第42話
本当は、わたしが真っ先にガムテープによる拘束を解くべきだったのだ。
けれども、躊躇いなくガムテープを解いた祐一とユノ。
彼らのほうが、よほど藤本さんに感謝されなければならない。
しかし、藤本さんはわたしを見て安心し、涙を見せたのである。
わたしは祐一とユノの勇気に対して、後ろめたい気持ちになった。
泣きじゃくる藤本さんに誰も声をかけることができず、わたしたちは車体にもたれかかって横並びに座った。
見上げると、夜空がいつもよりも近い位置にある。
住宅街で見る夜空よりも、月が明るく、星の数もやたらに多い気がした。
「これからどうするんだ」
祐一がそう言った。
「誘拐犯はいなかったから、あの女の子を連れて帰って終わりだろ」
心底落胆した、という声色でユノが答える。
「どうやって連れて帰るんだ?」
祐一の問いかけに、ユノは黙ったまま足元の石を拾い、それを遠くに放り投げるという動作で答えた。
いい方法は思いついていないようである。
しばらく沈黙が続いたのち、祐一が自分の問いに自分で応答した。
「でも、そうか。自転車には荷台があるし、誰かが二人乗りであの女の子を運べばいい。下りの二人乗りは危ないけど、ゆっくり走れば問題ない」
興奮の理由を失ってしまったユノは渋い声色で、
「仕方ない。よし、それで帰ろう」
と言ってよろよろと立ち上がる。
祐一もゆっくりと立ち上がり、大きく伸びをした。
わたしはもう少し休憩したかったが、流れには逆らえない。
腰を上げ、深呼吸をしたそのとき、カズが座ったまま久しぶりに言葉を発した。
「犯人、戻ってくるのかなぁ」
その言葉は、ユノの心の深い場所を捉えたようだった。
「さすがカズだな」とユノはカズを見下ろして言ったあと、眉をひそめる祐一に向かい、
「あの女の子を置いておくはずがない。犯人は戻ってくる」
と力強く言い放った。
「戻ってくるから、どうしたいんだ?」
祐一は既に諦めきった表情でそう訊いた。
「もちろん、待って、やっつける」
「本当に戻って来るかも、いつ戻ってくるかもわからないんだぞ。二、三日ここに泊まるのか?」
「じゃあ、とりあえずあの女子に訊いてみればいい。なにか知ってるかも」
ユノはそう言ってわたしを肘で小突き、「ヒロ、友達なんだろ、訊いて来い」と囁いた。
後部座席を覗くと、藤本さんはもう泣き止んでいて、右手で左手首をしきりにさすっていた。
車中には入らず、わたしは外から藤本さんに話しかけた。
「藤本さん、大丈夫?」
「うん、ほんとにありがと。これからどうするの?」
藤本さんはこちらを向き、微笑みながらそう言った。
涙で潤んだ瞳に惹きつけられる。




