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女神の使者  作者: 原 弘一
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赤のヴァンパイア


オベリスクの門を通る前は、日が昇り始めていた明け方であったが、ここでは紫の満月が支配する真夜中であった。


何かの鳴き声や、動き回る音が聞こえて来た。


馬車を降りたヒメは、一人置いて行かれ心細くなり、小走りでホムンクルスたちを追いかけて、城の扉へと向かった。


ホムンクルスたちが扉へ着く前に、その大きな扉は一人でに開いた。

当たり前のようにホムンクルスたちは、そのまま城の中に入って行った。


城の入り口からは、外気との差があるせいか、怪しい煙が外へ流れ出ていて『ゴゴゴゴゴ』と、効果音が聞こえてきそうな、不気味な雰囲気が演出されている。


生唾を飲み込み、恐る恐る城の入り口に立ったヒメは、意を決して声を発した。


「おじゃましま〜す……」


何も反応がない。

ヒメは城の中に、足を一歩踏み込んだ。


「入りますよ〜……うわぁ〜」


そこでヒメが見た光景は、何とも形容し難いものであった。


エントランスはとても広く、突き当たりの階段は両サイドへ二つに分かれており、中二階で再度出会うようにカーブを描いていた。階段の登り口付近には綺麗な装飾が施された燭台や、花瓶、そして槍を持った甲冑があった。


その階段を登った、中二階には家族の絵が飾られていた。

白い服に白いコートを羽織った、男性が立っており、その前の椅子には、真っ白な御包みに包まれた、産まれたばかりの赤ん坊を抱っこした、純白のドレスを見に纏う、緑色の髪をした女性が座っていた。


そして、エントランスの天井は見上げる程高く、豪華なシャンデリアがあり、壁には高価な剣や盾、斧等が飾ってあった。……はずである。


ヒメが見た何とも形容し難い光景とは、シャンデリアも、燭台も、花瓶も、槍を持った甲冑も、剣も、盾も、斧も、全て床に落ちて壊れていた。


エントランスの絨毯も、傷だらけでめくれ上がっていた。階段もボロボロで、片方は壊れて使用不能であり、中二階の絵には、大小様々な切り傷が付けられ、顔は損傷が激しく確認できなかった。


「泥棒かな?」


「ん?どこですかな?ん?」


「キャ〜〜〜〜!!」


大きな扉の影から、上等なカンテラを持った小さい不気味な老人が立っていた。その老人が突然声を出したため、ヒメは大声で叫び声を上げてしまった。


「ビックリしたぁ!」


「それは良かった。何事かと思いましたからねぇ。驚いただけでしたら、それは良かった」


その老人の身長はとても低く、120cm程度。猫背で頭を前に出しているので実際はもっと高いのかもしれないが、さしたる違いは無かった。


服装は黒の燕尾服。

頭の天辺はハゲており、両サイドには後ろにかけて、紺色の髪の毛が生えている。しっかりと手入れされていて、後ろへと流していた。両サイドから流れてきた髪は、後頭部で集まり上の方に跳ねていて、なかなかお洒落であった。


そして、お洒落なのか忘れているのか分からないが、眼鏡を目には掛けずに額の所まで上げている。

鼻は魔女のような鷲鼻で、左の目にはモノクルを付けている。モノクルの端からは細い鎖が下がっており、その先には小さな金のハートが象られ、それが可愛らしく風で揺れていた。モノクルがカンテラの光を反射し、片方の目だけ見えないことで、更に不気味さを醸し出していた。


そして、そして、忘れているのか、不気味さを醸し出しているのか分からないが、額の眼鏡もカンテラの光を反射していた。


「こ、こんばんは」


「とても、美しいですねぇ。とても」


老人はモノクルのハートを摘み、クイっと引きつつヒメを見ている。


「う、美しいだなんて。え〜っと……」


ヒメは突然の事で恥ずかしくなり、言葉が出てこなかった。

その老人は、ヒメを見上げながら続けた。


「実に運がいい。今日この扉を開けなければ、見ることは叶いませんでした。このように美しい月が見れるとは、実に運がいい」


「ツキですか!?運がいいだけに!?」


ヒメは乗ってしまった。自分が美しいと言われたと勘違いした、恥ずかしさを紛らわす為なのか、それとも、この老人の不思議な雰囲気がそうさせてしまったのかは分からないが。


老人はヒメの後ろの夜空に浮かぶ、満月を見ながら話を続けた。


「大変失礼いたしました。フルムーンジョークです。聖女様が美しいのは言うまでもありません。しかし、私奴はこのように美しい満月を、今まで見たことがありません。今宵は必ず、素晴らしい事が起こるでしょう。宜しくお願いいたします。

それでもやはり、自分が美しいのだと聖女様が勘違いなさる前に、真っ先に褒めるべきでした。大変失礼いたしました」


(フルムーンジョーク?宜しく?何をさせるつもりなの?)


ヒメは質問するべきか、城に入るべきか二の足を踏んでいる間に老人から声を掛けられた。


「お入り下さい。城主が今か今かと、首を長くして待っております。実際は長くはありませんが。さっさと、お入り下さい」


(ちょいちょい刺があるような……)


「……はい」


ヒメは入り口を跨いだ状態で止まっていたので、外にある足を城の中に入れた。


それと同時に、後ろから音がした。


「ひぃっ!」


扉が大きな音を立て一人でに閉まった事に驚き、その場で小さくジャンプして、息を吸うのと同時に変な声が出た。


老人はいつの間にか、エントランスの右端にある通路へと進んでいた。


どこからともなく吹いてくる冷たい風が、ヒメの頬を撫でた。

ヒメは身震いをして駆け出した。


「待って!」


通路も、やはり同様にボロボロであった。


通路奥の扉の前で老人は立ち止まった。

ヒメも遅れて、豪華だったのであろう、傷だらけの扉の前に着いた。


「この扉は他よりも酷いみたい……」


老人が扉をノックした。

すると頭に直接響くような、背筋も凍る低い声が扉の向こうから聞こえてきた。


「通せ」


「いい夜を。この先に城主様がいらっしゃいます。どうぞ宜しくお願いいたします。いい夜を」

老人はヒメに頭を下げた。


扉はまた、一人でに開いた。


「今度は騙されませんよ!そこに誰かいるんでしょ?」


ヒメは扉の裏を見た。そこには二体が、くっ付いた一体のホムンクルスがいた。


「ほらね!」


ヒメは得意げにホムンクルスに言った。


「早く入れ」


「いや、早く入れではないか?」


ホムンクルスに急かされ、中に入ると、10人掛けの長机の上に、豪華だったであろうシャンデリアが落ちていた。この部屋もボロボロではあるが、以前は美しかったのであろう面影はあった。


特に目を引いたのが、左の壁の中央にある大きな暖炉であった。

暖炉の周囲には、精巧なマントルピースの装飾があり、その美しい装飾は天井まで達していた。

暖炉の両側の装飾には、水瓶を肩に乗せた美しい女性の像が、左右対称に鏡合わせで立っていた。


「よく来てくれた聖女よ。

私はジュドウ・レ・ドラグ伯爵である」


声をかけられるまでは気付かなかったが、10人掛けの長机の一番奥、シャンデリアの向こう側に、赤い人が座っていた。


その赤い人というのは、血のように真っ赤な服を着ており、その胸元と袖口には金の刺繍が施されている。更には赤いマントを羽織り襟を立てていた。そして透き通る青白い肌、魅惑的な黄金の瞳、金色に輝く髪の毛、どこからどう見てもヴァンパイアだった。


(いきなりラスボス出た!魔王の次はヴァンパイア!全身黒じゃなくて真っ赤だけどこれは大変ですヴァンパイアといえば中盤から終盤にかけて出てくるとんでもなく強い敵なのに序盤の序盤チュートリアルに出てくる敵じゃないと思いますレベル1の私には対処不能!)


ヒメは明らかに動揺していた。それもそのはず、目の前に座っているのは、かの有名なヴァンパイアと特徴が似ていたからである。

ただ一つ違うのは、漆黒の服ではなく、血のように赤い服を着ているところであった。


そして、血のように真っ赤な液体が入ったグラスを口につけ、ニタリと笑った口元には、やはり鋭く尖った牙が生えていた。

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