第44話
ユノが休憩のことを考えてくれていることにわたしが安心している横で、祐一はそう訊いた。
「スマホがある。カズとヒロのやつで二台。それを使えばいい」
わたしはポケットからスマートフォンを取り出し、電源を入れた。
山中だが、アンテナは二本立っている。
母からの不在着信が無数にあった。
ユノの答えに祐一も納得したようで、「わかった。じゃあ、ペアを決めよう」とユノに促した。
ユノの発案で、じゃんけんに勝った二人が監視、負けた二人が待機ということになり、ユノとカズが勝ってわたしと祐一が負けた。
ユノがその場で三十分交代と決める。
わたしが休憩組に入ることができてほっとしていると、カズが、
「あのダンボールどうしよ。お腹減ったし、ケーキ食べたいんだけどな」
と言ってユノを見た。
「そういえば置きっぱなしだったな。よし、ヒロか祐一にあそこまで俺らと一緒に来てもらって、この車のところに持って帰ってもらえばいいや」
ユノがそう言うと、カズは不服そうな表情を見せた。
「それじゃあ、俺とユノは食べられないじゃん」
「まぁ、その場でシュークリームの一つくらい貰えばいいだろ」
「わかった。そうする」
個数が問題なのか、ゆっくり食べられないのが嫌なのか、このときのカズは少ししょんぼりとしていた。
わたしは祐一とのじゃんけんにも敗北し、ケーキとシュークリーム入りのダンボールを取りに行かされることになった。
祐一だけをワンボックスのところに残し、わたしたちは錆びた鉄パイプを携えてダンボールを放置してきた場所に向かった。
現場に着くと、カズが率先してダンボールを開けた。
そこからユノがシュークリームを、カズはケーキを一切れわしづかみにして取っていく。
わたしは鉄パイプを右手に持ったままダンボールを左脇に抱えた。
別れ際、「あの藤本って女の子、けっこう可愛いな」とユノが言って下品な笑顔を見せつけてきたので、「僕もそう思うよ」と、まるでそうとは思っていないかのような平坦な口調と無表情で返事をしておいた。
ダンボールを抱えて帰ると、祐一は既に藤本さんと車中で談笑していた。
少しばかり嫉妬心が湧いたわたしは、「ケーキ持ってきたよ」と大声で言いながら後部座席に乗り込んだ。
わたしと祐一が藤本さんを挟むようにして座るかたちになる。
わたしたち三人はそれぞれ好みのケーキを取り、セロハンを少しずつ剥きながら手にクリームがつかないように食べた。
食べながら、たくさんの話をした。




