第49話
「親を喜ばせるためだけに満点をとれるやつがそこらじゅうにいると思ってるのか? お前は何もわかってない。今日、図書館で新聞を読んだだろ。俺もあの内容を理解したいけど、書いてあることは難しいし、漢字は読めないし、いつも二、三個記事を読んだだけで飽きる。それを、ヒロは涼しい顔して隅から隅まで読んでた。羨ましいよ。だから、ヒロにはこんなところで、ユノやカズと一緒にずぶずぶと沈んでいって欲しくないんだ」
「それを言うんだったら、祐一の方がよっぽど学校にいくべきだよ。学校なら祐一が知りたそうな難しいこと、たくさん教えてくれる。それをサボってここにいることを楽しんでるんだから、祐一は僕になにも言えないはずだ」
「楽しいもんか。確かに、一〇三号室はいい。平日の昼間にいても誰もなにも言わないし、図書館よりも静かで本に集中できる。俺は寒がりだから、クーラーがなくてもぎりぎりなんとかやっていけるしな。でも、ユノやカズといるのはちっとも楽しくない。あいつらのやることになにも言えない自分に腹が立つし、俺自身も悪いことをやっていつも後悔する。だから、脱出したいんだ。明後日、月曜から学校に行こうと思ってたんだけど……」
「……行けばいいじゃん」
わたしがそう言ったあと、祐一がしばらく返事をしないので、わたしは祐一の横顔に視線を向けた。
祐一は天を仰いでいて、わたしも空を見た。
星がいつか見た本の表紙のように広がっている。
夏の大三角形の名前を全部覚えていても、それを見つけられるかは別問題だ。
「勇気がないんだ」
星空に目を泳がしていたわたしだったが、祐一が小さな声で呟くのを聞き逃さなかった。
「学校に行くのに?」
わたしも小声で言った。
「これだけの期間休み続けたんだから、もうクラスに俺の居場所はないだろ」
このとき、本当は励ましの言葉をかけるのが王道だったのだろう。
しかし、祐一が行きたくないのなら、そして、行かなくてもよいのなら、それを選択するべきだと、このときのわたしは思った。
「じゃあ、行かなかったらいいじゃん。親も何も言わないんだよね?」
祐一の横顔に視線を戻し、わたしはそう言った。祐一が俯く。
「……最近、親が俺の状況に危機感を持ってきたらしくてさ、俺を私立の中学に行かせようとしてるんだ。公立だから環境が悪くて不登校になるってね。親が勧めてくる学校はそこまでレベルも高くないから、勉強はそこそこで入れるらしいんだけど。暇だったからその私立についてちょっと調べてみたんだ。そしたら、けっこう面白そうだった。そこそこと言っても、うちのクラスのやつは二割も入れないだろうけど」
「そこに入るために、学校に行って勉強するってこと?」
「勉強じゃなく、出席のためだけどな。さすがにある程度は小学校に行ってないと、そんな中学は入らせてくれない」




