第7話
わたしが無言で頷くのを見ると、彼はムッとした顔つきになり、声を張り上げた。
「俺たちはこの公園にいるから、明日来いよ」
予想外の言葉と彼の声量に気圧され、わたしは彼の目をみつめたまま黙ってしまった。それを見て、彼ら三人は同時ににやりと笑う。それがなぜだか悔しかった。
「考えとくよ」
わたしがぶっきらぼうにそう言って、彼らに背を向けてデパートの方へ歩き出すと、背後から「じゃあな」と叫ぶ声が聞こえた。
それは、真ん中の男の子の声だった。
わたしが思わず振り返ると、彼らが公園の中に入っていく後姿が見えた。
翌日、わたしは再びあの公園に行ってみることにした。
テニススクールと違い、塾は始まるまでに少し時間があり、暇を持て余すということも理由の一つだったが、わたしを動かしていたのはもっと積極的な感情だった。
授業中、幾度となく彼らの顔が思い浮かんだのだ。
粗野な、しかし、恐れを知らない不敵な言動に、わたしは不思議な魅力を感じはじめていた。
万引きの現場を見た瞬間の高揚、そして、「来いよ」とわたしを誘う言葉。
刺激的ななにかが、わたしを迎えてくれる気がしていた。
わたしは学校から急いで帰宅すると、母と挨拶を交わし、塾で使うテキストとノートを鞄に詰めた。
家を飛び出し、自転車に跨って公園に向かう。
再び公園の入口に立ったわたしの前には、やはり低学年だと思われる子供たちの姿があるばかりだった。
公園で待っているという彼の言葉の真偽に疑問を抱きながら、わたしはゆっくりと自転車を押して園内に入っていく。
わたしが園内に入るのとほぼ同時に、「おーい」という声が公園の奥から聞こえてきた。
声の主はあの真ん中にいた少年だと思われる。
しかし、彼の姿がどこにも見当たらず、わたしは困惑した。
二回目の「おーい」が左前方から聞こえてきて、視線を向けると、彼がけだるそうに右手を振り、左手をジーパンのポケットに突っ込んだままこちらに向かって歩いて来ていた。
「待ってたぞ。こっちに来い」
彼はわたしの前に立ち、粗雑な口調で早口にそう言うと、公園の奥、逆側の入口付近にわたしを案内した。
その場所は、わたしが立っていた位置からはちょうど遊具によって死角になっていた場所で、彼らのものと思われる三台の自転車が置いてあった。
どれもいわゆるママチャリだったが、二台は妙に派手な色をしていた。
彼らがたむろしている場所には藤棚の屋根が設けられたベンチがあり、残りの二人がそこに腰掛けて携帯ゲーム機に熱心な視線を注いでいた。