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第41話

わたしが見たのは、後部座席の足元で藤本さんがうつぶせになり、恐怖に目を見開いてこちらを見ている姿だった。


両手両足をガムテープで縛られている。


藤本さんは顔を引きつらせ、まるで声の出し方を忘れたかのようにあんぐりと口を開けていて、乱れた長い髪が床に垂れていた。


最初に行動したのは祐一だった。


鉄パイプを放り捨てて後部座席に入ると、身体を屈め、藤本さんの両手を縛るガムテープを力づくで引き剥がしはじめた。


それを見て、ユノが反対側のドアを開けて乗り込み、両足を縛るガムテープを剥がしはじめた。


ガムテープの粘着力はかなり強く、そのうえ、幾重にもきつく巻きつけられているようで、二人ともかなりの力を込めているのが見てとれたが、かなりてこずっていた。


手と足とを異なる方向に引っ張られ、藤本さんは小さく呻き声をあげた。


わたしはどうしても身体が動かず、二人の作業をただ見ているだけだった。


ようやくガムテープを解き終わると、くしゃくしゃに絡まったそれを祐一とユノが手の中で丸め、ゴミ山の中に放り投げた。


藤本さんの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


ユノはこちら側に戻ってきてわたしと肩を並べ、祐一は藤本さんの背中を軽く叩き、「座れよ」と声をかけてから車を降りた。


藤本さんは手足を震わせながら、生まれたばかりの子鹿を連想させる挙動で身体を起こし、座席に深く腰掛ける。


膝に手を置き、俯いたまま、藤本さんは「ありがとう」と掠れた声で呟いた。


セーラー服のような襟がついたシャツも、膝丈のスカートも皺でくしゃくしゃになっていて、土埃で汚れていた。


「富永くん、だよね?」


藤本さんはわたしを見てそう語りかけてきた。


わたしはどのように答えるべきかわからず、ただ「そうだよ」と無表情のまま返事をした。


強張っていた藤本さんの表情が少しだけ柔らかくなった気がした。


「そっか。ありがと」


そう呟いて、藤本さんは再び俯いた。


そして、彼女は泣き出した。


嗚咽をあげながら泣き、藤本さんはしきりに手の甲で涙を拭った。


わたしが富永広明だということを確認して、ようやく助けられたことを現実として受け入れられたのかもしれないとわたしは想像した。


同時に、藤本さんのうっ血した手首と足首を見て、わたしはいたたまれない気持ちになった。


藤本さんは裸足で、見える範囲に靴は見当たらない。


「知り合いか?」


ユノが訊いてきた。


「そうだけど」


と答えながら、わたしは拳を握り締める。


わたしは強く後悔していた。

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