第8話
昨日わたしが追いかけた万引き少年と、少し太り気味で体格のいいもう一人の少年。
彼らはゲームに夢中になるあまりこちらに気づいていないようだった。
わたしを案内した男の子が二人のそばに寄り、肩を少し乱暴に叩くと、彼らは顔を上げ、わたしを認めた。
先に口を開いたのは、前日わたしが追いかけた万引き犯の男の子だった。
「久しぶり。俺のこと憶えてる?」
と言って、彼はニッと笑う。
学校で一番嫌いな先生がするような、人を食ったような笑い方だった。
「覚えてるよ。昨日の万引き犯だろ」
「そうじゃなくて、ほら、同じクラスの」
そう言われて、わたしはある人物に思い至った。
それは、四月の中旬以来空席になっている机の主。
#桜沢__さくらざわ__##祐一__ゆういち__#という、新学期始まって一週間ほどだけ登校し、ぱったりと来なくなった生徒のことだ。
わたしと祐一は一年生と二年生の時に同じクラスだった。
当時は他の友達を含めて一緒に遊んだりしたこともあるが、あまり会話を交わした覚えはなく、緩やかなグループ内にいる様々な友人のうちの一人、というくらいの付き合いだった。別のクラスになってからは会話した覚えすらない。
「祐一?」
祐一の容姿は、一、二年生の頃と大きく変わっていたのはもちろんのこと、わたしが四月に受けた印象とも違っていた。
少し背が伸びていて、かなり日に焼けている。
やせ気味だが、顔つきはどの同級生よりもずいぶん精悍であるように思われた。
「お、覚えてるじゃん」
「こんなところでなにやってるの?」
「なんにもやってない。ただ遊んでるだけ。一日中」
「昨日みたいなことして?」
「そうだよ――そのこと、誰かにチクった?」
「いや、誰にも」
「それならよかった」
そう言って、祐一は再び笑顔を見せた。
その瞬間、わたしを案内した男の子が皮肉めいた口調で会話に割り込んでくる。
「本当によかったな、祐一」
彼はだるそうな姿勢で藤棚の柱にもたれかかっていた。
彼の言葉に祐一の笑顔は消え、彼はその様子を一瞥すると、祐一を指差しながらわたしの方に視線を向け、自慢げに言い放った。
「こいつ、かっこつけてるけど、昨日が初めてなんだぜ」
「いや、ほんと、ユノのすごさが分かったよ」
祐一が悔しそうに答えた。
「そうだろ。まぁ、数をこなせば祐一も上手くなるよ」
ユノと呼ばれた少年は万引き常習犯らしかった。
「それで、ヒロはなにしに来たんだ?」
ユノに渾名を呼ばれ、わたしは戸惑った。
「なにって、お前が来いって言ったんだろ」