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第46話

祐一が懐中電灯で照らす先には、山頂から降りてくる道が見えた。

舗装はされておらず、道幅も狭いので、犯人の車も速度を出せないだろう。


しかも、ユノとカズが待っているワンボックスまでの道は曲がりくねっていてかなりの遠回りを強いられる。


なるほど、これならば犯人の車を確認してからワンボックスに戻っても犯人を四人で迎え撃つことができるだろう。


わたしと祐一はそんなことを確かめ合ってから、懐中電灯の電源を切った。


犯人にこちらの存在を悟られないようにするためだ。

こちらからはヘッドライトとエンジン音で判断できる。


わたしはふと祐一の横顔に視線をやった。

薄い月明りの下で、祐一の表情はおぼろげにしかわからない。


遠方を監視する姿勢のまま、祐一が呟いた。


「俺たち、どうなるんだろうな」


意外にも、祐一の口ぶりは不安そうだった。

ゆえに、わたしも強がる必要はないと思い、本音を吐露した。


「ナイフは怖いよ」


すこし間をおいて、祐一は鼻でわたしを笑った。

そして堪えきらないとばかりに、わたしに対する嘲笑を含んだ声色で言う。


「俺は怖くないぜ。死ぬのも怖くない」


嘲笑されたことが悔しく、わたしは声を尖らせた。


「僕だって逃げたりしないよ」


わたしの強気に対して、祐一は「そうだな」と呟き、それから、「だけどさ、」と言葉を紡ぐ。


「生きて帰ったとして、そのあと、俺たちどうなるんだろうな」

「警察に表彰されるとか?」


わたしは敢えて挑発的な口調で訊いた。

祐一は小さく笑って、軽く首を横に振る。


「もっと現実的な話だよ。つまらない学校に行くのは癪だけど、本ばっかり読んでたってどうにもならないと思ってさ」


わたしは星空を見上げ、次いで真正面に視線を移した。

空と森の境界線さえ、やや曖昧になっている。


「やっぱり、学校には行かないんだ」

「ヒロは行く気なのか?」


わたしは一瞬、答えに迷った。


けれども、行かなかったからといって、他になにをするのだろう。

きっと無理にでも行かせようとする両親を振り切るのは至難の業だ。


だから、わたしは淡々とこう答えた。


「そりゃ、そうだよ」

「なんだ。ここに来てるから、てっきり学校に行く気を失くしたのかと思ってた。カズとかユノとか、俺みたいに。まぁ、あいつらはたまに行ってるみたいだけど」

「さすがに学校には行くよ。面白くはないけど、行かない理由も別にないし」


そう言ったとき、わたしの脳裏にはユノの顔が浮かんだ。

ユノがやることで、善い行動など何もなかった。

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