第43話
声色も普段通りに戻っていて、少し上ずった甘い声に、もっと話してみたいと思わせられる。
けれども、わたしに与えられた使命は仲良く話をすることではなかった。
他の三人は少し離れた位置でこの会話に耳をそばだてている。
わたしに選べる話題は一つだ。
「そのことなんだけどさ、藤本さん。誘拐犯はここに戻って来るとか言ってた?」
「言ってた。わたしをここで、ガムテープで縛りながら、すぐに戻って来るって。だから、早く逃げないと」
振り返ると、ユノがガッツポーズをするのが見えた。
祐一は心底嫌そうな顔をしている。
カズは退屈そうにつま先で地面を引っ掻いている。
わたしは藤本さんに向き直り、誘拐犯と闘う旨を告げた。
「闘うって、どうやって? 相手はナイフも持ってるのに」
ナイフという言葉に鳥肌が立ち、わたしはもう一度振り返った。
ユノがこちらに向かって親指を立て、なお闘いの意志を示しているのが見えた。
わたしは再び藤本さんの顔を見つめ、自分への励ましも兼ねて少し気取って言った。
「大丈夫、こっちは四人だし、武器もあるからなんとかなるよ」
「本当に?」
「大丈夫だって」
藤本さんは伏し目がちな、心配そうな表情をしたけれど、それが却って臆病なわたしの心を勇気づけた。
「ヒロ、とりあえず作戦会議だ」
待ちきれなくなったのか、ユノが背後からそう呼びかけてきた。
わたしは藤本さんに軽く会釈をしてワンボックスを離れ、円になって向かい合う三人の輪に入った。
ユノが作戦を語り始める。
「よし、みんないいか。さっきも言ったけど、この場所に来る方法は二つ。俺たちが通ってきた崖のルートと、道路から車で入って来るルートだ。でも、犯人はあの白い車を持ってるわけだし、ガードレールを乗り越えてここまで来る道を知ってるとも思えない。ということは、あっちから来る可能性が高い」
ユノが自信たっぷりに左手の人差し指を立て、ゴミ山の向こう側を指差した。
車で来るルートだと、どうやらこことは反対側から入ってくることになるらしい。
祐一もようやく覚悟を決めたようで、ユノの顔に視線を合わせると、軽い調子で言った。
「なるほど。そこで待ち伏せをすれば四人で一斉に犯人を襲えるってわけだな」
しかし、ユノは首と指を横に振った。
「犯人は車で来るんだから、入口では襲えない。それに、犯人はいつ帰ってくるかわからないんだ。そんなことしてちゃ体力がなくなる。いまだって、みんなかなり疲れてるはずだ。だから、二組に分かれて行動する。一組がこの車のところで休憩してるあいだ、もう一組で犯人が戻ってこないかを監視する。ある程度向こうまで行って、ゴミの山に登れば道を監視できるはずだ。犯人の車が来たら、監視組が待機組に連絡して、監視組はここまで引き返して、ここで四人で迎え撃つ」
「連絡手段はどうするんだ?」




