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第38話

風は涼やかだが、汗でべとべとのシャツを乾かしきるのには時間がかかりそうだった。


そんな疲労困憊のわたしには信じられないことに、ユノとカズはなおも不敵な微笑を浮かべている。


カズに至っては、それがさも当然というようにダンボール箱を荷台から降ろし、小脇に抱えていた。


そして、ユノとカズとは対照的に、祐一は無表情で森を見つめていた。


ユノはガードレールに両手をついて下方を確認すると、その態勢のまま横を向き、早口に説明を始めた。


「ガードレールを越えてすぐに坂があって、そこを下りるとしばらく平坦な道になってる。その道を進むとゴミ捨て場があるんだ。そこに隠れる場所がある。車だと山頂を越えてあっち側から回らなきゃ入れないけど、歩いていくならここからが早い。まぁ、ついてくれば分かる」


言い終わるやいなや、ユノはガードレールを跨いで乗り越えた。

自転車のカゴに入れたままの鞄は持っていかないつもりらしい。


カズ、祐一も躊躇を見せることなくそれに続く。

わたしは少し躊躇ったが、後戻りする選択肢もないと思い、三人に続いた。


ガードレールを乗り越えて着地すると、柔らかな土の感触を靴越しに感じられる。


「ここを下りる」


と言ってユノは下方を指差した。


指の角度は四十五度と直角のちょうど間くらいで、その指先が示しているのは、坂というより崖だった。


街灯のおかげで、ほんのりとだけ崖下の地面が見えている。

崖の高さはおおよそ五メートルくらいに感じられた。

もちろん、上から見下ろしていたので、実際はそれよりも低かったに違いない。


わたしが恐怖に身を竦ませているのを尻目に、ユノはさっそく崖を下り始めた。


崖の斜面に身体の正面を張り付けるようにして、木の根や突き出た石、金属製のパイプのようなものに手足を引っかけながら、器用に下りていく。


カズもユノのすぐあとに続いた。


大きい図体からは想像できない巧みな身体捌きで、片腕に抱えているダンボール箱を平行に保ったまま下りるという曲芸をカズは見せた。


祐一は二人の半分ほどの速度で、両手両足を慎重に動かしながらゆっくりと下りていった。


わたしはさらにそのあとから、三人の通った場所をなぞるようにして下りた。


眼下に見える地面との距離に身体は強張り、唐突に鳴きだした虫の音に驚いて足を踏み外しそうにもなった。


わたしが着地するのを見届けると、ユノは盗品の懐中電灯をポケットから取り出し、休む素振りも見せずに森の奥へと歩き出す。

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