドウが指を鳴らしたのと同時に、後ろから手が出てきた。ビクッとしたが、よく見るとその手は傷だらけの上、食材がついていたので、ホムンクルス、バッコスのモノであると理解した。


バッコスは料理にかぶさっている、銀色の丸い蓋、クローシュを外した。

ボッコスはグラスに水を注いでくれた。


「さあ、召し上がれ」


ジュドウはそう言うと、自分の皿に乗っている、血が滴るほぼ生の肉を、ナイフとフォークで食べ始めた。


(流石ヴァンパイア。血を食べてるみたい……)


「ああ。そう言えば、まだ名前を聞いていなかったな……しかしまあ、こちらから名乗るのが筋か。私はさっき言った通りだ。好きに呼んでくれ。そしてこのジジイがオブラート、総執事長だ」


「恥ずかしながら、総執事長のオブラート・リピートです。以後お見知り置きを。と言いましても執事は、此処におります三人だけですが。恥ずかしながら」


オブラートは、曲がったままの背中で軽く会釈をした。


「もう知ってるとは思うが、そのやかましい二人がボッコスとバッコス、双子の執事だ。ここに連れて来る間に粗相はなかったか?」


「知ってるも何も、仲がいいと思ってたけど、実は仲の悪いホムンクルスでしょ?それしか知りません。しかもここに来る間は粗相だらけです。私の命を救って頂いた人達に、大怪我をさせていましたし」


ヒメはライカンスロープ族の事を思い出して、機嫌が悪くなり始めた。


「お前たち、それは本当か?丁重にお連れしろと言い付けてあっただろう」


ジュドウの表情が変わり、二人を睨みつけると、辺りの温度が急激に下がり始めた。


(何?この空気!?凄いプレッシャー!あの二人、大変なことになるかも!止めるべきなのかな?)


持っていたグラスを見ると、水がピキピキと凍り始めた。


「きゃっ!」


ヒメは慌ててテーブルに戻した。


「丁重に招待しました」


「イヌどもが邪魔をしたから反撃したまで」


ボッコスとバッコスは、そうする事が当たり前であったと言わんばかりに答えた。

するとジュドウは、全てを忘れたかのように、ストンと表情を変えた。


「イヌどもか、それなら構わん」


そして何事も無かったかの如く、再び生肉を食べ始めた。


(どう言うこと?)


「おっとそうだ、自己紹介の途中だったな。重要な事を述べていなかった。聖女よ、先程二人をホムンクルスと呼んでいたようだが、あれは間違いだ」


ジュドウは一口、赤い液体を口に含み、味と香を楽しんだ後ゴクリと音を立てて飲み込んだ。


「二人ともホムンクルスじゃないの?」


「二人ではない、三人だ。オブラートも、そこの二人と同じ種族だ」


ヒメは『ギギギ』と鳴るように、ゆっくり首を動かしオブラートを見た。


「これは失礼しました。言ってませんでしたね。聞かれませんでしたからね。それと、これは失礼しました」


そう言ってオブラートは額にある眼鏡を外した。

眼鏡のあった場所には、横一直線に手術をしたような縫合の痕があった。


「二人と同じ傷!」


驚いたヒメに、ジュドウは更に驚く事実を述べた。


「そしてもう一つ。三人の種族はホムンクルスではない。フランケンシュタインだ」

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